成年後見人とは?成年後見制度の概要や後見人の職務について解説

自分や親が認知症や知的障害などで十分な判断能力がなくなったとき、本人に代わって契約の締結や財産管理を行う「成年後見人」。誰がなれるのか、どのように選ぶのか、またかかる費用などについてご紹介します。

目次
  1. 成年後見人とは?
  2. 成年後見人制度の種類
  3. 成年後見人になれる人、職務と権限
  4. 成年後見制度の手続き
  5. 成年後見制度にかかる費用
  6. 専門家のアドバイスをもらうと安心
記事カテゴリ 相続 親のケア シニア
2023.03.30

成年後見人とは?

「成年後見人」という言葉は聞いたことがあるものの、具体的に何をする人か、誰がなれるのか、また、どのような状況で必要になるのかなど、実はよく知らないという方は多いのではないでしょうか?

成年後見人とは、「成年後見制度」に基づいて、認知症や知的障害などによって判断能力が不十分な人の代わりに法律行為を行う人のことです。具体的には、契約の締結や解除、財産の管理を本人の代わりに行い、法律の観点から本人を保護・支援します。

成年後見人の選任を検討すべきシチュエーションには、以下のような例が挙げられます。

・認知症の親が何度も同じものを購入したり、契約したりしてしまう
・判断能力が衰えた人の財産を親族が勝手に使っている
・遺産分割協議を進めたいが、被相続人の判断能力が十分ではない
・施設入所費用を捻出するために親の不動産を売却したいが、認知症のため本人が行うことは難しい
・知的障害を抱えた親族がいる など

今回は、老後に備えて成年後見人について知っておきたい方、また親や親族の将来が心配な方のために、成年後見人の役割や適任者、成年後見人を選ぶための手続きや費用などについて、詳しく解説します。

背中合わせで座る老夫婦

成年後見人制度の種類

成年後見人の必要性を感じたとき、誰にどういった方法で成年後見人になってもらえばよいのでしょうか?ここからは成年後見人制度の種類や、資格、選任方法をお伝えします。

成年後見人制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」という2種類の制度が存在します。この2つの制度のどちらを利用するかは、成年被後見人(成年後見人による支援が必要な人)の判断力があるかどうかを基準にして選びます。また、判断能力が不十分な成年被後見人のことを「本人」と呼ぶことが一般的です。

法定後見人制度は、成年被後見人(本人)の判断力が不十分と判断される場合に採用され、家庭裁判所が成年被後見人の状況を見て、成年後見人に適した人を選びます。

さらに法定後見のなかには、「後見」、「保佐」、「補助」と、3つの形態があります。代理人としての権限には幅があり、補助人(法定後見)→保佐人(法定後見)→後見人(法定後見)の順で権限の幅が広くなり、後見人、保佐人、補助人の選択は、本人の認知症や障害の度合いによって決まります。

一方で、任意後見制度は、成年被後見人の判断力がまだ十分にある場合に採用される制度です。まだ十分に判断力があるうちに任意後見人になってもらう人を成年被後見人が選び、支援する内容を事前に決定し、契約しておくのが通例です。任意後見人の権限は任意後見契約に従って決まります。

成年後見人になれる人、職務と権限

成年後見人には、どのような人がなれるのでしょうか?成年後見人の職務や権限と併せてお伝えします。

二世帯家族

成年後見人になるには?

成年後見人になるために、特別な資格は必要ありません。親族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることもあります。ただし、下記の条件に当てはまる場合は、成年後見人になる資格を持ちません。

・未成年者
・破産者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・成年被後見人(本人)に対して訴訟を起こしている人、または過去に訴訟を起こした人、並びにその配偶者及び直系血族
・行方の知れない人

上記にある法定代理人とは、法律によって本人に代わって法律行為を行うことのできるとされている人のことです。成年後見人や、未成年者にとっての父母などが該当します。

ただし、一度成年後見人が定まると成年後見人の変更は容易に認められないという点に注意が必要です。一方で、特例として家庭裁判所が成年後見人を変更する以下のようなケースもあります。

成年後見人が辞任した場合
成年後見人から辞任の申し出があり、その理由に正当な理由があるとき(裁判所の許可が必要)。

成年後見人が解任された場合
成年後見人に不正な行為、著しい不行跡、そのほか後見の任務に適しない事由があるとき(横領や利益相反などといった不正行為や権限の濫用、任務の怠慢があったときなど)。

成年後見人の職務

成年後見人の職務には、下記の3つが挙げられます。

財産管理
成年後見人は、本人に代わって、本人の財産を適切に管理することが求められます。財産管理の具体的な内容としては、年金の受領や預貯金や有価証券類の管理、収支の把握などがあります。成年後見人は財産管理の職務を全うするために、本人の代わりに契約の締結(代理権の行使)や契約の取り消し(取消権の行使)を行います。

通帳と印鑑と家の模型とカレンダー

身上監護
成年後見人は、本人に代わって法的な契約行為を行うことで、本人の安全と健康を守らなければなりません。本人の安全と健康を守るための職務を全うするために、住まいの確保・整備や、介護保険サービスの契約、介護施設や病院の入退院の手続きを行います。

