都心エリアの最新不動産市況
昨年10月に日経平均株価が5万円を超え、高い相関関係にある都心の不動産価格も上昇が続いています。日銀の利上げと米国FRB(連邦準備制度理事会)の利下げで日米金利差は縮小していますが、円安は維持され株価は強含みで推移しています。一方、日銀の政策転換やインフレなどを背景に金利の上昇が進んでおり、為替の不安定化や株価下押しへの懸念も残されています。日米の金融政策の方向性が今後のカギを握るとみられ、株価を取り巻く外部環境から目が離せません。今回は、転換点にある金融政策や経済政策などの外部環境を踏まえつつ、新築・既存マンションやオフィスなど都心不動産市場における今後の見通しについて紹介します。
市場を取り巻く外部環境
日米の金融政策が為替・株価に与える影響は変化
2025年は日米の政治・経済情勢の変化を背景に、金融市場も大きく動いた年となりました。米国FRBは昨年9月からFF金利の利下げを進め、雇用の下振れリスクなどに対応する形で緩和姿勢を強める一方、日銀は円安に伴う物価高を意識し12月に利上げを実施しました。長期金利(10年国債利回り)は、米国が4%強で膠着しているのに対し日本は2%台まで上昇し、金利差は2%程度まで急速に縮小しています。セオリー通りなら円高要因となりますが、現状は円安で推移し金利差と為替の相関は崩れています 図表1。
円高に傾かないのは、今後の実質金利差が縮小しにくいとの見方があるためです。金融市場では、根強いインフレから米国FRBは利下げに慎重となり、日銀の利上げも年内1回程度に留まるとみられています。米国FOMC(連邦公開市場委員会)参加者の金利予想は分かれていますが、現状では年内1回程度の利下げが示唆されています。政策金利が大きく動かない中で、日本の実質金利は高市政権の積極財政に伴うインフレ継続からマイナスで推移し、高金利通貨の米ドルに対して円安が続く見通しです。
昨年後半以降、ドル円と株価の関係も崩れ始めています。不動産価格との相関が高い日経平均株価は24年1月にバブル期の最高値を更新して以来4万円台で推移し、25年4月にはトランプ関税の発動による世界景気や企業業績の悪化懸念が広がり、一時3.1万円まで下落しました。しかし、9月以降は高市政権の経済対策への期待や良好な米国経済などを背景に、10月末には5.2万円まで急上昇し、史上最高値を更新しました。この間、ドル円は140~150円台にとどまり、為替だけでは株価の上昇を説明することが困難となっています 図表2。
トランプ関税の交渉妥結後、日本企業の米国生産志向が強まっており、円安が輸出企業の業績にプラスとなる構図は変化しつつあります。昨秋の株価上昇の牽引役はAI関連企業であり、日経平均株価に対する該当主要3社の寄与度は約7割に上りました。日経平均は一部の値嵩株に左右されますが、TOPIXは東証プライム市場全銘柄の加重平均で算出され、市場全体の動きを反映し景気の体感に近いとされます。両者の乖離を示すNT倍率(日経平均÷TOPIX)は、昨年10月に15倍を超えコロナ禍以降で最も高くなり、日経平均の上昇率は前月比で16%とTOPIXの6%を大幅に上回りました 図表3。不動産価格との相関を見る上では、一部銘柄の特殊要因を反映しにくいTOPIXとの関係を捉えることが適切かもしれません。
図表1日米の長期金利(10年物国債利回り)差とドル円の関係
図表2為替と日経平均株価の推移
図表3日経平均株価とTOPIXによるNT倍率の推移
物価の沈静化と賃金上昇への期待から景況感は底堅く推移
今後の景気動向を民間調査機関の予測から捉えると、26年度のGDP成長率は引き続き内需が牽引する形で、名目は2%台半ば、実質は1%弱と前年度並みを見込んでいます。トランプ関税の影響から25年7~9月期はマイナスに落ち込みましたが、今後の影響は軽微とみられます。消費者物価はピークを超えつつあり、過度な円安の進行で輸入物価が上昇しない限り2%程度に落ち着く見通しです 図表4。
25年12月の日銀短観による景況感は、製造業・非製造業ともに先行きは概ね改善ないし横ばいとなり、底堅く推移しました。輸出企業を含む大手製造業を中心に設備投資の伸びも見込まれ、関税や為替の影響は概ね解消されているようです。一方、雇用の逼迫感は高まっており、人手の確保に向けた賃金上昇圧力は強く、春闘の賃上げ率も5%程度と24~25年の水準を維持しそうです。賃金の上昇は不動産購買力の拡大にもつながるため、株価とともに市場を下支えする環境が続くものと期待されます。
