StoryEssay / 2016 08,25 /Part.1

「僕の人生なんて、蹴られて転がる 石の様なもんだなって、思っていました。」

イベント運営会社に勤める勇次(33歳)は、大阪府豊中市で生まれ育ち、明治大学経済学部を卒業。学生時代から10年付き合った恋人とまさかの結婚1年で別れてしまった×1(バツイチ)男。これからお話しするのは、そんな勇次が離婚、転職、友人関係、恋愛、お金など様々な人生の局面で必死にリライフ(=人生の再生)を繰り返し、大きくなっていくヒューマンドラマです。

TVの音量や洗濯物の畳み方、ささいなことで崩れていく二人の関係

Chapter.03

結婚してすぐ担当になったディーラーの集客イベントは土日がメインだったので、新婚早々二人の時間はどんどん潰れていきました。
妻への罪悪感はそこまでなかったですね。これまでずっと一緒にいたし、旦那としてお前のために一生懸命稼いでいるぞ! っていう気持ちがありましたし。働く背中が夫の男らしさでしょ、と思っていましたし。この仕事で評価を得れば、プロデューサーが見えてくる。毎日無我夢中で働きました。仕事、打ち上げ、仕事、打ち上げ、の繰り返し……。

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結婚して半年経った頃だと思います、会話が噛み合わない場面がなんとなく増えていくんですよ。それでようやく妻の様子に違和感を感じました。うまくいっていると信じきっている男は、その水面下で静かに進行している〝うまくいってないこと″に気付かないんですね。

妻のめぐみはいわゆる帰国子女で、出版社で英語の冊子を作っていました。リベラルで合理的なタイプです。当たり前なことが嫌いで理屈っぽい自分とはとても気が合いました。
でもこの頃からだんだんと、彼女が何を考えているのか分からなくなってきて……。

結婚式も最初はしなくていいよねと意思表示したのはめぐみでした。彼女は喜んでゼクシィを買ってくるようなタイプではないし、地味婚のはしりの頃だったので、それもライフスタイルと共感できました。結果的には叔父・叔母連合軍の勢力に押され、やってみればあんなに素晴らしいことはなかったけど。
新婚旅行もお互い仕事に余裕ができた時と決めたはず。なら、何が不満なんだと。
新居は三宿に借りた50㎡の1LDKの古いマンション。駅までも歩くけど、広さと静けさで決めました。

お互い定時で上がるなんてことはなかったけど、深夜に帰宅して、一緒にリビングで音楽を聴きながら、軽い晩ごはんとビールを飲むのは素敵な時間でした。
でも、それも最初だけ。理想と現実は、些細な部分で結構違うものです。これまでサバサバしていたタイプのめぐみも、同居し始めると甘えるようになりました。新婚ってそういうものかなと思いましたが、正直ちょっと馴染めずにいました。ちょっとしたことに違和感やすれ違いが出て来ちゃって。TVの音量や洗濯物の畳み方でも揉めるようになりました。気付いたら、もう会話がなくなって。たかが半年で。

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自分を変えたい、という強い決意 減給覚悟で臨んだ転職活動

Chapter.04

自分を変えなくてはいけない、と真剣に思ったのは、人生で初めてかもしれません。会話がなくなる前からお互い自分の話が多かったから、本気で妻に歩み寄ることから始めました。そして、ひそかに始めた転職活動。目的は出版社です。妻と同じフィールドに立ちたいと。しかも妻に教えを乞う立場で。

「ねえ、下版ってどういうことかな?」
「イラストレーターさんにどうやって発注するといいんだろ?」
「インタビューってさ、やっぱりテレコあった方がいい?」

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幸いに30歳は転職市場に有利で、縁あってわずか1ヶ月で小さな出版社に移ることが出来ました。イベントでも冊子は作っていたし、本は好きだったので何とかなると突っ走りました。給料は7割に下がったけど妻との会話は想定した通り増えました。

これで何とかなった、とほっと安心したのも束の間でした。