不動産鑑定とは?査定との違いや不動産鑑定士に依頼する流れを解説

不動産鑑定とは国家資格を持つ不動産鑑定士が不動産の適正な価格を算定することです。公的な信用力を持ち、不動産会社が行う査定とは異なります。今回は不動産会社が行う査定との違いや、鑑定が必要な場面、依頼する際の流れを解説します。

目次
  1. 不動産鑑定と不動産査定の違いは?
  2. 不動産鑑定の方法は?
  3. 不動産価格に影響する要因は?
  4. 不動産鑑定の流れ
  5. 不動産鑑定にかかる費用は?
  6. 売却するなら不動産査定がおすすめ
記事カテゴリ 売却 費用
2023.10.11

不動産鑑定と不動産査定の違いは?

土地や一戸建て、マンションなどの不動産の価値を見積もる方法には、不動産鑑定士による不動産鑑定と、不動産会社による不動産査定の2つがあります。

不動産鑑定士試験に合格した不動産鑑定士のみが行う不動産鑑定は公正な価格として公的な信用を持つため、公共性の高い場面で土地や建物などの適正な価値を証明する際に用いられます。一方、不動産会社が行う不動産査定は、不動産を売却する際に市場価値を算出するもので、不動産鑑定のような公的な信用力はなく、算定方法や確認する内容は任意となっています。

この記事では、不動産鑑定の方法や価格に影響する要素、不動産鑑定士への依頼方法などを分かりやすく解説します。まずは不動産会社による不動産査定との違いについて見ていきましょう。

家の模型

不動産鑑定

不動産鑑定では、資格を持った不動産鑑定士が不動産の適正な価値を求めた不動産鑑定書を作成します。不動産鑑定書は、不動産に関する高度な知識が求められる難易度の高い試験に通った不動産鑑定士のみが作成を認められたものであるため、公的な信用力を持ちます。不動産鑑定が用いられる主な場面は以下の一覧をご覧ください。

・毎年2回公的団体によって公表される土地の価値(公示地価、基準地価)の算定根拠
・固定資産税や相続税の課税基準の算定根拠
・不動産を扱う裁判での価格の根拠
・公的機関が所有する不動産の競売基準価格の算定
・金融機関が不動産に対して行う担保評価
・公的機関や企業が行う不動産の売買価格(参考価格)
・民間の相続や離婚時の財産分与 など

正式な不動産の鑑定評価には一般的に数十万円以上が必要ですが、10万円程度から依頼できる簡易鑑定もあります。簡易鑑定では鑑定書ではなく「意見書」、または「不動産調査報告書」という書面が作成されます。ただし簡易鑑定は、不動産の価格は提示されますが公的な信用力は低く、内容の正確性が不動産鑑定書にはやや劣るでしょう。

そのため上記に挙げたような公的な証明が必要な場面で用いることはできませんが、使用する場面によっては十分な精度を持っています。簡易鑑定が用いられる場面は主に以下の通りです。

・企業が不動産の価値を知りたいとき
・不動産のオーナーが賃料を決めるとき
・不動産売買の前に、不動産の価値を知りたいとき など

このように、自分や家族だけの参考資料や、企業が内部資料として利用し他人や外部へ提出する必要はないと判断される場合には有用です。

ルーペと電卓

不動産査定

不動産査定とは、不動産を売却するときに不動産会社が土地や建物の価格を見積もることです。不動産会社が独自に見積もった価格であるため、公的な信用力はなく証拠能力はありません。不動産の売却を検討する売主が、どのくらいの価格で売却できそうなのかを知るために依頼するものが不動産査定となります。

不動産査定は無料で申し込めるため、気軽に依頼できます。ただし、査定する不動産会社の実績や営業力などの差が査定額に影響するため、不動産会社によって査定結果は異なることが一般的です。企業のサイトや口コミなどを見て実績が豊富で信頼できる不動産会社に依頼しましょう。

●不動産査定に関する記事はこちら
不動産査定とは?方法や流れについて、不動産売却を成功させるポイントと併せて解説

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不動産鑑定の方法は?

