小石川
修学旅行の宿が、時間旅行の宿へ
鳳明館本館
白山通りと東大との間の一帯は、明治時代末、500軒もの下宿屋が並ぶ東京最大の下宿街だった。昭和初期に下宿から旅館への転業が進み、1928年時点では約120軒もの旅館があったという。築120年以上の鳳明館本館ならびに二つの別館は歴史の語り部的な存在としてこの街に残る。
海外からのゲストも若者も感動の昭和空間
白山通りの東側、東大方面へと向かう坂道には、新しい戸建て住宅やマンションが立ち並ぶ。その中に周囲とは異質な空気感をまとって佇む大きな木造建築が、国の登録有形文化財でもある旅館、鳳明館本館である。
明治後期の1898年に下宿屋として建てられた鳳明館本館は、昭和初期に下宿と旅館を兼ねた施設に業態を改め、戦後に団体旅行向けの旅館へと増改築が行われた。団体旅行用につくられたロビーは中庭を改めたもの。下宿兼旅館だった時代は、中庭を囲んで部屋が並んでいた。レトロなタイルの浴室も団体旅行用の増築だ。
これらの改築は街の歴史でもある。明治時代末には近隣一帯に500軒もの下宿が並び、昭和初期には旅館への転業が相次いだ。その多くは戦争中に失われたが、残った旅館は戦後全国からの旅行者を受け入れた。宿泊団体には農協、皇居奉仕団、戦没者遺族会などがあったが、メインは修学旅行。鳳明館は本館と別館2つを合わせ最大約1200名の学生を収容した。
ところが、修学旅行の行き先や宿泊先の多様化、少子化に加え、団体旅行から個人旅行への風潮が界隈の旅館には逆風となる。平成に入り次々と昔ながらの和風旅館が廃業していく中、唯一残った鳳明館も、コロナ禍の2021年、廃業を決意。建物を取り壊してマンションにする計画を進めていると、地元で建設業を営む松下産業グループが「地域の歴史と文化の保存のために」と引き止め、事業を受け継いだ。
現在は修繕工事に備えデイユースのみで営業している。大曽根美代子支配人は、「デイユースならではの敷居の低さを活かし気軽に利用していただき、宿泊施設の概念を超えた『スペース』としての新しい活用法を広げていきたい」と語る。すでに新しい試みとして、館内の見どころを案内するツアーの提供や東大の学生や地元団体とのコラボイベントなどを開催。リモートワークやミーティングのほか、海外からのゲストに異文化体験を提供する企画や、未来小説の読書会など、特別な場所を求める人々に喜ばれている。
昭和を感じさせるものを「エモい」と呼ぶ若者には、鳳明館本館はエモの塊のはず。大曽根支配人は「旅館建築の楽しさに加えて、地域の歴史的・文化的観光資源の面白さを紹介し、『文の京』である文京区の魅力を発信する場になれば」と今後の広がりに期待をこめる。
協力:鳳明館本館
(文京区本郷5-10-5 Tel. 03-3811-1181)
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小石川エリア全体MAP
REAL PLAN NEWS No.122 掲載