職務内容の報告
成年後見人は、上記でお伝えした財産管理や身上監護を適正に行っていることを示す報告書を、家庭裁判所へ年1回提出する必要があります。提出するのは、後見等事務報告書、財産目録、預貯金通帳のコピー、本人収支表の4種類です。報告を受けた家庭裁判所は、成年後見人に対して監督を行います。これにより、成年後見人も自身の職務をより最適な形で進めていくことが可能となるのです。成年後見監督人が選任されている場合は、監督人に対しても報告する義務があります。

成年後見人の権限

成年後見人には、職務を行うために、下記の権限が与えられています。

・本人からの委任状なしに契約を締結できる代理権
・本人が結んだ契約を取り消せる取消権
・本人に代わり財産の管理や処分を行える財産管理権

ただし、制約が生じる行為が大きく2つあります。1つは居住用不動産を処分する場合です。本人の居住用不動産を処分(売却したり、賃貸に出したりすること)するには、家庭裁判所の許可が必要になります。ただし、居住用ではない不動産の処分は、この限りではありません。

2つ目は、本人ではなく、成年後見人に利益となるような法的判断をする場合です。本人(成年被後見人)と成年後見人が利益相反するような場合には、特別代理人を選任するか、または成年後見監督人が本人の代理を務めることになります。本人と成年後見人との間の取引や、本人と成年後見人がともに相続人になっている遺産分割協議などがこれにあたります。

家の模型と印鑑、不動産売買契約書

成年後見人の職務・権限に含まれないこと

成年後見人の職務はあくまで法的に重要な判断のみであり、それ以外は成年後見人の職務ではありません。たとえば、下記のようなことは、成年後見人の職務や権限には含まれません。

日常の家事
食事のサポートや買い物、掃除・洗濯といった家事などの生活支援及び成年被後見人の介護は、成年後見人の職務ではありません。

医療行為への同意
手術に対する同意は本人または家族が行います。本人の生命にかかわることへの責任を、本人や親族以外の成年後見人が負うことはできません。

身元保証
賃貸契約や施設の入居契約時に、身元保証人や身元引受人になることも、成年後見人の包括的代理権には含まれません。

身分行為(結婚や離婚など)、遺言書の作成
本人でなければできないこと、達成できないことを、成年後見人が代理で行うことはできません。たとえば、離婚、養子縁組、離縁、生前贈与などがこれにあたります。遺言書の作成も本人自身がしなければならない行為です。

成年後見制度の手続き

成年後見人を選ぶには、具体的な手続きをしなければなりません。任意後見と法定後見それぞれの場合について、どのように手続きを進めるのかを詳しく見ていきましょう。

家庭裁判所

任意後見の場合

任意後見で後見人を選び、職務を果たしてもらうには、以下の手続きが必要です。

[ 1 ] 任意後見契約を結ぶ
任意後見では、本人が元気なうちに任意後見人を選びます。任意後見人には、将来自分の後見人になってほしい人を選び、任意後見契約を結びます。安心できる親族や、弁護士、司法書士、税理士などの士業から選ぶのが一般的です。

任意後見契約を結ぶ際は、「公正証書」で行います。公正証書とは、法律に関する知識と経験豊富な公務員である公証人が作成する証書のことです。契約は、本人の意思を確認したうえで、契約内容が法律に沿っている必要があるため、公正証書の形で結ぶように法律で定められています。

公証人は法務局で任意後見契約を登記します。登記が終わると、法務局から「登記事項証明書」が交付されます。この段階では任意後見人候補者は「任意後見受任者」という立場にすぎず、任意後見人としての職務・権限はまだ発生していません。

任意後見の効力が発揮するのは、本人の判断力が低下した後からで、次に説明する任意後見監督人の選任後になります。

[ 2 ] 任意後見監督人の選任を裁判所に求める
本人の判断力が低下すると、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることになります。一般的に、任意後見監督人に選ばれるのは、本人の親族ではなく、専門職の第三者です。また、監督人の選任申立手続を行えるのは、本人やその配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者です。

任意後見監督人が選ばれると、任意後見を委任された候補者は、任意後見人としての職務を始められます。任意後見監督人の職務は、任意後見人が任意後見契約の内容通りに、適正に仕事をしているかを監督することです。任意後見人から財産目録などを提出させることも仕事の1つとなっています。

本人と任意後見人の利益が相反した場合に法律行為を行う際は、任意後見監督人が本人の代理になります。任意後見監督人はこうした事務について家庭裁判所に報告する義務があるため、家庭裁判所の監督を受けることになります。

天秤と羽ペンと書類

法定後見の場合

法定後見で法定後見人を選ぶ場合は、以下の4ステップを踏みます。

[ 1 ] 申立準備
多くの場合、法定後見制度による成年後見人の選任は、本人の判断能力が低下したことを周囲が認めた後、家庭裁判所に申し立てを行うことから始まります。後見人の有力な候補者が身内にいない場合でも、家庭裁判所が法定後見人を選んでくれます。

