抵当権抹消手続きを自分で行う方法を4つのステップで解説!

抵当権抹消手続きは専門家に依頼することができますが、自分で済ませられる場合もあります。どちらにしても、抵当権抹消手続きには時間が必要なため、事前に知識を蓄え、手順を把握しておくと安心です。今回は、抵当権抹消手続きの方法や費用などについてご紹介します。

目次
  1. 住宅ローンの完済後に行う抵当権抹消手続き
  2. 抵当権抹消手続きをしないとどうなる?
  3. 抵当権抹消手続きの流れ
  4. 抵当権抹消手続きにかかる費用は?
  5. 抵当権抹消手続きをするときの注意点
  6. 抵当権抹消手続きは早めに済ませることが重要!
記事カテゴリ 売却 費用 ローン
2023.02.20

住宅ローンの完済後に行う抵当権抹消手続き

住宅ローンを完済した後、必要な手続きに抵当権抹消登記というものがあります。この抵当権抹消登記の手続きは、不動産売却時や新たに融資を受けるとき、相続するケースなどでも必要になります。抹消登記の手続きは専門家に依頼することができますが、自分で行うことも可能です。どちらにしても、手続きには時間が必要ですので、事前に知識を蓄えておくと安心ですよ。今回は、抵当権抹消手続きの方法や流れ、必要になる場面、注意点などについてご紹介します。

抵当権とは住宅ローンの担保

抵当権とは、住宅ローンの返済が約束通りに行われなかったときに備えて、土地や建物などの不動産を担保にする権利のことです。住宅ローンを貸し出す金融機関は、抵当権を設定しておくことで、土地や建物を住宅ローンの返済が滞ったときの担保にすることができます。債務者(住宅ローンを借り入れしている個人)が住宅ローン以外に借金をしたとしても、抵当権を設定した不動産の売却代金から優先的にお金を回収することができるのです。

抵当権を実行する権利は債権者である金融機関側にありますが、抵当権を設定するのは、債務者である住宅ローンを組む個人になります。なお、債権者のことを抵当権者または、義務者といい、債務者のことを所有者または、権利者と呼びます。

金融機関が抵当権に設定する対象は、大きく以下の3つに限定されています。

・土地や建物の所有権(不動産を所有する権利)
・地上権(土地を使う権利)
・永小作権(他人の土地で耕作・牧畜する権利)

住宅ローンの契約時に以上のなかから設定されますが、返済元本だけでなく、利息分も担保しています。

前述の通り、抵当権を設定するのは、住宅ローンを借り入れている債務者ですが、司法書士や弁護士などの専門家に依頼するのが一般的です。

また、抵当権の設定には費用がかかります。費用の内訳は、登録免許税、登記謄本代などといった登記費用と、調査費用や交通費などの雑費となります。そのうえで専門家に登記を依頼した場合には別途報酬が発生します。ちなみに、司法書士に依頼する際の報酬の相場は、1〜2万円程度です。「できるだけ節約したい」という人もいるかと思いますが、専門家に依頼をすることで、必要書類を作成する時間や手間を軽減できたり、不備なく正確に手続きを進められたりするメリットがあります。どの司法書士に依頼すればよいか分からない場合は、不動産会社が紹介してくれることもあります。

また、根抵当権も抵当権の1つです。根抵当権とは、あらかじめ「限度額」を決めておき、その範囲内で何度も債権者となる金融機関へ借り入れと返済を繰り返し行うことができる権利のことです。

家の模型と現金

住宅ローンを完済したら「抹消」できる

抵当権は、住宅ローンを利用する際に借り入れの担保として設定されますが、住宅ローンを完済すると抹消することができます。ただし、「住宅ローンを完済すれば自動的に抵当権がなくなる」というわけではなく、抵当権抹消登記を行うことで登記上からも設定が解除されます。

なお、抵当権を抹消せずにそのままにしておくことは、おすすめできません。なぜなら、抵当権を抹消しないと、以下の問題が起こる可能性があるからです。

・不動産売買ができない
・新規ローンの審査が通らない
・相続がスムーズにいかない

上記の件については、後ほど詳しく解説します。ちなみに、根抵当権については、何度も繰り返し借り入れできるため、1度完済しただけでは抹消することはできません。抹消するためには、金融機関の合意が必要となります。

抵当権抹消手続きをしないとどうなる?

