相続・遺言における、士業と信託銀行等の違い

自分が他界した後の相続について、事前に手続きを依頼しておける機関として、弁護士・司法書士などの「士業」と、信託銀行・信託会社があります。今回はこの2つについて、どんな違いがあるのかや、手続きの流れを紹介します。

目次
  1. 相続の準備どう進める?
  2. 士業の相続業務と信託銀行等の遺言信託の違い
  3. 相続遺言サービスを利用する流れ
  4. 専門家のサポートで亡くなった後の不安を解消しよう!
記事カテゴリ 相続 シニア
2022.03.15

相続の準備どう進める?

誰にでも必ず訪れることでありながら、あまり考えたくない自分自身の「相続」。身近な人の相続を経験した人であれば、相続手続きの大変さをご存知のことでしょう。

自分の相続について、以下のような理由から、「相続の専門家」に相続手続きをあらかじめ依頼しておく人が増えています。

・家族に相続手続きの負担をかけたくないので、相続の専門家に任せたい
・円滑な遺産分割や相続税節税の観点から、適切な資産承継のアドバイスが欲しい
・素人が作成した遺言書が原因で、相続人の間でトラブルが起こらないようにしたい
・自分の思い通りの財産配分をしたいので、それを実現できる遺言書を作成したい
・法定相続人以外にも財産の一部を残したいが、どのようにしたらよいのか分からない

法律では、遺産を相続する人(法定相続人)やその割合(法定相続分)が定められています。法定相続人が話し合い(遺産分割協議)で法定相続分と異なる割合で遺産を分けることは可能ですが、自分自身財産について自分の意思で配分を指定したい場合は、遺言を残す必要があります。

また、不十分な知識で作成した遺言書があやふやな表現をしていた場合に、財産の帰属をめぐって相続人の間でもめることがあります。

相続の専門家は、さまざまな相続や遺言に関するサービスによる遺言執行の経験を通じて、「この遺言がどのよう
な結果になるのか」をある程度は予測できます。自分の希望に沿った適切な遺言書を作成するには、相続の専門家に相談するとよいでしょう。

シニア男性の手元、印鑑、書類

相続の専門家には、弁護士・司法書士・税理士などの士業のほか、信託銀行・信託会社が挙げられます。相続手続きを依頼する場合に、自分は弁護士に頼んだほうがよいのか、それとも信託銀行がよいのか、分からない人も多いのではないでしょうか?

ここでは、士業が取り扱う「相続業務」(業務の名称はさまざまです)と、信託銀行等が取り扱う「遺言信託」との違いや特徴をお伝えし、自分に合った専門家選びについて考えていきます。

士業の相続業務と信託銀行等の遺言信託の違い

同じ相続の専門家でも、士業と信託銀行等では、その業務内容などに差異があります。それぞれの特徴とメリット・注意点について、以下の4つの切り口から見ていきましょう。

[ 1 ] 構造的な特徴

まず、士業の大半は個人(弁護士法人や司法書士法人などもあります)、信託銀行等は法人です。当たり前と思われるかもしれませんが、大きな違いです。

たとえば、自分と同年代の士業に依頼した場合、自分が亡くなるときにはその士業も高齢になるため、業務を遂行できない状態になっている恐れがあります。一方、法人に依頼すれば、遺言作成時の担当者がいなくても、別の担当者が執行するので安心です。しかし、担当者がたびたび変わってしまうことに不安を覚える人もいるかもしれません。

ただし、士業に依頼する場合でも、同じ事務所に属する別の士業を第2・第3の遺言執行者に指定することで、リスクを軽減することができます。

次に、信託銀行には相続専門の担当者が対応するので、手続きに慣れています。ただ、なかには経験の浅い担当者もいます。士業は前述の通り「相続専門」をうたっている事務所が経験豊富ですが、「専門」でなくても熟練の先生はたくさんいますので、一概には何ともいえません。信託銀行でも士業でも、相談の段階で相性がよくないと感じた場合は、遠慮なく断って、別の所に依頼するようにしましょう。

また、信託銀行等の遺言信託は多数の担当者が同じレベルで業務を行えるように、事務手続きの流れや帳票などが細かく規定されており、業務全体がシステマチックに構築されています。進捗管理もしっかりしていますので、安心感があります。その反面、画一的で融通の効かない対応になりがちなところがあります。

