相続税の申告を税理士に依頼するには?選び方、報酬、注意点などを解説

財産を相続すると「相続税」が発生しますが、相続税の申告や納税は難しい部分が多く、税理士に代行してもらえると安心です。今回は、相続税の申告を税理士に依頼するメリットや注意点から、税理士の選び方までご紹介いたします。

目次
  1. 相続税対策は税理士選びから!
  2. 「税理士」とは?
  3. 税理士に相談するメリット
  4. 相続に強い税理士の選び方
  5. 税理士への報酬は?
  6. 生前対策も依頼できる!
記事カテゴリ 相続 シニア
2022.07.21

相続税対策は税理士選びから!

財産の相続にはいろいろ考えることがありますね。財産を残した家族の気持ちをくみ、「どう財産を生かそうか」「なるべく負担なく財産を継承したい」などと思いをめぐらせて、財産の配分や配分の方法を具体的に決めていかなければなりません。

ほかにも、相続税の申告や納付については、慣れていない人も多いでしょう。「相続税の申告や納付は税理士さんに相談しよう」と思っても、いったい誰に任せたらよいのか、見当がつかないという人もいそうです。自営業でない限り、普段から税理士とやりとりする機会はそうないものですよね。

ちなみに国税庁によると、相続が発生して相続税を納めた人は2020年で26万4455人、そのうちの86.1%が税理士に税務を依頼しています。※

税理士に税務を依頼したから安心とはいえません。同じく2020年の相続税を納めた人に対する「税務調査」は19%となっており、税理士に任せていても税務調査が入ることを示しています。

税務調査とは、適切な税務申告がなされていないと判断した納税者に対して国税庁が行う調査のこと。税務調査をしたうちの約88%に「追徴課税」が科せられています。追徴課税とは、納めなければならない税金よりも低い納税をした場合に科せられる税金です。

つまり、税務を税理士に依頼していない場合はもちろん、相続税の税務を税理士に依頼していながらも追徴課税を科される場合がある、というわけです。

ここで浮かび上がるのは、「税務だから税理士」ではなく、相続に強い税理士を選ぶ必要がある、ということです。では相続税を適切に納めるには、いったいどんな税理士に依頼するのがよいのでしょうか?今回は、税理士の選び方から報酬、注意点に至るまでポイントを押さえながら解説していきます。

相続税の申告書

「税理士」とは?

税理士は税務をしてくれる人、となんとなく分かってはいても、具体的にどんな業務をしているのか、司法書士や弁護士などとはどう違うのか、厳密には説明できないという人もいるでしょう。ここでは、税務全般にわたるエキスパートである税理士という職業を丁寧に見ていきましょう。

税務に関する専門家

税理士は、税理士法で定められた国家資格を持つ税の専門家です。税理士には国と納税者である国民、双方の信頼に応えることが求められています。

税理士の業務は以下の3つとなります。

・税務代理
・税務書類の作成
・税務相談

上記の3つは、たとえ無償であっても税理士以外が行ってはいけないという原則があります。

相続の場合、税理士は納税者に対して、相続税の計算や税務署への申告の手続きを請け負ったり、節税のアドバイスをしたりしてくれます。相続財産に土地や株がある場合、それらの評価額を算定して申告義務の有無を判断することも、税理士の節税アドバイスに含まれます。

税務調査

こんなときは別の専門家へ

相続では、相続税の納税以外の手続きが必要になることがあります。税理士は税務の専門家ですから、税務以外は専門外となります。税務以外の事柄は以下の専門家を頼るようにしましょう。

相続に関するトラブルは弁護士へ
財産の分け方で揉めたり、財産を継ぐ人の特定に迷ったりなど相続に関するトラブルが起きている場合は弁護士に相談しましょう。

相続が発生すると、「遺産分割協議」で相続人全員で財産の分け方を話し合います。税理士はあくまでの税務の専門家であるため、相続人間の話し合いがまとまらなかったり、相続の方法や割合で揉めていたりする場合には税理士ではなく弁護士に相談するのが適当です。

登記の手続きは司法書士へ
また、手書きの遺言が見つかったり、不動産の名義変更をする必要が生じたりしたときは、司法書士に依頼しましょう。「遺言の検認申立」や「不動産登記」などは税理士は行えないことになっています。

遺言の検認申立とは、手書きの遺言が残されていた場合に、裁判所に遺言の内容を明確にしてもらい、その内容を裁判所が相続人に知らせること。また不動産登記とは、不動産の所有状況を法務局に登記することです。どちらも私的な事柄を公的な文書に置き換えることになり、税務以外の司法書士の実務となります。

●相続について相談する専門家についてはこちら
相続の相談は誰にする?必要な準備も含めご紹介!