先ほどお伝えしたように、住宅ローンを完済しても、不動産に抵当権が設定されたままだと、不都合が起きる場合があります。ここでは、抵当権抹消手続きが必要なパターンについてご紹介していきます。

考える人たち

不動産を売却する場合

設定されている抵当権を抹消しないと、不動産売却が難しくなることがあります。抵当権が設定されていることで、売却予定の不動産がいつ債権者に差し押さえられるのか分からず、新たな買い手が付きにくくなってしまうからです。また、仮に購入希望者が現れたとしても、抵当権が設定されたままの不動産はローン審査に通らず、購入してもらえない恐れがあります。

新たに融資を受ける場合

住宅ローンとは別に、同じ不動産を担保として新たに融資を受ける場合にも、抵当権は抹消しておくほうがよいでしょう。担保にする予定の土地や建物に既に抵当権が設定されていると、審査に通らない恐れがあるからです。もし、住宅ローンを完済していても、抵当権抹消の手続きを忘れていると、その証明に時間がかかり、融資の手続きが滞ってしまうことがあります。

相続する場合

相続する不動産に抵当権が残っていると、相続がスムーズに行えない可能性があるので注意しましょう。基本的に抵当権付きの不動産を相続するときは、まず相続登記を行う必要があり、相続登記を行うことで所有権を移転させることができます。相続登記を済ませたら、抵当権抹消手続きに移ります。1つの不動産に対して、相続人が複数いる場合は、抵当権抹消手続きも複数人で行う必要があります。

相続する不動産が抵当権付きかどうか調べるには、登記簿謄本で確認することができます。登記簿謄本を取得し、乙区欄を確認しましょう。登記簿謄本は最寄りの法務局、または法務局のホームページ、郵送、登記情報提供サービスなどで取得することができます。

住宅ローンを完済しているにもかかわらず、抵当権をそのままにしていた場合は抵当権抹消手続きをするようにしましょう。住宅ローンの残債があっても、被相続人が団体信用生命保険に入っている場合は、団体信用生命保険によって、住宅ローンが完済されます。団体信用生命保険とは、住宅ローン契約時に加入できる保険のことで、契約者が死亡した場合、住宅ローンの残債を免除し、遺族に住宅を残すことができる保険のことです。

一方で、団体信用生命保険にも加入していなければ、借金も含めて相続するか、放棄するかを検討しなくてはなりません。これらの手続きの費用は相続人が負担する必要があります。

●所有権移転登記についてはこちら
所有権移転登記とは?かかる費用と必要書類、手続き方法について解説

抵当権抹消手続きの流れ

抵当権抹消手続きは、以下の4つのステップで進めます。

[ 1 ] 必要書類を準備する
[ 2 ] 管轄の法務局を調べる
[ 3 ] 申請書をダウンロードし、記入する
[ 4 ] 法務局へ申請する

以下で抵当権抹消手続きの4つの流れについて、詳しく説明していきます。

打ち合わせをする男性2人

[ 1 ] 必要書類を準備する

まずは必要な書類を準備しましょう。必要な書類は以下の通りです。

・登記申請書
・登記済証または登記識別情報
・登記原因証明情報または、弁済証書
・抵当権抹消の委任状
・場合によっては銀行の資格証明書

登記申請書とは、住宅ローン完済による抵当権抹消や、相続による所有者移転など、不動産の情報が更新された際に作成し、提出しなければいけない書類のことです。申請方法はオンラインと書面による申請の2パターンがあり、いずれも法務局に提出します。

登記済証または登記識別情報とは、抵当権を設定した際に、法務局から発行される書類を指します。抵当権を設定した際には金融機関が保管し、住宅ローン完済後には所有者の住所へ送られることになっています。

登記済権利証

現在は登記識別情報が発行されることが一般的ですが、法務局によっては登記済証が発行されていた時期もあります。抵当権を設定した年代によって送られてくる書類が異なりますが、必ずどちらかを用意しましょう。

また、どういった理由で登記を行うのかを証明する情報を登記原因証明情報といいます。抵当権抹消の登記理由を証明できれば、書類のタイトルが登記原因証明情報である必要はありません。たとえば、弁済証明書でも登記原因証明情報となります。

弁済証書とは、住宅ローンの完済を証明する書類を指します。住宅ローンを完済して抵当権を抹消する場合は「弁済」が登記原因となり、銀行から送られてくる弁済証書を法務局へ提出しなければなりません。

