良くも悪くもすべてのものは「変化」し続ける。
「街」も同じだ。

景観やお店は少しずつ変わっていくし、住人も激しく入れ替わる。
東京のような、「人・モノ・情報」の流れが早い場所ではよけいにそうだろう。

「変化」に抗ったとしても、人や時代に求められなければすぐに廃れてしまう。
「生き残る街」になるには、なにかしらの「変化」が至上命題なのだ。

ただ同時に、変化を受け入れるだけだと、「無個性な面白みのない街ができあがるだけ」な気もする。

「変わることは、街にとって本当に良いことなのだろうか?」
そんな、少し感傷気味な疑問を頭に浮かべながら、今回の取材地「品川」に降り立った。

品川の基本情報

駅名:JR品川駅
乗換えできる路線:JR京浜東北線・根岸線・JR横須賀線・JR山手線・JR常盤線・JR東海道新幹線・京急本線
ランドマーク:アトレ品川

「仕事の便利さ」も「暮らしの快適さ」も抜け目のなし

感傷気味であろうがなかろうが、私に課せられたのは、品川の魅力を調査して、それを記事にまとめること。まずは基本的な品川の魅力に迫ることにした。

品川といえば、まずはアクセスの良さ。
東京の主要都市はどこにでも簡単に行けるし、羽田や成田といった空港にも行きやすい。

▲品川駅、東口からの風景。ルミネなどの大型の商業施設が見える
▲品川駅、高輪口(西口)からの風景。

昼夜を問わず多くの人が行き交う駅周辺は、ビジネスはもちろん暮らしにも便利な商業施設が豊富。
アトレやエキュート品川など、駅直結の商業施設には、食料品・生活雑貨・ドラッグストアの他、グルメ・ファッションのお店がそろっており、日常の買物にも休日のショッピングにも便利。品川は、暮らす場所としての利便性も兼ね備えた場所なのだ。

また、駅近には大人から子どもまで楽しめるエンタメ施設も。

▲マクセル アクアパーク

こちらは西口(高輪口)から徒歩約2分の品川プリンスホテルの敷地内にあるマクセル アクアパーク。
「光と音が織りなすイルカショー」「ライトアップされたクラゲの水槽」「プロジェクションマッピングとコラボしたイベント」など、芸術性やアトラクションの要素が強い水族館で、休日には長蛇の列ができることも。

▲クラゲのエリアの幻想的な雰囲気

品川プリンスホテルは、水族館の他「映画館・ボーリング場・屋内・屋外プール」などが併設された、1年を通して楽しめるエンタメ施設。駅から徒歩圏内にこの規模のおでかけスポットがあるのは、なんとも魅力的である。

品川は西日本から東京への玄関口であることから、「ビジネス街」というイメージを持っている方が多いかもしれない。もちろん、ビジネス街であることは間違いないが、その他の主要駅へのアクセスも良く、紹介したような商業施設が充実していることから「暮らす街」としても人気。

この街と向き合うにつれて、ビジネス一辺倒ではなく「暮らしを充実させる要素」がチラホラと顔を見せてきた。

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海沿いの充実したアーバンライフを家族でも夫婦でも

「仕事と暮らし」。
その両方を兼ね備えたスポットが、駅周辺のエリアと別にもうひとつ。
それが、海側に約15分ほど歩くと現れる天王洲エリア。

企業が集積したビル群の他、ショッピングやグルメが楽しめる商業施設や緑豊かな公園など、働く人にも暮らす人にも嬉しいスポットが揃っている。

▲天王洲の景観
▲東品川海上公園からの景観

例えば、東品川海上公園はファミリーにぴったりなスポット。
人工の川や噴水広場では水遊びが楽しめる他、滑り台やシーソーなどの遊具が豊富で、春には花見もできる。

▲天王洲アイルの外観とボードウォークの風景

天王洲エリアの中心に位置する「天王洲アイル」は商業ビルが立ち並ぶ、ビジネスに特化した場所。
平日はビジネスマンが多いものの、休日には散歩や食事を楽しむ「ファミリーの憩いの場」に。

商業ビル内でさまざまグルメが楽しめる他、海沿いのボードウォークでは海を眺めながら散歩を楽しめる。ライトアップされた夜景がロマンティックで、夫婦でのデートにも最適だ。

▲T.Y.HARBORの外観

こちらの天王洲エリアの一角にあるT.Y.HARBORは、ロマンティックな大人な時間を過ごすのにぴったりなブルワリーレストラン(ビールの醸造所を併設したレストラン)。

醸造所で作られたクラフトビールと、バリエーション豊かなフードが人気の理由。
ダイニングは約350席と広々しており、テラス席では運河を眺めながらゆったりと食事を楽しめる。

