StoryEssay / 2017 09,04 /Part.1

自由が丘同棲作戦会議

別々の場所で生まれ育ち、そして上京して出会った、とあるカップル。そんなありふれたふたりが「東京」という街で共に暮らしていく些細な日常を、ライター・カツセマサヒコさんが丁寧に描くショートストーリーです。

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「遅くまで飲んだ日は、オシャレなカフェに入ってコーヒーを頼んで、人間観察しながらゆっくり酔い冷ましして夜に浸るのが正解に決まってるでしょ」

それが、いつだって可憐でロマンチックを求める彼女が、中目黒に住みたい理由だった。

「だったら、代官山でも良くない? てか、オシャレなカフェならどこでもあるよね? 今なら清澄白河とか」
僕は僕なりの正論をぶつける。しかし、それは彼女にとっての想定質問だったらしい。

「じゃあ、春になったら何がしたいですか?」
「んー、花見とか?」
「はい、目黒川があります! これで中目黒決定ッ!」
「いや、目黒川なんて絶対混んでるじゃん。近所に住むと面倒くさいだけだよ。まだ神田川の方がすいてるかも……」
「うわー、無難、ほんっと無難!」
「だって、事実でしょ」
「むしろ、混んでるなか歩くことが楽しいでしょ! 花火大会だって、みんなが集まってるから“大会”じゃない?」
「いや、大会だから、人が集まるんだよ」
「あーもう、そういう話をしてるんじゃないんです」
「なんなんだよ」
珍しく僕がツッコんだ。

女子は理屈や論理では動かないときがある。とくに彼女に関しては、ノリが全ての節もあった。普段から石橋を全力で叩いた末、叩きすぎて不安になったから渡らないこともある僕にとって、彼女のそれはやかましくも羨ましく感じられた。

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「だから、中目黒にしようよ」
改めて、彼女は言った。

僕は少し考えてから、条件を伝える。
「じゃあ、1LDK以上で、家賃が11万を超えないこと。ワンルームだったら、即却下」

「お! その条件に当てはまれば、中目黒に住んでいい!?」
「まあ、いいよ。俺、住みたい街とか、そんなにないから」

彼女の瞳が一層大きくなる。喜怒哀楽の振り切れ方がどれも大袈裟なくらいなのが、彼女を見ていて飽きない理由のひとつでもある。

「はい! 探します! 絶対見つけるから! やったー中目黒―!!!」

こうして期待ばかりが膨らんだ状態で、自由が丘での作戦会議は終わった。

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店を出ると、家族連れで賑わう駅前の喧騒に巻き込まれる。
そこから逃げ出すように足早に路地へ抜けると、欧州を意識したと思われる、緑道とベンチが中央に並んだ優雅な商店街にぶつかる。

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そうして僕らは通い慣れた彼女の家へと向かう。

その足は、人生初めての同棲生活に向けて、浮き足立っていた。

【次回】
同棲先候補として挙がった中目黒。「ふたり暮らし」という小さな人生の分岐点に立つふたりは、果たして理想の暮らしをスタートできるのでしょうか。次号、実際に同棲生活を始めたふたりの姿を追います。

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