税務セミナー

店舗・事務所用建物の貸主における消費税の「2割特例」

令和5年10月1日より、消費税の「インボイス制度」(「適格請求書等保存方式」)がスタートします。インボイス制度のスタートに伴い、免税事業者(下記1(注)参照)である店舗・事務所用建物の貸主がインボイス(適格請求書)の発行事業者になるために課税事業者となった場合の税負担・事務負担を軽減するため、令和5年度税制改正により、課税売上に対する消費税額の2割を納税額とする特例(以下「2割特例」)が設けられました。今回は、この2割特例のポイントについて解説します。

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1. 適格請求書等保存方式の概要

(1)借主における適格請求書等保存方式のポイント

消費税の納付税額は、原則、課税期間(個人事業者は原則、その年1月1日~12月31日、法人はその事業年度)中の消費税が課税される取引(課税売上)に係る消費税額から、事業に係る資産の取得やサービスの提供を受けること(課税仕入れ等)に係る消費税額を控除(仕入税額控除)して計算します(以下この課税方式を「原則課税」といいます)。令和5年10月1日から、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として、「適格請求書等保存方式」が導入されます。適格請求書等保存方式では、事業者による適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります。したがって店舗・事務所用建物を賃借する借主が、支払家賃に係る消費税について仕入税額控除を行うためには、適格請求書の保存が必要になります。

(2)貸主における適格請求書等保存方式のポイント

適格請求書を交付できるのは、「適格請求書発行事業者」に限られます。店舗建物の貸主が適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に申請して登録を受ける必要があります。この適格請求書発行事業者の登録ができるのは、課税事業者のみです。したがって、免税事業者(注)が適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります。

適格請求書等保存方式が導入される令和5年10月1日から登録を受けるためには、令和5年9月30日までに登録申請書を提出する必要があります。

(注)免税事業者とは、基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年の法人の場合はその事業年度の前々事業年度)における課税売上が税抜で1,000万円以下であることにより消費税の納税義務が免除されている事業者をいいます。

2. 2割特例の概要

(1)概要

上記1(2)のように免税事業者が適格請求書発行事業者となるために課税事業者を選択した場合の負担軽減を図るため、納税額を軽減する特例が設けられました。具体的には、その課税事業者の消費税の計算上、課税売上げに対する消費税額から控除する仕入税額控除の金額を、特別控除税額(原則、課税売上げに対する消費税額の8割相当額)とすることができます。この2割特例の適用を受けることにより、消費税の納税額が課税売上げに対する税額の2割とされ、原則課税や簡易課税(注)による税額計算に比べて税負担が大幅に軽減されます(図参照)。

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(注)簡易課税とは、基準期間の課税売上が税抜で5,000万円以下の事業者が、選択により、課税売上に一定のみなし仕入率(不動産賃貸業は40%)を掛けて仕入税額控除の金額を計算する方法です。

(2)2割特例を適用できる期間

2割特例を適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間の各課税期間となります。例えば、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受ける場合、令和5年10月1日から課税事業者となりますが、この場合には令和5年分(10月1日~12月31日分)、令和6年分、令和7年分から令和8年分までの計4回の申告が適用対象の範囲となります。

(3)2割特例の適用が受けられない場合

2割特例は、免税事業者が適格請求書発行事業者となることにより課税事業者に該当する場合を想定して設けられた特例です。したがって、上記(2)の2割特例を適用できる期間であっても、基準期間における課税売上が1,000万円を超える課税期間は適格請求書発行事業者とならなくとも課税事業者に該当することから、その適用を受けることはできません。

また、2割特例は消費税申告の経験のない免税事業者が課税事業者になることを考慮し、申告事務負担の軽減のために設けられた税制です。したがって調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者など適格請求書発行事業者の登録と関係なく課税事業者となる場合や、課税期間を1ヶ月又は3ヶ月に短縮する特例の適用を受ける事業者などについては、消費税申告の事務能力が備わっていると考えられることから、2割特例の対象とはなりません。

(4)2割特例の適用を受ける手続き

2割特例の適用に当たっては事前の届出は必要なく、消費税の申告時に消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができます。また、原則課税と簡易課税のいずれを選択している場合でも適用を受けることができます。

3. 2割特例適用後に簡易課税の選択をする場合

簡易課税の適用を受けようとする課税事業者は、原則、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに税務署に消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。ただし、2割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者が、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税の適用を受けようとする場合は、特例として、その適用を受けようとする課税期間の末日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出することにより、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。

(税理士・社会保険労務士・宅地建物取引士) 山崎 信義 (税理士・社会保険労務士・宅地建物取引士)

税理士法人タクトコンサルティング情報企画部長。
相続・事業承継、不動産の譲渡などの税務コンサルティングをはじめ、執筆・講演などを担当。

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