▲室内のダイニング席と屋外のテラス席

ママ友とランチ、夫婦でゆったりディナーなど、使い方はさまざま。
お酒やパンを販売するブルワリーショップ・ベーカリーショップが併設されているので、散歩がてらにサクッと寄ってみても良いかもしれない。

天王洲は、働く人も暮らす人も、両方が心地よく過ごせるエリア。
ビジネス街でありながら海沿いのアーバンライフを充実できる、品川らしいスポットだ。

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安心と癒やし。「宿場町」の面影を感じる品川宿

品川駅周辺・天王洲には、仕事にも暮らしにも便利な「抜け目のなさ」がある。
ただ、利便性や快適性を計算して作られた「新しい街」のため、暮らしに落ち着きや癒やしをもたらす「風情や情緒」が少し物足りない。

そんな思いを巡らせながら歩いていたのだが、足を進めると徐々に高層ビル群が途切れ途切れになり、変わりに「東海道品川宿」の看板が目に飛び込んできた。

▲東海道品川宿まち歩きマップの看板

東海道とは、江戸時代に日本橋から京都までを結んだ500キロにわたる街道のことだ。その道のりにはたくさんの宿場町が置かれ、ここ品川宿もそのひとつだったらしい。

その品川宿のメイン通りが、現在の「北品川本通り商店会」。

ビジネスマンの姿はほとんどなく、散歩中のおじいちゃん・おばあちゃん、買物を袋を持った子連れの主婦が多く見かけられた。そこには、駅周辺や天王洲を歩いていたときに私が求めていた、情緒や風情があった。

▲昔ながらの青果店
▲歴史を感じさせる重厚な建物の金物屋さん

品川宿は「江戸から京都に向かう最初の宿場町」「西日本から江戸に向かう最後の宿場町」であったことから、たくさんの人・もの・情報が集まる街として栄えたそう。

▲商店街を中心に街のあちこちに神社仏閣が点在する。

雰囲気のある建物やお店が点在しており、宿場町として栄えた当時の面影がいたるところから感じられる。趣のある飲食店も多く、気になったお店に入ってみることに。

お邪魔させてもらったクロモンカフェ。
中に入ると靴を脱ぎ、階段で2階にあがる。
「おばあちゃんの家」に帰ってきたような、優しさとぬくもりがあるお店だ。

▲畳・こたつ・絵本の本棚が置かれた懐かしい店内。
▲壁に描かれたアートやはだか電球の優しい明かりが印象的。

駅周辺や天王洲などのエリアとはまったく違う空気、違う時間が流れている。
となりの席から、地域や子どもの話に花を咲かせるお母さんたちの声が聞こえ、なんとも和んだ雰囲気。

メニューは、「となりの八百屋さん定食」「本日のアジアごはん」「仲良し魚屋さん定食」「本日のカレー」の4つから選べる。その中から私が選んだのは、仲良し魚屋さん定食の「鮭の味噌漬焼き」。

▲鮭の味噌漬焼きとごはん・汁物の他、サラダ・ナムル・お総菜がついたボリューミーな1品。

ごはんも汁物もおかずも、すべてがほど良い味付けで、空腹のおなかに優しく吸い込まれる。
もし独身でこの地域に住んだら、毎日食べたくなってしまうのではないだろうか。
大げさと思われるかもしれないが、それくらいの安心感と満足感が身体を包んだ。

また、クロモンカフェでは、週1回(火水のいずれかの夜)、こどもたちが200円で晩ごはんを食べられる「クロモンこども食堂」を開催。地域の子どもたちの“孤食(こしょく)”にも向き合っている。

情緒あふれる品川宿の空気感と和やかで懐かしいクロモンカフェ。
駅周辺や天王洲にはなかった「風情や情緒」は、この界隈に確かに息づいている。

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「旅人も働く人も、国内外問わずいろいろな人が混ざりあう街にしたい」

駅周辺や天王洲の都会的な便利さ、品川宿に息づく情緒や風情。

「現代的なものと歴史が深いもの」
「変わったものと変わらないもの」

品川は、そんなコントラストが印象的な街だ。

では、この街で暮らす方は、品川にどんな印象を抱いているのだろうか。
取材の最後に、北品川本通り商店会でブックカフェ「KAIDO books&cafe」を営む株式会社しながわ街づくり計画の代表「佐藤亮太さん」に、お店ができたきっかけや品川のらしさについて聞いた。

▲KAIDO books & coffee。「旅」をコンセプトに2015年8月にオープン。日本初の「旅」専門ブックカフェ。

(以下、インタビュー。「」内は佐藤さん)