この点、士業は柔軟に対応してもらえることが多く、それぞれの特徴を踏まえて利用を判断したいところです。

三世代家族

[ 2 ] 業務の範囲

士業が行う相続業務と信託銀行等が行う遺言信託では、それぞれ以下のような違いがあります。

信託銀行等が行う遺言信託
遺言信託とは、信託銀行・信託会社が行う業務の1つ。遺言者と相談しながら公正証書遺言の作成をサポートし、遺言者が亡くなった後、その遺言を執行(遺言内容に従って手続き)するサービスです。
公正証書遺言とは、証人2人以上の立会いのもとで、公証人が遺言者の口述を筆記して作成する遺言書のことを指します。

遺言信託の執行範囲は、法律により、財産に関する遺言の執行に限られています。「子の認知」や「未成年後見人の指定」といった、法律上の身分を変更させる行為をすることはできません。つまり遺言信託は、財産の相続に特化した業務といえるでしょう。

遺言信託を利用すれば、特別な相続の知識がなくても、信託銀行等に任せることにより、適切な遺産分配についてアドバイスを受けることができます。また、残された人たちの間でのもめごととなる要因を減らすことや、家族の相続手続きの負担を減らすことにもつながります。

士業による相続業務
弁護士や司法書士などの士業が取り扱う相続業務も、遺言信託とほぼ同様のサービスですが、もう少し守備範囲が広いのが特徴です。

取り扱う遺言書の種類は、公正証書遺言に限らず「自筆証書遺言」にも対応します。自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文・氏名・日付を手書きで作成し、捺印するものです。
また、遺言執行の範囲も特に制限はなく、財産に関する執行のほか、身分に関する執行も行うことができます。「子の認知」「推定相続人の廃除」「未成年後見人の指定」などを希望する場合は、弁護士などに依頼するのがよいでしょう。

また、信託銀行は、遺言者と推定相続人等との間に法的紛争が生じる可能性が高い場合には、遺言信託を受けることができません。明らかにトラブルが発生することが予想される場合には、弁護士に依頼しましょう。

不動産登記を行う司法書士の手元

[ 3 ] 周辺のサービス

遺言信託には、定期照会と死亡通知人の指定が組み込まれていますので、遺言者の死亡を迅速に把握する仕組みが整っています。士業の場合は、これらに対応していないこともありますので、相談のときに確認しましょう。

信託銀行やその代理店は金融機関ですので、金融商品に対する知識が豊富です。財産の運用についても相談することができます。さまざまなコンサルティングを受けることも可能です。逆に、こうしたことがわずらわしいと感じる人もいますので、そこはニーズ次第です。

[ 4 ] 手数料

手数料も大事なポイントです。遺言信託の手数料は信託銀行によって異なりますが、必要な手数料の構成は同じであり、次の3つがあります。

[ 1 ] 遺言書作成時の基本手数料
[ 2 ] 遺言書保管に係る年間保管料
[ 3 ] 相続開始後の遺言執行報酬

どの信託銀行も複数のプランを用意しており、代表的なプランは以下の通りです(消費税別)。

Aプラン:[ 1 ] 30万円+[ 2 ] 年間6000円+[ 3 ] 財産額に応じた料率(1億円まで1.7%など)
Bプラン:[ 1 ] 100万円+[ 2 ] 年間6000円+[ 3 ] 財産額に応じた料率(5000万円まで0.5%+1億円まで1%など)

士業の相続業務も、統一した基準はないのでまちまちですが、一般的には信託銀行の手数料よりは安い所が多いようです。

また、シンプルな遺言の場合は低料金で設定し、不動産の換価などの複雑さに応じて手数料を加算する方式もありますので、相談の際に早い段階で明確な費用を確認することをおすすめします。

ペンとインクと遺言書

相続遺言サービスを利用する流れ

相続・遺言のサービスを利用するために、士業と信託銀行等の両者に共通する「サービス利用の流れ」を確認しましょう。相続の専門家が提供するサービス(ここでは総称して「相続遺言サービス」と呼ぶことにします)を利用する流れは大きく2つあり、遺言者の生前と死亡後に分けられます。それぞれどのような手続きがあるのかを見ていきましょう。