申立準備には、申立書一式(家庭裁判所でもらう、またはホームページからダウンロードが可能)、医師の診断書、後見人候補者、親族の同意書などが必要です。申し立てに必要な書類をそろえたら、本人の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。

[ 2 ] 審理
申し立てに必要な書類が家庭裁判所に届くと、家庭裁判所が審理を開始します。

裁判所の担当者(調査官)が、法定後見人の申し立てをした人に事情を直接聴きます。申し立てた人や本人ばかりではなく、親族の意向を確認するほか、後見人候補者の適性もチェックします。さらに、法定後見人が必要とされる本人の状況を確認するために、必要であれば医師に精神鑑定をしてもらうこともあります。

裁判所調査官による調査の報告を受け、裁判官が成年後見を開始するかどうかの検討を行います。

公証役場

[ 3 ] 審判
成年後見人の必要性が認められた場合、裁判官は成年後見を開始する旨の審判を下します。審判の結果は、成年後見開始を申し立てた人、本人、成年後見人宛に通知します。

[ 4 ] 後見登記
裁判所からの通知後、2週間以内に不服申し立てをしなければ、裁判所の審判は確定となります。確定となった法定後見人は法務局で登記され、正式な成年後見人となります。

成年後見制度にかかる費用

任意後見人と法定後見人、どちらを立てるにしても費用がかかります。何にどれくらいの費用がかかるのか、順に見ていきましょう。

電卓を持つ手

任意後見監督人・成年後見開始の申立てにかかる費用

任意後見・法定後見どちらにおいても、裁判所への申立時に費用がかかります。内訳は以下の通りです。

費用の種類金額
収入印紙3,400円分
(内訳:申立1件につき800円分+2,600円分)
鑑定費用(本人の判断能力について)10~20万円程度
医師の診断書の作成費用数千円程度(病院ごとに異なる)
その他住民票や戸籍謄本の発行代、送付費用など

※1

公正証書作成にかかる費用(任意後見のみ)

任意後見制度を利用する際は、上記のほかに、任意後見契約公正証書の作成に費用がかかります。内訳を見ていきましょう。

任意後見契約公正証書の作成時

費用の種類金額
公正証書作成手数料11,000円
登記嘱託手数料1,400円
登記所に納付する印紙代2,600円
その他本人らに交付する正本等の証書代、登記嘱託書郵送用の切手代など

※2

キューブとお金

報酬(専門家に依頼した場合)

成年後見人や任意後見監督人への報酬は、裁判所が申立てに基づいて「審判」により決定します。審判によらずに報酬を受け取ることはできません。東京家庭裁判所によると、通常の後見事務を行った場合、法定後見人への報酬は月額2万円が目安です。ただし、管理財産に応じて報酬は変わってきます。管理財産額が1,000万円以上で5,000万円以下の場合は、財産管理事務が複雑で困難になるケースが多いため、月額の報酬額の目安は3万円~4万円となります(ただし、実態はこれらの目安と異なる場合もあります)。

一方、任意後見人の報酬は、任意後見契約で定められた金額を受け取ることができます。

専門家のアドバイスをもらうと安心

成年後見人を選任する手続きには、手間と費用がかかります。しかし、上手に利用すれば、判断能力が衰えた人の生活や財産をしっかりと守ることができる制度です。

成年後見制度を利用する際には、弁護士や司法書士などの法律の専門家に相談するのがおすすめです。なぜなら、成年後見人を選ぶには、裁判所への申立てに多くの書類が必要となるほか、成年後見人が決まった後も家庭裁判所に定期的な報告が必要になるなど、法律にかかわることが非常に多くあるためです。

専門家からのアドバイス

さらに、成年後見人を立てた後には、遺言や相続対策などといったことも視野に入れる必要があります。その都度、法律の専門家のアドバイスを受けながら進めていくと安心ですよ。

なお、親が認知症になってしまった場合、親の自宅を売却するには、成年後見人制度を利用する必要があります。しかし、親が認知症になる前に「家族信託」を活用すれば、親が認知症になっても成年後見人を立てることなく、子が不動産を売却することが可能です。家族信託とは、資産の所有・譲渡といった権限を家族に与える信託契約のことで、家庭裁判所は関与しない契約のことです。かかる費用は初期費用のみで、ランニングコストは発生しません。

三井のリハウスシニアデザイングループでは、成年後見人制度の活用や、家族信託に関するコンサルティング、手続きのサポートを行っています。成年後見人制度や家族信託の利用を検討している方は、ぜひご相談ください。

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家族信託とは?認知症による財産凍結を防ぐために今からできること

※1出典:申立てにかかる費用・後見人等の報酬について,裁判所
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/hiyou/index.html
(最終閲覧日2023年3月17日)

※2出典:任意後見制度とは(手続の流れ、費用),厚生労働省
https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/optional_guardianship/
(最終閲覧日2023年3月17日)

柴田剛

弁護士法人ASK川崎所属。弁護士。
交通事故、相続、債務整理などのいわゆるマチ弁業務のほか、スポーツ法務にも注力している。
https://www.s-dori-law.com/