ちなみに、弁済証書ではなく「解除証書」が送られてくるケースもあります。これは、銀行の保証会社が抵当権を設定している場合に多いですが、住宅ローンの完済に伴い保証委託契約が解除されたときに送られてくる書類です。

委任状とは、住宅ローンを組んだ銀行が、抵当権抹消に関する登記を委任するための書類を指します。原則として、登記申請書の申請は、不動産の抵当権者と所有者とで行います。しかし、抵当権抹消登記の場合、一般的には銀行から送られてくる委任状を用いて所有者が手続きを行います。

場合によっては、銀行の登記事項証明書が銀行から送られてくることもあります。登記事項証明書は、「代表者事項証明書」「現在事項全部証明書」「履歴事項全部証明書」「商業登記簿謄本」と呼ばれるものを指し、有効期限は発行から3か月以内です。

委任状

[ 2 ] 管轄の法務局を調べる

不動産がある場所によって管轄している法務局が異なります。手続きを行う法務局を調べましょう。管轄の法務局は、法務局のホームページから確認できます。※1

[ 3 ] 登記申請書に記入する

入手しておいた登記申請書に必要事項を記入しましょう。ちなみに、登記申請書は法務局にも置いてありますが、ダウンロードすれば、ご自宅や会社で入手することができます。登記申請書には下記の項目を記入します。

・登記の目的
・原因
・抹消すべき登記
・権利者、義務者
・添付情報
・申請日と申請人兼義務者代理人
・登録免許税
・不動産の表示

法務局のホームページでは、登記申請書の記載例がダウンロードできるようになっているので、参考にしながら記入していきましょう。

登記申請書

[ 4 ] 法務局へ申請する

必要な書類の準備が完了したら、法務局へ提出し、抵当権抹消登記を申請します。申請してから審査が通るまでの期間は、1~10日ほどです。申請は法務局の窓口へ直接持っていくか、郵送でできます。マイナンバーカードを持っている場合は、オンラインでの申請も可能です。オンラインの場合、申請の受付から2日以内に書類を送付するか、登記所に行き、提出する必要があります。書き方が分からなかったり、不安なことがあったりする場合は法務局の窓口に直接行くのがおすすめです。書類に不備や誤りなどがあれば、担当者が教えてくれますよ。

抵当権抹消手続きにかかる費用は?

抵当権抹消の手続きには費用がかかります。抵当権抹消登記にかかる費用は、不動産の数にもよりますが、相場は2000~5000円程度です。内訳を以下でご紹介します。

登録免許税(1000円 / 不動産1件)

登録免許税とは、登記を申請する際にかかる税金を指します。抵当権抹消登記にかかる登録免許税は不動産1件につき1000円です。一戸建て住宅の場合、一般的には土地と建物の両方に抵当権が設定されています。そのため、2000円が必要になります必要な金額分、購入した収入印紙を、台紙に貼り付けて登記申請書と提出します。

ここで注意したいのは、1つの建物の土地が複数に分かれている場合もあるということです。登記簿上、別の不動産扱いになるため、登録免許税の経費も土地の数×1000円の計算となるので気を付けましょう。マンションの場合も、土地がまたがっている可能性があります。その場合、支払う登録免許税額が増えることがあるので、あらかじめ確認するとよいでしょう。

ちなみに、土地登記簿において土地を指す単位を「筆」といいます。覚えておくと、手続きの際に役立つかもしれません。

●登録免許税に関してはこちら
登録免許税(登記費用等)

登記事項証明書

事前調査費用(332円〜600円 / 不動産1件)

事前調査費用とは、抵当権を抹消したい不動産の登記内容を確認するのにかかる費用です。登記内容を確認するには大きく2つの方法があります。

・最新の登記事項証明書を取得する
・法務局「登記情報提供サービス」で確認する

登記事項証明書は、不動産を購入した際に受け取ったものが手元に残っている人も多いですが、一般的には最新の登記内容を確認します。登記事項証明書を取得するには、法務局窓口で直接受け取るか、ネットで請求するかのいずれかです。

法務局の窓口で取得する場合:土地1筆あたり600円
ネットで請求する場合:土地1筆あたり500円

手元に証明書を残すことはできませんが、登記情報提供サービスでも確認することができます。この場合、土地1筆あたり332円です。

抵当権抹消確認費用(332円〜600円 / 不動産1件)