不動産鑑定(不動産の評価額の算出)には、3つの方法があります。鑑定する物件によって主体となる方法は異なりますが、複数(可能な限り3つ)の方法を用いることが一般的です。そこから鑑定士が調整を加えて、論理的に説明できる評価額を算出します。ここでは不動産鑑定の方法について詳しく解説します。

不動産鑑定士

取引事例比較法

取引事例比較法は、評価の対象となる不動産と近隣の地域もしくは少し広域内で類似する不動産の取引事例をもとに、価格を求める方法です。駅からの距離や接道条件などの立地、建物の構造、面積や築年数などが類似している不動産の過去の取引価格から、取引の事情、時点の違い、地域の違い、不動産個々の要因などを比較して試算価格を算出します。

収益還元法

収益還元法は、基本的に不動産から得られる収益を還元利回りで割り戻して試算価格を求める方法です。主に賃貸マンションやアパートといった投資用の不動産の評価に用いられます。ただし、一般的な一戸建てやマンションでも貸した場合を想定して収益還元法による試算価格を求め、鑑定評価に利用します。なお、収益還元法で求めた試算価格を「収益価格」といいます。

この方法はさらに「直接還元法」と「DCF法」の2つに分類されます。直接還元法は、一定期間(たとえば1年)の純収益(家賃収入から経費を引いたもの)を、還元利回りで割り戻して価格を求める方法です。DCF法は、その物件から将来得られるであろう毎月の利益と将来売却した場合の価格を、収益の発生時期に応じて現在の価値に置き換えたものを合計して試算価格を求める方法です。「直接還元法」に比べて、「DCF法」のほうが精度は高くなりますが、計算方法はより複雑です。

●収益還元法の詳しい計算方法に関する記事はこちら
不動産価値の決まり方とは?査定の基準や資産価値の調べ方、計算方法をご紹介

原価法

原価法は、評価する時点で、土地や建物を改めて取得・建築する場合の原価(再調達原価)を求めたものから、経年や地域の状況などの減価(価値の減少分)を差し引いて試算価格を求める方法です。この方法で求めた価格を「積算価格」といいます。

道路沿いにある住宅街

不動産価格に影響する要因は?

不動産鑑定評価では、不動産を取り巻くさまざまな要因を考慮して評価額を算定します。不動産価格に影響する要因は、「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」の3つに分類されます。それぞれの要因の概要を詳しく見ていきましょう。

一般的要因

一般的要因は、一般経済社会における不動産のあり方および、その価格の水準に影響を与える要因のことです。具体的なものとしては、地質や土壌の状態、地理的位置、気象条件、地勢などの自然的要因、人口や家族構成・世帯の状況、教育・社会福祉の状態、公共施設の整備状態などの社会的要因、物価や税負担、金融の状態、国際化の状態などの経済的要因、土地利用計画や不動産に関する法的規制・税制といった行政的要因などがあります。

地域要因

地域要因とは、地域の特性を踏まえた不動産の価格形成に全般的な影響を与える要因のことです。地域要因は、さらに「宅地地域」、「農地地域」、「林地地域」などに大別され、「宅地地域」はさらに「住宅地域」、「商業地域」、「工業地域」などに分かれます。たとえば、住宅地域であれば具体的には、日照や風向きなどの気象条件、眺望や景観などの自然環境、水道・ガス・道路などのインフラ、都心とのアクセスや騒音、大気の汚染、災害の危険性、敷地の面積などさまざまな要因が考慮されます。

個別的要因

個別的要因は、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因とされ、「土地に関する個別的要因」、「建物に関する個別的要因」、「建物およびその敷地に関する個別的要因」の3つに大きく分かれます。さらに、土地に関する個別的要因は、「宅地」、「農地」、「林地」、「見込地および移行地」に分けられ、「宅地」はまたさらに「住宅地」、「商業地」、「工業地」に細分化されています。

造成中の土地

不動産鑑定の流れ

不動産鑑定というと難しいイメージを持つ方も多いのではないでしょうか?ここからは不動産鑑定の流れをご紹介します。おおまかな手順を把握して、不動産鑑定のイメージをつかんでおきましょう。

[ 1 ] 不動産鑑定士を探して、事務所に依頼する

不動産鑑定を依頼する場合は、不動産鑑定士を探すことから始まります。不動産鑑定士が複数人いる不動産鑑定事務所もあれば、個人事務所の場合もあります。

不動産鑑定を依頼する際に気を付けたいことは以下の2つです。

・依頼する案件に対しての実績が豊富かを確認すること
・複数の事務所に見積もり依頼を出すこと

1つ目を挙げた理由は、不動産鑑定士にも得意とする地域や分野があるためです。市街地にある一般的な住宅やアパート、商業ビルであれば、実務経験のある不動産鑑定士なら鑑定する技量についてはそれほど大きな差はありません。しかし、市街地であってもホテルや老人ホーム、工場といった不動産、あるいは農地や林地(山)といった、取引量が住宅やビルと比べてそれほど多くない不動産になると、経験値の差や情報収集力の違いがはっきりと出てきます。

