認知症予防の方法とは?生活習慣を見直すポイントと対策を解説

注意力の低下や、物事を記憶するのが困難になる認知症。完全に防ぐことは難しいですが、適度な運動やバランスの取れた食事など、予防策としてできることはたくさんあります。今回はWHOが公表する「認知症予防ガイドライン」をもとに紹介します。

目次
  1. 認知症とは?
  2. 認知症を予防する5つのポイント
  3. そのほかの認知症予防対策
  4. 明るく健やかな明日のために予防と対策を!
記事カテゴリ 親のケア シニア
2022.08.08

認知症とは?

認知機能低下の強力な原因は「加齢」といわれています。年齢を重ねるごとに、「もし、親や自分自身が認知症になったら、どうしよう…」という不安を抱く人は多いのではないでしょうか?

現在、認知症の人は増加傾向にあり、1980年〜2000年代にかけて、65歳以上の高齢者における割合は3.8~11%、2012年は15%で462万人と報告されており、このままの割合で行けば、2025年度には675万人に増加すると推定されています。※1

公園を散歩するシニア世代の夫婦

認知症の症状はさまざまです。「注意力が低下し、複雑なことが理解できない」「家事や仕事の段取りがスムーズにできない」などの症状が見られるほか、ただの物忘れとは異なり、記憶の衰えによって、「自分が行動したことを記憶できない」「言語を忘れる」「計算できなくなる」というような症状もあります。また、空間認知力がなくなって「道に迷う」「幻視や錯覚を起こす」といった症状が見られることもあります。

認知症にはいくつか種類があり、最も多いタイプが「アルツハイマー型認知症」、次に多いのが「血管性認知症」と「レビー小体型認知症」といわれています。

アルツハイマー型認知症は「アミロイドβ」と「タウ」という2つのたんぱく質が脳内にたまって神経細胞に障害を与え、脳が萎縮していく病気です。症状として、認知機能の低下や、物事への興味の喪失などが見られます。

また、血管性認知症は、脳卒中によって起こる認知症で、記憶障害や言語障害などのほか、歩行障害、感覚障害、運動まひなどの症状を伴うことがあります。記憶障害が目立っても、判断力や知識が保たれることもあるため、「まだら認知症」とも呼ばれます。

レビー小体型認知症は、「αシヌクレイン」というたんぱく質が脳内にたまり、徐々に脳機能に障害が起き、表情の変化が乏しくなったり、幻視の症状が出たりします。

このほか、行動障害、認知機能障害、運動障害などが見られる、「前頭側頭型認知症」というタイプもあります。数多い認知症のなかでも、以上のタイプが4大認知症と呼ばれています。

現代医学では、完全に認知症を防ぐことは難しいですが、研究によって認知症になりにくい生活習慣や食生活があることが分かってきています。

今回は、WHO(世界保健機関)が公表する「認知症予防ガイドライン」※2を参考にして、今から始められる予防法を解説していきます。

認知症を予防する5つのポイント

前述の通り、生活習慣によって認知症になりにくい状態にすることが可能です。ここでは、認知症予防のためのポイントをお伝えします。

適度な運動

適度に運動し、脳を刺激することが認知症のリスクを軽減するといわれています。WHOの調査報告によると、認知機能の低下を防ぐためには、筋力トレーニングよりも有酸素トレーニングのほうが効果が大きいというエビデンスがあります。

有酸素運動とは、ウォーキング(早歩き)、ジョギング、エアロビクス、水泳などのこと。膝に痛みがある人は、プールで水中ウォーキングをするのもよいでしょう。

WHOは、こうした有酸素運動をすることで持久力がアップし、骨を健康にする働きが活発化し、さらにうつ病のリスクも低減すると公表しています。

また、1回の有酸素運動は、10分以上を心掛け、週150分程度の有酸素運動を推奨しています。運動習慣がない人であれば、30分程度の早歩きを週3回程度行うとよいでしょう。早歩きを行った人のなかで、認知機能の低下が見られた人は少なく、早歩きが認知症の発症を減少させているという結果も出ています。

