税務セミナー

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例

-極めて高い水準の所得に対する負担の適正化-

税負担の公平性を確保する観点から、令和7年分以後の所得税につき、極めて高い金額の所得に対する最低限の負担を求める措置として、「特定の基準所得金額の課税の特例」(以下「本特例」)が導入されています(租税特別措置法41条の19)。個人が長年保有していた不動産の譲渡により多額の利益が生じる場合には、本特例が適用されるおそれがありますので、注意が必要です。今回は、本特例について、事例を交えて解説します。

  1. リアルプラン
  2. REAL PLAN NEWS
  3. No.126
  4. 所得税の特定の基準所得金額の課税の特例 -極めて高い水準の所得に対する負担の適正化- - 税務セミナー

1. 本特例のしくみ

(1)概要

基準所得金額((2)参照)が3億3,000万円を超える場合は、①の算式で計算した金額から②の基準所得税額((3)参照)を控除した金額に相当する所得税が追加で課されます。

① (その年分の基準所得金額 - 3億3,000万円) × 22.5%
② その年分の基準所得税額

(2)基準所得金額とは

上記①の「基準所得金額」は、具体的にはその年分の所得税につき申告不要制度(注)を適用しないで計算した所得金額(特別控除額控除後の額をいい、源泉分離課税の対象となる利子所得の金額や、NISA制度等により非課税とされる金額を除く。)の合計額をいいます。例えば不動産所得や給与所得が含まれる総所得金額、退職所得の金額、土地建物等の長期譲渡所得の金額(特別控除の適用がある場合には、その控除後の金額)、土地建物等の短期譲渡所得の金額(特別控除の適用がある場合には、その控除後の金額)、上場株式等に係る譲渡所得等の金額、(上場株式等以外の)一般株式等に係る譲渡所得等の金額などが、基準所得金額に含まれます。

(注)「申告不要制度」とは、源泉徴収あり特定口座内で上場株式の配当(配当所得)を取得した場合や譲渡による所得(株式譲渡所得)が生じた場合に、確定申告が不要とすることができる特例をいいます。

(3)基準所得税額とは

上記②の「基準所得税額」は、その年分の基準所得金額に係る所得税額(外国税額控除等を適用しない場合の所得税額をいい、附帯税および本特例に係る税額を除く。)をいいます。

2. 本特例の対象となる譲渡所得金額の水準

前記1(1)①の「22.5%」の水準は、総合課税の対象となる所得税の税率の最高税率45%の2分の1としたものです。これは、所得税法において総合課税の対象とされる長期譲渡所得の金額については、その2分の1を総所得金額として計算していること(=実質的な最高税率22.5%)から、租税特別措置法において株式譲渡所得等や土地・建物等の長期譲渡所得に対して適用される比例税率15%と比較し、22.5%を下回る部分について負担を求めること等を考慮して設定されています。

以上の点を踏まえ、個人が株式譲渡所得等の金額や土地・建物等の長期譲渡所得のみを有する場合や、所得の大部分がこれらの譲渡所得等の金額である場合、所得の合計額が10億円を超えると、通常の譲渡所得に対する15%税率による税額に加えて、本特例による追加の所得税を納めることになります(下記3参照)。

3. 本特例に係る所得税の計算例

個人が長年保有していた賃貸不動産を売却し、多額の利益(長期譲渡所得)が生じた場合における、本特例に係る所得税の計算は以下の通りになります。

【ケース1】
令和7年分の不動産所得の金額1,200万円、所得控除の合計額200万円、土地の譲渡に係る長期譲渡所得の金額10億円の場合
① 1,200万円 + 10億円 > 3.3億円 ∴本特例の適用あり
② (1,200万円 + 10億円 - 3.3億円) × 22.5% = 153,450,000円
③ 不動産所得の金額1,200万円、所得控除の合計額200万円の場合の課税総所得金額に対する所得税額
  (1,200万円 - 200万円) × 33% - 153.6万円 = 1,764,000円
④ 長期譲渡所得の金額10億円に対する所得税(税率15%)
  10億円 × 15% = 150,000,000円
⑤ ③ + ④ = 151,764,000円
⑥ 追加で課される所得税
  ② - ⑤ = 1,686,000円

【ケース2】
令和7年分の不動産所得の金額が5,000万円、所得控除の合計額200万円、長期譲渡所得の金額15億円の場合
① 5,000万円 + 15億円 > 3.3億円 ∴ ∴本特例の適用あり
② (5,000万円 + 15億円 - 3.3億円) × 22.5% = 274,500,000円
③ 不動産所得の金額5,000万円、所得控除の合計額が200万円の場合の所得税
  (5,000万円 - 200万円) × 45% - 479.6万円 = 16,804,000円
④ 土地建物等の長期譲渡所得の金額15億円に対する所得税(税率15%)
  15億円 × 15% = 225,000,000円
⑤ ③ + ④ = 241,804,000円
⑥ 追加で課される所得税
  ② - ⑤ = 32,696,000円

4. 相続税の納税資金対策と本特例

相続税の納税資金の捻出のため、相続人が相続で取得した不動産を譲渡する場合がありますが、そのような場合であっても、10億円以上の多額の長期譲渡所得が生じる場合には、本特例が適用されるおそれがあります。本特例の適用の有無により税引き後の手取り額に影響を及ぼすことになりますので、注意が必要です。

(税理士・社会保険労務士・宅地建物取引士)山崎 信義(税理士・社会保険労務士・宅地建物取引士)

税理士法人タクトコンサルティング情報企画部長。
相続・事業承継、不動産の譲渡などの税務コンサルティングをはじめ、執筆・講演などを担当。

リアルプランでは、税理士、弁護士をはじめとした各エキスパートとネットワークを形成。

皆様の資産の将来を見据えた資産形成のお手伝いを致しております。

  1. リアルプラン
  2. REAL PLAN NEWS
  3. No.126
  4. 所得税の特定の基準所得金額の課税の特例 -極めて高い水準の所得に対する負担の適正化- - 税務セミナー
トップに戻る