
借地権と底地(貸付地)を交換した場合の所得税の交換特例等の取扱い
土地の権利関係の整理のため、土地オーナーが所有する土地の借地権者との間で、底地(貸付地)と借地権の交換を行う場合があります。個人が固定資産の交換を行った場合、交換により譲渡する資産の含み益については、譲渡所得等の金額として所得税が課税するのが原則ですが、一定の要件を満たす場合には、譲渡がなかったものとする特例(以下「交換特例」)が所得税法に設けられています。今回は、借地権と底地(貸付地)を交換した場合の所得税の交換特例等の取扱いについて、事例を交えて解説します。
1. 交換特例の概要
個人が資産の交換を行った場合、交換も譲渡の一種であるため、原則として交換により譲渡する資産の含み益については、譲渡所得等の金額として所得税が課税されます。ただし、所得税法第58条において、個人が1年以上有していた固定資産を他の者が1年以上有していた固定資産と交換し、その交換により取得した固定資産(以下「交換取得資産」という。)をその交換により譲渡した固定資産(以下「交換譲渡資産」という。)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には、当該譲渡資産の「譲渡がなかったもの」として所得税を課税しない特例が設けられています。これが交換特例です。
この場合の、「同一の用途に供する」とは、例えば交換により譲渡した土地(借地権を含みます)が「宅地」であれば、交換取得した土地を「宅地」として使用すれば“同一の用途に供した”こととなります。
2. 事例による交換特例等の適用
甲さんは30年前から所有する土地を乙さんに普通借地契約により賃貸し、乙さんはその借地上に自宅を建てて居住していました。このたび、甲さんは乙さんと、その土地(底地)の一部と借地権の一部を交換することにしました。その交換後は、甲さんは借地権の付かない完全所有権となったその土地を引き続き所有し、乙さんは所有権を有することになったその土地を自宅とともに上場会社の㈱丙に譲渡する予定です。この場合において、甲さんは交換特例の適用を受け、乙さんは所得税の交換特例の適用を受けずに居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除(租税特別措置法35条1項。以下「3,000万円控除」)の適用を受けようと考えていますが、可能でしょうか。なお、甲さんと乙さんは親戚等ではなく、第三者の関係です。

甲さんは自らが交換によって取得した借地権を、交換によって譲渡した底地の交換直前と同一の用途に供することから、他の要件を満たすことにより交換特例の適用を受けることができます。一方、乙さんは、交換特例の適用を受けないことから、他の要件を満たすことにより3,000万円控除の適用を受けることができます。
【解説1】甲さんが交換特例の適用を受けることができる理由
1の通り、交換特例の適用要件の1つに、交換取得資産は交換譲渡資産のその譲渡直前の用途と同一の用途に供しなければならない、というのがあります。
乙さんは交換によって甲さんから取得した土地(底地)をその交換直後に譲渡するいうことですから,乙さんは底地を交換譲渡直前の用途と同一の用途に供したとはいえず、交換特例の適用を受けることはできません。しかし、この要件は、交換によって資産を取得した人自身が、その交換で取得した資産を交換による譲渡直前の用途と同一の用途に供することをいうのであり、交換の相手方がその交換で取得した資産を交換による譲渡直前の用途と同一の用途に供することを要求するものではありません。
したがって、甲さんは、交換の相手方である乙さんが、交換取得資産(底地)を交換譲渡資産(借地権)の交換直前と同一の用途に供することなく他に譲渡した場合であっても、自らが交換によって取得した資産(借地権)を、交換によって譲渡した資産(底地)の交換直前と同一の用途に供するなどの要件を満たしている限り、交換特例の適用が認められます。
【解説2】乙さんが3,000万円控除の適用を受けることができる理由
3,000万円控除は、個人が自己の居住用家屋と敷地を併せて譲渡した場合、一定の要件を満たすことにより譲渡所得の計算上、最高3,000万円が控除される特例です。ただし、その譲渡について、交換特例の適用を受ける場合には、3,000万円控除の適用を受けることができません。
乙さんの場合は、ご自身が居住する家屋の敷地(借地権)と他人(甲さん)の有する土地(借地)との交換後、所有権を有する土地を譲渡することから、交換取得資産(底地)を交換譲渡資産(借地権)の交換譲渡直前の用途と同一の用途に供したとはいえず、交換特例の適用を受けることはできません。このため、他の要件を満たす限り、3,000万円控除の適用を受けることができます。
(税理士・社会保険労務士・宅地建物取引士)山崎 信義(税理士・社会保険労務士・宅地建物取引士)
税理士法人タクトコンサルティング情報企画部長。
相続・事業承継、不動産の譲渡などの税務コンサルティングをはじめ、執筆・講演などを担当。
リアルプランでは、税理士、弁護士をはじめとした各エキスパートとネットワークを形成。
皆様の資産の将来を見据えた資産形成のお手伝いを致しております。