手続きを進める司法書士

税理士に相談するメリット

税務のエキスパートである税理士に相続税について相談すると、主に4つのメリットが挙げられます。具体的に見ていきましょう。

申告作業を代行してもらえる

税理士は、煩雑な相続税の申告・納付までの作業を代行してくれます。ここで相続税の発生から申告・納付までの流れをお伝えしましょう。

被相続人が亡くなってからの期限相続で発生する税務具体的な作業
直後相続開始・死亡届の提出、保険証の返却、世帯主の変更届 ・葬儀費用の領収書の整理 ・遺言の有無の確認 ・葬儀費用の領収書の整理 ・遺言の有無の確認 ・債権や債務の概要の把握 ・相続人の確認 ・税理士の確定
3か月以内相続の放棄または限定承認債務(借金)が多い場合は相続を放棄するか、一部を返済して相続する「限定承認」を選ぶ
4か月以内準確定申告故人が死亡した年の1月1日から死亡した日までの所得を相続人が申告する
10か月以内相続税の申告と納付・遺産や債務の調査 ・遺産の評価や鑑定 ・遺産分割協議 ・遺産分割協議書の作成 ・相続税申告書の作成
相続発生を知ってから1年以内または相続発生から10年以内遺留分減殺請求相続分が法律で定められている相続分よりも少ない場合、不足分を請求する

相続の発生から相続税の申告・納付には、上記のように公的機関や相続人とのやりとりや細かい事務作業が発生します。申告手続きのミスや漏れは税務調査の対象になる可能性が高まるため、それらの作業を代行してもらえると手間暇がかからないうえに安心です。

節税対策をしてもらえる

相続税申告を税理士に依頼すると、節税対策をアドバイスしてもらえます。相続税は、相続する財産の評価の仕方や相続税控除の特例や軽減措置の利用によって、納税額が大きく変わります。

相続税業務の経験が豊富な税理士なら、複数の角度から不動産の評価額を算出したり、特例や軽減措置を漏れなく利用できるようにアドバイスしたり、などと適切な節税対策をしてもらえます。

税務調査に対応してもらえる

相続税の申告後に税務調査が入った場合、税理士が対応してくれると安心です。資料の用意や税務調査官からのさまざまな質問への応答などが適切でないと、いわれのない指摘を受けてしまうこともあるのです。

二次相続も考慮してもらえる

相続に強い税理士なら二次相続も考慮してもらえます。二次相続とは相続が発生し、それを相続した配偶者も亡くなることで、子どもたちが2度にわたって相続することです。相続の仕方を間違えると、最初の相続で節税できたとしても、2度目の相続で税負担が増える場合があります。相続に強い税理士なら先を見据えた相続の仕方を教えてくれます。

家系図

相続に強い税理士の選び方

税理士を選ぶときは、税務だから税理士、と安易に選ぶのは避け、相続に強い税理士を選ぶ必要があります。では相続に強い税理士にはいったいどんな特徴があるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

相続を専門にしている人を選ぶ

相続を専門とうたっている税理士事務所は多いのですが、本当に専門なのかを見極めましょう。その見極めには、税理士法人が扱っている相続税の年間申告実績が目安になります。確認するときは、比較・検討するために複数の税理士事務所に問い合わせ、以下の点を確認しましょう。

・年間の相続税申告実績
・事務所に在籍している税理士の数
・税理士1人当たりの年間相続税申告実績数

税理士1人当たりの年間相続税申告実績数は、「年間の相続税申告実績÷事務所に在籍している税理士の数」で計算できます。ちなみに税理士1人当たりの年間相続税申告件数は平均1.4件です。年間相続税申告件数が税理士1人当たり数十件であれば実績豊富といえそうです。

評価額の算定ができる人を選ぶ

土地を相続した場合は、評価額の算定ができる税理士を選びましょう。土地は相続財産のなかでも高額になりやすく、土地の評価額によって遺産総額が大きく変わるといっても過言ではないでしょう。そのため、相続税の納税額を左右することにもなります。土地の相続税評価額は、公表されている「相続税路線価」から机上で評価額を算出することも可能です。

相続に強い税理士なら、評価額だけではなく、現地や役所での調査も行えます。実際に現場に立つことで、土地の評価額からマイナスになる要素を見つけられるのです。相続する財産の評価が低くなれば、その分課税される相続税も低くなります。