図表4民間調査機関による経済見通し
都心不動産市場の動向
都心の新築マンション価格は引き続き高値圏で推移
景況感の底堅さが増す中で、都心の不動産市場は規模や立地、商品力などで二極化の様相を呈しています。不動産経済研究所が公表した25年7~9月期の都区部の新築マンション発売戸数は2,277戸で前年比プラス45.2%と、7期ぶりに増加に転じました。平均発売価格は13,671万円で前年比プラス18.8%と4期連続で2ケタ上昇となり、11期連続で1億円を超え、契約率は66.2%と好不調の目安である7割に近づきました 図表5。
24年度の都区部の発売戸数は前年比マイナス25.5%の8,272戸と、前年まで続いた1万戸を下回りました。減少率は多摩などの郊外に比べて大きく、開発余地の縮小から供給の減少が目立ちます。一方、発売価格は11,632万円と前年比で11.2%上昇し、㎡単価は177.3万円となりました。中央値も8,940万円と平均値との乖離は縮小し、高額物件が多くを占める状況にあります。建築費や用地費の高止まりで高額物件に供給が絞られる一方、円安による割安感を背景に相場を気にせず購入する海外勢もみられます。国内外の富裕層を中心に購入意欲は根強く、価格の上昇基調が収まる気配は見られません。
図表5新築マンションの販売状況(都区部)
売り圧力強まる既存マンションの高価格エリア
新築の供給制約からリセールバリューの拡大が目立つ都心の既存マンション市場ですが、売出件数の増加とともに変化の兆しもみられます。三井不動産リアルティが独自に集計したプレミアムマンションデータをみると、25年7~9月期の対象10エリアの平均成約坪単価は1,217万円と、前期比で3.2%上昇しました 図表6。平均売出坪単価は1,585万円と前期比で6.0%上昇し、成約単価の上昇を上回る強気の価格設定がみられます。買取再販物件の増加も売出単価の上昇の一因ですが、基本的には富裕層や海外投資家などの需要を意識した値付けが根強いようです。
プレミアムマンションにおける海外居住者の購入割合は8.4%と、前期比で1.4ポイント上昇しました。ドル換算の成約坪単価は5期連続で上昇し過去最高値の87,610ドルとなり、円安より単価上昇の影響が目立ちます。一部で海外からの投資行動の変化も指摘されますが、依然として取得需要は底堅いとみられます。株価との相関が高い成約単価ですが、2013年から約12年間で成約単価は3.25倍、日経平均株価は4.51倍、TOPIXは3.59倍に上昇しました。株価の上昇と資産効果による取得需要への影響を考えると、TOPIXとの対比でも成約単価には一段の上昇余地がありそうです。
10エリア別の平均成約坪単価は、広尾・代官山・恵比寿と市谷・四谷エリアが前期比で下落しましたが、7エリアは集計開始以降の最高値を更新しました。最も高い六本木・赤坂・虎ノ門は坪2千万円を超え、売出単価と遜色ない水準まで上昇しています。青山・渋谷と世田谷・大田エリアは2ケタ上昇となり、銀座は8期連続、番町・麹町・飯田橋は6期連続で上昇しました。成約と売出価格の乖離率は10エリア平均で3.79%と前期の3.99%から低下しました。六本木・赤坂・虎ノ門や白金・高輪など5エリアは低下する一方で5エリアは拡大し、特に麻布・麻布十番・三田は乖離率が大幅に拡大し、買い手市場の様相を呈しています。
25年7~9月期の成約件数は、目黒・品川より成約坪単価の低い3エリアが前期比で増加したのに対し、売出件数は白金高輪より坪単価の高い5エリアが増加しました。売出件数を成約件数で除した「売り買い倍率」を坪単価の高さで分けた3グループ別にみると、最も高いエリアAは直近で5.27倍、次に高いエリアBは3.79倍、最も低いエリアCは2.44倍となりました。特にエリアAは足元で倍率が拡大しており、売り圧力が高まっていることがわかります。成約価格が最高値を更新する一方で需給は緩和方向にあり、適正価格を見定めながら取得が可能な環境が整いつつあると言えそうです。
