不動産譲渡税とは?税金額の計算方法も併せて詳しく解説

不動産の譲渡所得にかかる税金(不動産譲渡税)には、所得税や住民税などがあります。これらの税金は、売却する不動産の所有期間によって税率が変わったり、要件によって控除や軽減税率の特例が適用されたりします。今回は、不動産の譲渡所得にかかる税金の計算方法や特例などについて詳しく解説します。

目次
  1. 不動産譲渡税とは?
  2. 譲渡所得税の計算方法とは?
  3. 譲渡所得税に関する特例は?
  4. 正しい知識で損のない納税を!
記事カテゴリ 売却 税金
2023.04.20

不動産譲渡税とは?

土地や一戸建て、マンションといった不動産を売却すると、その利益に応じて所得税や住民税などの税金が課せられます。このように不動産売却の際には譲渡所得が発生することがありますが、この譲渡所得にかかる税金は、総称して「不動産譲渡税」、「譲渡所得税」と呼ばれることもあります。本記事では、前述したような所得税や住民税などの不動産譲渡にかかる税金を譲渡所得税と表記します。

不動産の売却では、入ってくるお金にばかり意識が行きがちではありませんか?しかし、得られた利益には税金がかかります。特に譲渡所得税については、売却する不動産の所有期間によって税率が変わったり、要件によって控除や軽減税率の特例が適用されたりするのです。正しい知識を持っていると納税を賢く進められるでしょう。

そこで今回は、これから不動産を売却する人に損のない納税を行ってもらうため、譲渡所得税とは何か、その計算方法や特例まで基本的な内容についてご紹介します。

一戸建て

譲渡所得税の計算方法とは?

譲渡所得税とは何かを説明したところで、具体的にどうやって税額を計算するのかをご紹介します。

譲渡所得の計算方法

まず、譲渡所得とは、不動産を売って得られた利益です。譲渡所得は下記のように算出します。

譲渡所得 = 物件を売った金額等(譲渡収入金額) – 物件を買った費用(取得費) + 売却時の諸費用(譲渡費用)

計算式の「物件を売った金額等(譲渡収入金額)」は、不動産を売却したお金と固定資産税や都市計画税などの清算金を合わせた金額のことです。

「物件を買った費用(取得費)」とは、売却した不動産の、購入したときの代金とその諸費用を合算した金額のことをいいます。ただし、不動産の購入から売却まで年数が経過しているため、「減価償却費」を差し引かなければなりません。減価償却費は、経年劣化によって下がった建物の価値(減価償却)を表す費用です。つまり、この場合の取得費は、購入代金と諸費用の合算から減価償却費を差し引いた額となります。

また、取得費に該当する費用として「概算取得費」というものもあります。概算取得費は、不動産を売却したときの収入の5%に当たる金額です。不動産を購入したときの代金が分からない場合には、概算取得費が取得費として割り当てられます。

「売却時の諸費用(譲渡費用)」は、仲介手数料や印紙税など、売却にかかった必要経費を合算した金額です。

これらの計算によって得られた金額がプラスであれば、譲渡所得として課税の対象となります。マイナスであれば、譲渡損失で利益が出ていないため税金はかかりません。譲渡所得がある場合は、不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日の期間中に確定申告を行う必要があります。

電卓

税額の計算方法

譲渡所得税は、前述した譲渡所得にかかる税金のことで、以下のような計算式から算出できます。

譲渡所得税額 = (譲渡所得 – 特別控除額) × 税率

この譲渡所得税には、税負担の軽減を目的として、要件に該当すれば特別控除が適用される場合があります。この特別控除は、「マイホームの3000万円特別控除」や「居住用財産の買い替えの特例」などです。計算式の「特別控除額」は、特別控除が適用となる場合の対象金額を指します。これらの控除の概要や控除額については、後ほど詳しく説明します。

税金を計算する夫婦

「税率」は、売却する不動産の所有年数によって異なります。所有期間が5年以下の場合は、「短期譲渡所得」といい、税率は39.63%(所得税 30.63% 住民税 9%)です。所有期間が5年を超える場合は、「長期譲渡所得」といい、税率が20.315%(所得税 15.315% 住民税 5%)となります。

なお、この税率には、復興特別所得税が上乗せされています。復興特別所得税は、2037年まで適用される東日本大震災復興のための税金です。

譲渡所得税に関する特例は?

