StoryEssay / 2017 09,04Part.1

自由が丘同棲作戦会議

別々の場所で生まれ育ち、そして上京して出会った、とあるカップル。そんなありふれたふたりが「東京」という街で共に暮らしていく些細な日常を、ライター・カツセマサヒコさんが丁寧に描くショートストーリーです。

カツセマサヒコ

フリーライター。1986年東京うまれ。編集プロダクション・プレスラボでのライター経験を経て、2017年4月に独立。広告記事、取材記事、エッセイ、物語等の企画・取材・執筆を行う。Twitterでの恋愛・妄想ツイートが10~20代前半の女性の間で話題を呼び、フォロワーは現在10万人を超える。
趣味はスマホの充電。

story_img1

「中目黒がいいよ、中目黒」

何か確信を持った顔で、彼女は言う。
自由が丘駅が一望できるカフェ。彼女がひとり暮らしをしているアパートから7~8分歩いたその場所で、僕らは未来の作戦会議をしていた。

「なんで、中目黒?」
あまり良い印象がないその街に住みたがる理由を、彼女に尋ねる。

「蔦屋書店ができたばっかりで、楽しいから」
実にシンプルで、何の説得力もない回答を、さも当然のように答えた。

「でた、東京憧れミーハーガール」
「いやいやいや、わかってない。いいですか? たとえば終電まで飲んだ帰り道、ふたりで最寄駅に着いたら何がしたい?」
「まっすぐ帰って、シャワー浴びて、して、寝る」
「なにそれ、つまんな!」
「じゃあ、シャワー浴びる前に、する……?」
「バカなんじゃないの」
「すみません」

いつもほとんどの会話で僕が謝って終わるのは、僕がボケ担当であり、彼女が(とても鋭い)ツッコミ担当であることが、1年半前からなんとなく決まっているからである。

story_img2

出会ったのは、2年前だった。

25歳だった僕と23歳だった彼女は、俗にいう異業種交流会(間違っても合コンではない)で意識高く対面し、意識低く酒を飲んで意気投合した。周りが「どうしたら世界で活躍できる人材になれるか」というテーマで盛り上がるなか、僕らは「会社のパソコンがインターネットエクスプローラーしか使えない」という共通項を見つけて大はしゃぎしていた。

翌週には、「ブラック企業勤めのわたしたちにピッタリかもしれない」という話により、ふたりで映画の『マイ・インターン』を見に行った。そこそこ感動していた僕をよそに「あのハッピーエンドは強引すぎる」といつまでも文句を言う彼女に何故か惹かれ、その翌週にはお互いを彼氏・彼女だと認識するようになっていた。

ドラマチックでもなんでもなかった。お互い、地方から上京してきた身で、僕は上板橋にある何の変哲もない住宅街に住み、彼女は自由が丘の閑静な高級住宅街に住んでいた。僕は無印良品とニトリで揃えた部屋に住み、彼女はfrancfrancとIKEAの家具に囲まれた家に住んだ。とにかく無難に歩む僕と、何かと可憐な生き方を望む彼女が、無難にも可憐にも生きられる東京という街でひっそりと出会った。

story_img3

「もう、ふたりで住んだほうが早くない?」

同棲という選択を重く考える理由なんて、僕らにはなかった。
立地の関係で彼女の家に泊まることは多かったものの、入り浸ることは極力避けていた僕は、二拠点生活のような暮らしにも辟易としてしまっていた。その日も、どの荷物を自宅に持ち帰り、どの靴を彼女の家に置いていこうか悩んでいたところだった。

「あと2カ月くらいで契約更新だから、そのタイミングで、少し広めの部屋を借りようよ」

理想的と思えたその提案を断るわけもなく、僕らは同棲生活に向けて動き出した。

そして今、第1回同棲会議として、彼女の最初のプレゼンが始まったところである。