家の模型とお金

書面添付制度を適用している人を選ぶ

書面添付制度を適用しているかどうかは、税理士を選ぶポイントになります。書面添付制度とは納税状況の調査報告書を作成し、税務署に報告する制度のこと。税理士にしか作成できず、また申告前に税理士は納税者に対して添付した書類について説明する責任があります。

書面添付制度とは、税務の透明性と公正化を求めるために税務署が推進している制度です。つまり書面添付制度を適用した税務申告は税務署に好印象を与えるということ。書面添付制度を適用していると、税務調査に入られるリスクが軽減する可能性が高まります。

そのほか、話しやすさや対応のよさも併せて、なるべく複数の税理士に実際に会って判断しましょう。

最後まで対応してくれる人を選ぶ

相続の税務を任せるなら、最後まで同じ人が対応してくれるところを選びましょう。相続税の税務を依頼する場合、税理士が所属する事務所に依頼することになります。そこで最初の依頼時に対応してくれた税理士が、以降は別の担当者に代わるといったことが起こり得ます。

煩雑で細かい相続税の申告では、途中で担当者が変わると、引き継ぎでミスが生じることもあります。また、依頼するこちらは内々の事情を伝えることになるのですから、1人の税理士と付き合い、信頼関係をしっかり築いたほうが安心です。

税理士への報酬は?

煩雑な相続の税務を任せる税理士への報酬はいったいどれくらいなのでしょうか?「節税したいのに税理士を雇ったらプラスマイナスゼロでは?」という声も聞こえてきそうですね。

一見すると税理士報酬は高額に思えますが、相続税の節税と相続の税務作業のうえに、税理士を雇わず税務調査に入られて追徴課税を科せられるリスク回避を併せると、プラスのほうが大きいかもしれません。ここでは税理士の報酬について詳しく見ていきます。

一般的な相場

一般的な税理士の報酬相場は遺産総額の0.5~1%です。仮に相続税の課税対象となる財産が1,500万円の場合、税理士の報酬は7万5,000~15万円が相場となります。依頼先や依頼内容によって基本報酬にオプションが請求されます。

税理士のバッジ

依頼内容でオプションとなりえるのは、申告の必要書類を集めること、土地評価額への現地調査や書面添付制度の適用などです。それぞれ1つのオプションにつき5万円程度の追加費用が発生する場合が多いようです。

基本料金とオプション、それぞれどんな実務を依頼できて、費用はどれくらいかかるのか、初回相談時にしっかり確認しましょう。

税理士報酬の注意点

税理士への依頼で注意したいのは、税理士の報酬は相続税申告で控除できないことです。葬儀費用は相続額から経費として差し引くことができたり、所得税の申告では税理士費用は経費になったりするのですが、相続税は経費として計上されないのです。

税理士報酬の負担を軽くするには、相続する割合に応じて共同で支払ったり、配偶者が支払って子どもの負担を軽くしたり、といった方法が考えられます。

税理士の報酬は高額です。そのため、報酬の安さで税理士を決めたくなりますが、相続する遺産の総額や節税効果、税務署とのやりとりを考えると、税理士の報酬金額だけをディスカウントしようとするのは適当ではないかもしれません。

報酬が安いのは、ノウハウや経験の少なさを反映している可能性もあります。結果的に節税できなかったり、追徴課税を科せられたりとなれば費用は余計にかかります。依頼する税理士を選ぶ際は、報酬額だけではなく、総合的な業務内容から判断して検討しましょう。

国税

生前対策も依頼できる!

相続税の対策は、遺産相続が発生してからではなく、被相続人が生きている間に相談する「生前対策」も可能です。生前対策では、財産の状況から相続税のおよその金額をシミュレーションし、税金が発生するかどうか、発生する場合はいくらかかるかが分かります。

生前対策では、財産や家族の状況に合わせた相続税の対策を税理士に提案してもらえますよ。
相続の準備を早めにしておくと、金額的な負担や手間暇の軽減ばかりではなく、相続人の間で生じる精神的なストレス回避にもつながります。

煩雑になりがちな不動産を含む生前対策ならシニアデザインまでお問い合わせください。

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相続の発生は、近い将来に必ず起こります。しっかり事前の準備をして、相続が「争続」とならない対策を取っておきましょう。スムーズに財産を継ぐことは、財産のほかにもう1つのプレゼントを家族に贈ることになります。

シニアの相談

※出典:令和2年分相続税の申告実績の概要,国税庁
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2021/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
(最終確認:2022年5月9日)

宮原裕徳

株式会社ラムチップ・パートナーズ 所長。税理士。日本のみならず、東南アジアも含めた不動産にかかわる会計・税務に精通している。法人や個人向けに節税セミナーなども行っている。
https://www.miyatax.com/