譲渡所得税の計算方法で特別控除について触れましたが、譲渡所得税には、特別控除のほかにも要件に当てはまれば減税や還付などが適用される特例が用意されています。これを知っておくと節税につながる可能性もあるため、確認しておきましょう。

不動産売却を行う際に知っておきたい主な特例には以下のものがあります。

マイホーム(居住用財産)の3000万円特別控除

居住用財産であるマイホームを売却して譲渡所得があった場合、譲渡所得から最大3000万円が非課税になる控除が受けられます。ただし、以下でご紹介する「居住用財産の買い替えの特例」を利用していないことといった要件を満たす必要があります。

詳しい内容や要件については国税庁公式ページをご覧ください。

マイホームの長期譲渡所得の軽減税率

所有期間が10年を超えるマイホームを売却して譲渡所得があった場合、要件に当てはまれば軽減税率の特例が適用になります。この軽減税率の特例が適用された場合、長期譲渡所得金額が6000万円を区切りに、税率が20.315%(所得税 15.315% 住民税 5%)から下記の税率まで減税されます。

・ 6000万円以下:10.21%(所得税)+4%(住民税)・ 6000万円超えの部分:15.315%(所得税)+5%(住民税)

また、特例の適用要件には次のようなものがあります。いくつか参考にご紹介します。

・ 自分が住んでいる住宅を売る もしくは、住まなくなった日から3年後の12月31日までに売ること・ 売った家や土地について、「居住用財産の買い替えの特例」をはじめ、ほかの優遇措置の適用を受けていないこと(ただし「マイホームの3000万円特別控除」については重ねて受けることが可能)・ 売却したマイホーム、購入したマイホームがともに日本国内にあること

詳しい内容や要件については国税庁公式ページをご確認ください。

カレンダーと電卓

居住用財産の買い替えの特例

所有期間と居住期間が10年を超えるマイホームを買い替える場合、売却する家より新居の価格が高いときには、要件に当てはまれば譲渡所得にかかる住民税や所得税を将来に繰り延べられます。

以下の条件で買い替えを行った場合、譲渡所得にかかる税金がどのようになるかを解説します。

現在住んでいるマイホームの購入費用 : 2000万円
現在住んでいるマイホームの売却費用 : 5000万円
新しいマイホームの購入費用 : 7000万円
将来上記のマイホームを売却する際の費用 : 8000万円

上記の場合、通常であれば、2000万円で購入したマイホームを5000万円で売却した場合、譲渡所得である3000万円が課税対象になります。上記の条件でこの特例の適用を受けた場合、譲渡所得である3000万円が課税対象になるのではなく、新しく購入したマイホームを将来譲渡するときまで繰り延べられます。

新しく7000万円で購入したマイホームを8000万円で売却した場合、通常であれば1000万円が課税対象になります。しかし、特例を適用している場合は、繰り延べられていた3000万円分も加わり、4000万円が課税対象になるのです。

詳しい内容や要件については国税庁公式ページをご覧ください。

譲渡損失の繰り越し控除

住宅ローンの残債があるマイホームを売却したときにローン残高を下回る価格で売却すると譲渡損失となります。この譲渡損失は、要件を満たしていれば、給与所得や事業所得など、ほかの所得にかかる所得税から控除してもらえます。これを「損益通算」といい、その年に控除しきれなかった損失額は、翌年以降も3年まで繰り越して控除されるのです。なお、譲渡損失では、確定申告を行う必要はありませんが、この特例を受けるためには申告が必要となります。

また、この特例を受けるためには要件を満たしている必要があります。下記に適用要件の例を紹介します。

・ 自分が住んでいるマイホームを売却すること・ 譲渡をする年の1月1日時点で、譲渡予定のマイホームの所有期間が5年を越えていて、日本国内にあるマイホームであること

詳しい内容や要件については国税庁公式ページをご覧ください。

●譲渡所得税に関する記事はこちら
不動産売却にかかる税金は?税金の計算方法と税金対策をご紹介

家、トラック、段ボールの模型と電卓

正しい知識で損のない納税を!

不動産の譲渡所得にかかる税金を納めるときに、正しい知識があれば、節税することが可能です。今回ご紹介した特例についても、知っていれば必要以上の税金を納めずに済むのです。

ほかにも、譲渡所得は親から相続した不動産の場合にも課税されます。すぐ売却したくても「所有期間が短いと税率が高いので」とちゅうちょしてしまうかもしれません。しかし、相続した不動産にかかる所得税の場合、その所有期間は相続前の所有期間も含まれるため、相続の時点で5年を超えていれば長期譲渡所得の税率で計算されます。このことを知っていれば、高額な維持費をかけて5年を超える時期まで所有する必要もなくなりますね。

また、不動産を売却するときには、「より高く売りたい」「期限までに売りたい」「間違えのないように手続きしたい」など、販売活動や手続きに追われ、納税まで意識が向かないことがあります。後になって困らないように、不動産売却を検討する際には、あらかじめ税金についても想定しておくことが必要です。そして、不動産売却によって利益が出た場合は、特例や控除が使えないか確認してみましょう。

●不動産売却に関する記事はこちら
家を売るには?注意点やコツを解説

宮原裕徳

株式会社ラムチップ・パートナーズ 所長。税理士。日本のみならず、東南アジアも含めた不動産にかかわる会計・税務に精通している。法人や個人向けに節税セミナーなども行っている。
https://www.miyatax.com/