図表6既存マンション市場の動向①
図表6既存マンション市場の動向②
図表6既存マンション市場の動向③
オフィス空室率の低下、募集賃料の上昇が鮮明に
都心のオフィス市場は需給改善が進んでおり、空室率の低下に加え募集賃料の上昇も鮮明になってきました 図表7。三鬼商事が公表した25年12月の都心5区の空室率は2.22%と前年比で1.78ポイント低下し、平均募集賃料は21,409円/坪と前年比で5.5%上昇しました。空室率はコロナ禍前の18年8月以来の水準、募集賃料は19年4月以来の水準まで回復し、ほぼ満室稼働の状況に近づきつつあります。空室率は千代田区が1.43%、渋谷区が1.82%と低く、募集賃料は渋谷区が24,527円/坪、千代田区が23,185円/坪と高い水準にあります。大規模ビルへの移転・集約が進む一方、フロア集約で中小規模ビルへの成約もみられ、市況は改善傾向にあります。
図表7都心オフィス市場の動向①
図表7都心オフィス市場の動向②
都心不動産市場の見通し
企業収益の拡大を伴った現状の株価水準
2013年の大規模金融緩和以降、ほぼ一貫して上昇基調にあった都心の既存マンション価格ですが、その裏付けとなる株価も昨年から上昇傾向にあります。AI関連など一部銘柄の影響から5万円前後で推移する日経平均株価に対し、株式市場全体を示すTOPIXは緩やかな上昇が続いています。史上最高値を更新してきた株価ですが、市場の関心は今後の上昇余地と言えます。現状の水準を捉える基本的な指標の一つが、PER(株価収益率)です。バブル期からのPERが比較可能なTOPIXの推移をみると、1989年は70.6倍(利回り約1.4%相当)であったのに対し、昨年は21.3倍(同約4.7%)と割高感はありません 図表8。23年以降の指数が上昇しているにも関わらずPERが落ち着いているのは、企業収益の増加が伴った証左です。金融市場ではEPS(1株利益)の拡大を理由に年末の指数を3900とみる向きもあり、現状は必ずしも過大評価された水準とは言えないようです。
図表8景気の局面と金融政策の方向
注目は転換点にある金融・財政政策の行方
不動産市場の先行きを見通す上で金利も重要な要素ですが、その動きには懸念が広がっています。日本の国債利回りは、コロナ禍での各国中銀の利上げとともに上昇が始まり、24年3月の日銀のマイナス金利解除から上昇基調が強まりました。高市政権発足後は積極財政に伴う国債増発懸念から利回りの上昇が加速し、足元の長期金利は2%を超え1999年以来の水準まで上昇。超長期金利は3%を超え過去最高になりました 図表9。
国債利回りの上昇は、企業の借入コストや政府利払い費の増加、国債価格の下落による評価損などのリスク要因となります。積極財政による景気刺激効果が金利上昇で相殺される点や、財政の信任低下を機に利回りが急騰するとの指摘もあります。ただ、GDP比200%超の日本の政府債務は近年低下傾向にあり、今年度の国債発行額も昨年度を下回る見通しです。税収が80兆円を超える中で財政赤字のGDP比はG7最小で、対外資産や経常収支を総合すると日本の財政リスクは必ずしも高くなく、金利上昇圧力は抑えられるとの見方があります。
当面は、日米の金融政策に注目が集まります 図表10。日銀とFRBは中立金利を意識した金利水準を模索していますが、日本の利上げ余地は小さく米国はインフレを意識した限定的な利下げに留まりそうです。日米の実質金利差は縮小せず、円安が続くと堅調な企業業績を背景に株高の資産効果から不動産需要が拡大するポジティブシナリオが現実味を帯びます。需要が減退するネガティブシナリオでも、キャッシュリッチ層の取得環境は相対優位となります。今年の相場格言は午尻下がりですが、やや過熱気味の市場を冷静に捉える姿勢も求められそうです。市場環境の変化に冷静に対応し適切な投資判断をアドバイスできるコンサルタントの存在は、益々重要になると言えるでしょう。
図表9長短金利(国債利回り)の推移
図表10図表10 日米を取り巻く外部環境と都心不動産市場の見通し
上村 要司
博士(都市科学)、技術士(建設部門/都市及び地方計画)
(株)Geo Laboratory
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