早歩きをするシニア夫婦

栄養バランスのよい食事

栄養のバランスがよい健康的な食事は、生涯を通して健康維持のために重要な役割を果たします。食事が認知症リスクを高める糖尿病や脳血管疾患などの予防にかかわっていることが、実証されているのです。

WHOのガイドラインでは、栄養バランスのよい食事として、地中海料理を推奨しています。地中海料理の特徴は、肉より魚が多く、さらに野菜や果物、豆類が多い点です。

さらに、穀物は玄米や全粒粉、オート麦などの未精製のものを積極的に摂取し、食塩が多い食品、加工品、ファストフード、乳製品は控えることをすすめています。

ただし、日本人の乳製品の摂取量は欧米人に比べて少ないため、日本人は積極的に摂ってよいという見解もあります。

魚をメインにした食事

脳トレーニング

WHOでは、「認知活動の増加が認知予備能を刺激し、急速な認知機能低下をやわらげる効果がある」と報告しています。 認知予備能とは、神経障害が起きてもうまく対処して、それを補う脳の機能を指します。

また、認知活動レベルが高い人は、低い人と比較すると、軽度認知障害またはアルツハイマー型認知症になる確率が低下する可能性があるようです。

認知活動を増やすために、脳トレで脳の隅々まで血流を流すようにしましょう。将棋やオセロなどのボードゲーム、ドリルやパズル、日記を書いたり、本を音読したりするのもおすすめです。また、買い物の際に合計金額を暗算するのも、脳を活性化する方法の1つです。

将棋の山崩しをして遊ぶシニアの女性

社会活動への参加

社会とのかかわりは幸福や健康に結びついており、「社会参加が少ない」「社会交流が少ない」、または「孤独を感じる」ことは、認知症のリスクを高めるとWHOは報告しています。

人との会話を増やす、外に出る機会を増やす、仲間と交流する、共同作業を行う、または多くの人に成果を発表する機会を作るなど、積極的に社会とかかわっていくことが大切です。

生活習慣病の治療

認知症を引き起こす要因の1つに、糖尿病、高血圧症などの生活習慣病があります。

まずは、生活習慣病にならない生活を送ることが大切です。

生活習慣病の人、またほかの持病がある人は、体調不良をきっかけに、認知症を発症することもあります。持病を治療することが認知症予防になるため、治療に専念することをおすすめします。

また、定期的に診察・治療を受け、自分の健康管理を行うようにしましょう。

そのほかの認知症予防対策

認知症の発症リスクを軽減させる5つのポイントをお伝えしてきましたが、そのほかにもいくつかの予防対策があります。見ていきましょう。

聴力低下を放置しない

年齢を重ねると聴覚が低下し、耳が聴こえにくくなります。そのまま聴力の低下を放置しないようにしましょう。放っておくと、脳に入る情報が少なくなるため、神経細胞の活動が衰えて、認知症のリスクが高まります。

聴力の衰える年齢は個人個人異なり、50代で難聴になるケースもあります。「なんとなく聞き取りにくい」と感じたら、耳鼻科の診察を受けることをおすすめします。耳が聴こえにくくなってしまったら、補聴器をつけて、認知症のリスクを軽減させるようにしましょう。補聴器は、耳鼻科で1人ひとりの耳に合うように調整してもらえます。

シニア女性の耳

睡眠の質を上げる

認知症リスクを軽減させるためには、睡眠の質を上げることが大切です。アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβの蓄積は、睡眠不足が関係していることが分かっています。通常は、脳内に生じたアミロイドβは睡眠時に血液中に排出されて、肝臓に運ばれ無毒になります。しかし、睡眠不足だとアミロイドβが排出されずに蓄積されやすくなり、アルツハイマー型認知症になりやすいと報告されているのです。