書類に記入するシニア夫婦の手元、印鑑

相続開始前の流れ

検討段階から、利用の決定、契約、遺言者の死亡前までの流れです。

[ 1 ] 相続業務を取り扱う士業や金融機関などに相談
士業や金融機関の全てが、相続や遺言の業務を取り扱っているわけではありません。
同じ士業でも「相続専門」をうたっているところは、相続業務に比較的手慣れているでしょう。また、信託銀行等の場合は、遺言信託を取り扱う信託銀行に直接相談する場合と、その代理店である金融機関(銀行・信金・信組や証券会社など)に相談する場合があります。ホームページから相談の予約を受け付けている金融機関もあります。

[ 2 ] 遺言書作成の準備段階に入る
遺言書作成のサポートを依頼する専門家が決まったら、遺言書作成の準備段階に入ります。
戸籍謄本等を取得して推定相続人を確定し、遺言者の意向に即した遺言書の草案を相談しながら作成します。多くの場合、遺言執行者(遺言者の死亡後に遺言内容を実現する手続きをする人)には、遺言書作成をサポートする専門家を指定することになります。

[ 3 ] 遺言書の作成
公正証書遺言の場合は、公正役場で遺言書を作成します。このとき、サポートを依頼した専門家が証人として立ち会ってもらえる場合がありますが、まったくの第三者に証人を依頼しても構いません。
自筆証書遺言の場合は、自分で手書きして作成します。内容に間違いがないか、専門家にチェックしてもらいます。

[ 4 ] 遺言書を保管する
公正証書遺言を作成すると、遺言書の原本が公証役場に保管され、正本と謄本が遺言者に交付されます。遺言信託の場合は、遺言書正本の保管、定期照会(年1回程度、生存確認や住所確認などをする制度)および遺言執行等に関する契約を信託銀行等と締結します。

このとき、遺言者が亡くなったときに遺言執行者に連絡する「死亡通知人」を指定します。士業の場合には、遺言書正本を保管するケースとしないケースがありますので、確認しましょう。

また、自筆証書遺言はどこに保管しても構いませんが、2020年7月10日から法務局で保管できる制度が始まり、紛失や偽造の防止に役立っています。

遺言書、奥に本棚

相続開始後の流れ

遺言者が死亡し、相続が開始となった後の流れです。

[ 1 ] 死亡連絡
死亡通知人がいる場合は、遺言者が亡くなったことが遺言執行者へ連絡されます。

[ 2 ] 遺言書開示
遺言執行者は、遺言書の内容を相続人および受遺者に開示します。遺言執行者への職務の就任を相続人等に通知し、遺言の執行が始まります。

[ 3 ] 相続財産目録の作成
遺言執行者は財産調査を行い、相続財産目録を調製します。

[ 4 ] 相続手続き
遺言執行者が遺言内容に沿った形で遺産を解約・換金・名義変更などにより分配し、相続手続きがなされます。

[ 5 ] 相続税の申告
遺言執行によって相続財産を取得した相続人は、相続財産の総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に、相続開始後10か月以内に相続税の申告・納付する必要があります。
また、相続開始後4か月以内に、被相続人の所得税について準確定申告・納付します。

[ 6 ] 遺言執行の完了報告
遺言執行者は遺言執行の内容を相続人や受遺者に対して報告し、遺言執行が完了します。

相続財産目録の書類

専門家のサポートで亡くなった後の不安を解消しよう!

相続の専門家による相続遺言サービスは、「自分が亡くなったら、財産はどうなるのか」といった不安を解消する手段の1つです。何も準備しない、または不適切な準備で、相続が「争続」となってしまうことがしばしばあります。

豊富な知識と経験を備えた相続の専門家に遺言作成支援から保管・執行までを任せることで、亡くなった後の不安が解消されることも多いので、不安な人は一度検討してみるとよいでしょう。

また、遺言には「付言事項」として、家族などにメッセージを残すこともできます。財産配分の理由や家族への感謝の気持ちなどを記すことで、相続人の納得感が高まり、より円滑に遺言執行が進む効果もあります。

相続の専門家の力も借りながら、自分の目的や財産に合った相続の方法を選択しましょう!

●相続の相談がしたい人はこちら
【三井のリハウス】遺言信託サポート|シニアデザイン

スーツ姿の男性の手元

監修者:齋藤弘道

遺贈寄附推進機構株式会社代表取締役。一般社団法人・全国レガシーギフト協会理事。
信託銀行にて遺言信託の企画及び受託審査に従事後、証券会社にて相続関連業務を新規立ち上げ。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立し、相続セミナーの講師やコラムの執筆なども行う。
https://www.wizo-kifu.com/