抵当権抹消確認費用とは、抵当権抹消登記後、抵当権の抹消がきちんとできているか確認するための費用です。事前調査費用同様、登記事項証明書を取得するか、登記情報提供サービスを利用して確認します。確認に必要な費用も同様です。

・法務局の窓口で取得する場合:土地1筆あたり600円
・ネットで請求する場合:土地1筆あたり500円
・登記情報提供サービスで確認する場合:土地1筆あたり332円

司法書士に依頼すれば、報酬がかかりますが、スムーズに不備なく抵当権抹消手続きを行うことができるでしょう。なお司法書士に相談する際、予約が必要な場合もあります。

抵当権抹消手続きをするときの注意点

抵当権抹消手続きを司法書士に依頼せず、自分で行う場合に事前に知っておくと役立つ注意点をいくつかご紹介していきます。

住所や氏名の変更手続きが必要なケースがある

引越し・結婚などの事情により、登記簿に記載されている所有者・抵当権設定者の住所や氏名が変わってしまっている場合は、抵当権抹消登記と同時に住所や氏名を変更するための登記申請が必要になります。住所が変わった場合は、転居の経緯が分かる住民票と住所変更登記申請書が必要になります。

なお、住所変更登記申請書は、法務局のホームページよりダウンロードすることができます。また、氏名が変わった場合は、戸籍謄本と本籍が記載された住民票が必要になります。住所と氏名それぞれの変更で必要な書類が異なるので注意しましょう。

引越しする若い家族

関連書類の期限切れがないようにする

抵当権抹消手続きを行うために金融機関から受け取る関連書類のなかには期限が付いているものもあります。たとえば、登記事項証明書は発行から3か月以内のものと決まっています。もし、期限が切れてしまった場合は、新たに再取得しなければなりません。

当然、再取得による費用も別途かかります。書類によっては金融機関に再発行の依頼をしなければならず、手間が増えるものもあります。関連書類の期限に注意しながら、取得後はなるべく早く手続きを行うようにしましょう。

抵当権抹消手続きは早めに済ませることが重要!

抵当権を設定して不動産を購入・相続したとき、もし住宅ローンの返済が滞りそうになった場合は早めに金融機関に相談するようにしましょう。滞納を繰り返すと不動産を差し押さえられてしまうからです。不動産が差し押さえられた後では競売にかけられ、相場よりも安いお金で売却されてしまいます。競売により、売却されてしまった場合の売却益は、抵当権を設定させた債権者が優先的に「弁済」として住宅ローンの残債分に充てることができます。

なお、家を売却した金額で住宅ローンの残債を完済できる可能性があります。まずは査定をし、家がどのくらいの額で売却できそうか知ることが必要です。三井のリハウスでも物件の無料査定を行っていますのでご活用ください。

●無料査定はこちら

また、住宅ローンを完済した後も油断してはいけません。抵当権抹消手続きは早めに済ませておくことが大切です。抵当権抹消登記には期限がない分、きっかけがないとなかなか動き出せない人もいるかもしれません。

しかし、先延ばしにしたままでは、不動産を売却したいとき、新たに住宅ローンを利用したいとき、不動産を相続させたいときなど、いざというとき手続きが間に合わない可能性もあるでしょう。所有している不動産の抵当権が抹消可能になったときは、そのままにせず、速やかに抹消登記の手続きを行いましょう。

※1出典:管轄のご案内,法務局ホームページ
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
(最終確認:2023年1月17日)

この記事のポイント<Q&A>

  • Q抵当権抹消手続きの流れは? Aまず、必要書類を準備して、管轄の法務局を調べます。その後、申請書をダウンロードし、記入しましょう。記入が完了したら、法務局へ申請するというのが基本の流れになります。司法書士に依頼せず、自分で抵当権抹消手続きを行うこともできますが、いくつか注意点があります。本記事では、自分で手続きを行う際の注意点もご紹介します。詳しくはこちらをご覧ください。
  • Q抵当権抹消手続きにかかる費用は? A抵当権抹消を行う際は、登録免許税、事前調査費用、抵当権抹消確認費用がかかります。司法書士に依頼する場合は、報酬費用も必要です。一方で、自分で抵当権抹消手続きをすれば報酬費用を節約できます。詳しくはこちらをご覧ください。

宮原裕徳

株式会社ラムチップ・パートナーズ 所長。税理士。日本のみならず、東南アジアも含めた不動産にかかわる会計・税務に精通している。法人や個人向けに節税セミナーなども行っている。
https://www.miyatax.com/