高齢者のなかには、入眠が困難になったり、夜中に何回も起きたり、早朝に目覚めたりして、慢性的な睡眠不足に陥っている人もいます。

規則正しい生活リズムを保ち、夜間の睡眠の妨げになる原因をなくすように心掛けましょう。睡眠前にリラックスできるアロマオイルを炊く、マッサージする、といった方法も睡眠の質を高めるために効果的です。また、睡眠不足解消のためには、30分程度の昼寝がよいとされています。

歯周病を予防する

認知症は脳の炎症によって起こる病気です。脳の炎症は、歯周病の影響を受けやすく、歯周病が増強されると、認知症が進行することが確認されています。

歯周病によって抜けた歯の本数が多い人ほど、認知症を発症しやすいことが、研究結果から明らかになっているのです。

歯周病にならないように、日頃の手入れを怠らずに行いましょう。また、歯周病の疑いがある場合は放置せず、歯科医に行き、適切な口腔ケアを行いましょう。また、歯が抜けている場合は、人工の歯を入れて、かみ合わせがしっかりできるようにすることをおすすめします。

歯科医と患者

喫煙とお酒の飲みすぎを止める

認知症の発症リスクを高める生活習慣として、喫煙と飲酒も挙げられます。

喫煙者は非喫煙者よりも認知機能が低下しやすく、うつ病や生活習慣病のリスクも高めてしまいます。喫煙の習慣がある人は、すぐ禁煙することをおすすめします。

また、お酒の飲み過ぎも認知症のリスクを高めます。アルコールをたくさん摂取すると、脳が萎縮することが分かっています。年を重ねると、若いときよりアルコールを分解する力も弱まるため、飲みすぎは控えるようにしましょう。

明るく健やかな明日のために予防と対策を!

現代医学では、まだ決定的な認知症の予防方法は見つかっていないのが現状です。認知症は、すぐに症状が出るわけでなく、症状が発症するまでに、20年、あるいは25年かかるといわれています。従って、予防を始めるのが早すぎる、ということはありません。

今から取り組める対策があると感じた人は、積極的に予防に取り組むことをおすすめします。

何よりも、生きがいを持つこと、人間関係を円滑にすること、普段から栄養バランスのよい食事をし、適度な運動をすることが大切です。そして、十分に睡眠が取れるように、規則正しい生活を心掛けていきましょう。

あまり深刻になるとストレスがたまり、かえって認知症のリスクを高めかねません。楽しく、予防対策に取り組んでくださいね。

それでも認知症を発症してしまった場合、早期発見が重要な鍵となります。自分自身の行動に異変を感じたり、家族や周囲の人がその人の行動や認知力に異常を感じたりしたら、早めに検査を受けるように促し、適切な治療を始めるようにしましょう。

また、万が一認知症になってしまったときのことを考えて、対策を取っておくことも重要です。認知症になってしまった場合に困ることの1つとして、財産管理があります。認知症になってしまうと、財産を所有する本人や周囲の人が自由に財産の管理や処分ができなくなってしまうことがあるのです。

認知症になったときに子どもや周囲の人へ代わりに財産管理を任せられるように、「家族信託」や「成年後見制度」の利用も考えておきましょう。こうした財産面の対策も取りながら、日々の生活のなかで認知症の予防対策をしていくことをおすすめします。

●家族信託に関する記事はこちら

●成年後見人に関する記事はこちら

※1出典:認知症診療ガイドライン;一般社団法人日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_01.pdf
(最終確認:22年7月4日)

※2出典:認知症低下および認知症のリスク低減WHOガイドライン;厚生労働省老人保健健康増進等事業 『認知機能低下および認知症のリスク低減』 邦訳検討委員会
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf
(最終確認:22年7月4日)

内門 大丈

医療法人社団彰耀会メモリーケアクリニック湘南理事長/院長。
横浜市立大学医学部臨床教授、日本認知症予防学会神奈川県支部支部長など、
精神・神経領域において多岐にわたり活躍中。そのほか、著書の執筆も行う。
http://www.memorycare.jp/