――佐藤さんは品川で生まれ育ったとお伺いしました。街や人にどのような特長があるか教えてください
「この辺りは元々宿場町だったので、『人・もの・情報』が絶えず入ってくる場所でした。つまり、来る者拒まずで、なんでも受け入れないといけない街だったんです。その精神は今でも受け継がれています。街にも人にも、“排除するのではなく新しいものを受け入れて変わっていく”、そういうオープンマインドなところがありますね」

▲店内には旅にまつわる雑貨も置かれている

――品川宿を歩きながら「伝統やつながりを大切にする街」という印象を受けました。実際は伝統やつながりと同じくらい、受け入れることや変化を大切にしているのですね。
「オープンマインドになんでも受け入れるだけでなく、つながりや伝統も大切にする姿勢がこの街の個性といえるかもしれません。この辺りは神社仏閣が多くて、その関係から今でも縁日とかお祭りがたくさんあるんです。地域の協力やつながりがあるからこそ、今でもお祭りを開催できている。新しいものを受け入れながらも、地域のつながりや伝統を大切にしようという意識が根付いているんです」

――どうしてPR企業運営とカフェ経営を同時にしようと思ったのですか?
「もともとは街をPRする仕事がメインでしたが、どれだけ地域の魅力を発信しても、目の前の商店街でどんどんお店が減っていくという実情がありました。「発信だけで街を活性化させる」には限界があると感じたんです。つながりや伝統を大切にしようと思っても、時代が経過するとやはり薄れていく。そこで、街をおもしろくするために何が必要かを考えると、やっぱり人と人が出会ってつながる「みんなが集まれる場がないといけない」という結論になりました。だから、この場所にカフェを作ることにしたんです。そういう場があれば街のことをあまり知らない若い人に、この街の魅力を知ってもらうこともできますしね。」

▲2階の本棚の一部は、依頼を受けた地域のPR棚として使っている。その地域の方々が選定した地域にまつわる本が並ぶ。こちらは滋賀県長浜市。中にはセルビアなどの海外の棚も。

――佐藤さんが考える「つながり」は生まれてきていますか?
「地元の人がこのお店でたまるようになって、少しずつつながりが増えていると感じています。『地域のお祭りに参加するにはどうしたらいいですか?』って聞いてくる若い人が増えたり、街づくりに興味があるっていう僕と同い年くらいの方がいて、イベントを一緒にやることになったり、場ができたことでつながりが生まれています。もっともっとこの地域の若い世代にそれを波及させていきたいですね」

▲2階の本棚。ぎっしりと旅・街・地域にまつわる本が並ぶ

――今後はどのような街にしていきたいと考えていますか?
「僕の世代と上の世代で意見が少し分かれるところですが、個人的には新しいものをどんどん取り入れて、『旅人も働く人も、国内外問わずいろいろな人が混ざりあうカルチャーミックスな街』にしたいですね。それが新しい時代の品川宿の形だったら嬉しいなと個人的には思っています。旧東海道や地域に根付いたお祭りといった伝統を守りながら、異文化ともっと融合していく方法を探していきたいです」

▲株式会社しながわ街づくり計画の代表、佐藤亮太さん

品川は残すべきものを知っている街

品川の取材で大切だと気づいたのは「残すべき何かを大切にしつつ、変化する」ということ。佐藤さんが語った「新しいものを受け入れながらも、つながりや伝統を大切にしようという意識が根付いている」という言葉がその象徴のように響いている。

品川宿は、新しさを受け入れて変わることを大切にしながらも、つながりや伝統といった、この街の核の部分は決して変えない。見てくれが変わっても、残すべき芯がはっきりしているから、そこに価値を見いだしたり、深い愛着を抱くことができる。また、大胆に変化することも受け入れられる。

駅周辺や天王洲エリアも含め、品川は、そんな「残すべきもの」をはっきりと持った街なのだ。
「残すべきものがわかっていれば、変わることを悲観することはない」、そう街が教えてくれたような気がした。

品川は、2027年開業予定のリニア中央新幹線の起点駅になる予定らしい。
きっと、そこからさらに街全体が大きく変化するに違いない。

ただ、品川は残すべきものを知っている街。
どのように変わろうとも、魅力的な街であり続けるに違いない。

児島宏明

ライター・編集者に憧れ、広告代理店に入社。SEOライターを経験した後、オウンドメディア担当に。
Webメディアに掲載する記事の企画・取材・編集・撮影を担当。飲食店などの個人事業主から会社経営者まで、さまざまな方にインタビューをして記事執筆を行う。
Instagram:https://www.instagram.com/iroakikojima/