従って、鑑定を依頼する不動産について知識や経験のある鑑定士を見つけることが大切なポイントになります。また、できれば実務経験は5年以上ある不動産鑑定士だと安心です。

2つ目を挙げた理由は、不動産鑑定は事務所によって鑑定時の調査方法や鑑定費用に差があるためです。調査方法が異なればかかる費用も違ってきますし、事務所が大きくなると必要な人件費も増え、その分費用は高くなる傾向があります。ですから、1つの事務所に限らず、複数の事務所に見積もりを依頼し、比較しましょう。ほとんどの事務所では初回の相談や見積もりが無料です。

法務の専門家イメージ

[ 2 ] 不動産鑑定の依頼をする

複数の事務所のうち、鑑定の目的や納期、予算などが納得できる事務所に、不動産鑑定の依頼をしましょう。鑑定を依頼する際には不動産の権利証や登記簿謄本、建物図面などいくつかの書類が必要になります。また、書類だけではなく、不動産に関係する利害関係者の有無や鑑定書の提出先などの確認も行われます。依頼するにあたって必要な書類や確認事項については、鑑定事務所に確認するようにしましょう。

[ 3 ] 調査を行う

正式に依頼した後、次はいよいよ対象となる不動産の調査です。不動産鑑定の調査では、大きく分けて、書面による調査と実地調査があります。

書面による調査では、市区役所や法務局などの官公庁で対象不動産にかかわる資料を徴収します。具体的には、市区役所では都市計画や道路、開発許可や建築許可の証明、埋蔵文化財などの調査、法務局では謄本や公図、地積測量図といった書面を取得します。

また、実地調査では、実際に現地を訪れ、対象不動産の土地や建物、電気水道といったインフラなどを調査します。具体的には、土地・建物の状態や隣地との境界、接道、インフラの状況などを図面や役所などの資料と付け合わせながら、実態を調査するのが一般的です。そのほか、実地調査では対象不動産だけでなく、周辺環境や周辺施設、抜け道(交通量)などもチェックしていきます。

パソコンと家の模型

[ 4 ] 分析・検討・評価を行う

不動産鑑定士は、調査した結果をもとに専門家として分析・検討を行い、先に説明した鑑定方法で試算価格を可能な限り複数求めます。さらに試算価格を実態に即して調整し、最終的な評価額を算出していきます。この分析、検討の過程は専門家として不動産鑑定士の知識、経験が最も必要になる部分です。

[ 5 ] 鑑定評価書の納品

不動産鑑定士が調査から得られた結果をもとに不動産の評価額を求めた後、「不動産鑑定評価書」を作成します。不動産鑑定の最終的な評価額は、鑑定評価書に記載される日付時点の価格となります。

また、一般的な宅地や住宅、ビルなどの不動産であれば、不動産鑑定士に鑑定を依頼してから不動産鑑定評価書が完成されるまで1か月ほどといわれており、対象不動産の規模が大きい場合や権利関係が複雑な場合は、さらに時間がかかります。

依頼する不動産の内容や不動産鑑定事務所によって納期までの時間が異なるので、見積もりを取る際に、鑑定評価書の納品までの日数を確認しておくとよいでしょう。

PCと家の模型、虫眼鏡

不動産鑑定にかかる費用は?

不動産会社に依頼する査定とは異なり、不動産鑑定には費用がかかります。費用相場は、一般的な住宅用の土地や建物であれば、20万~30万円程度が目安です。不動産鑑定の報酬は対象となる不動産の種類や規模によって異なり、鑑定の難易度が高くなると鑑定費用も高くなります。

不動産鑑定料の概略を知るには、国土交通省が提示している、公共事業に係る「不動産鑑定報酬基準」が参考になります。ただし公共事業の場合、鑑定の依頼件数が多く、民間の場合と比べて報酬額が安くなる傾向があるため、一般の方が依頼する場合は前述の報酬基準よりもやや高くなると見ておきましょう。また、不動産鑑定事務所によっては、ホームページに目安となる費用を提示しているところもあるので、参考にしてみてください。

家の模型と虫眼鏡を持つ人

売却するなら不動産査定がおすすめ

ここまで不動産鑑定と不動産査定の違いや、不動産鑑定の流れについて解説してきました。前述の通り、不動産鑑定は不動産鑑定士がさまざまな視点から不動産の調査や検討を行い、複数の算出方法で不動産価格を求めます。遺産相続や離婚などに伴い、不動産を相続あるいは財産分与する場合には、不動産の適正な評価が必要になるため、証拠能力のある不動産鑑定を依頼しましょう。ただし、不動産鑑定は、公的な信用力や証拠能力があることから、裁判や調停でも使用できますが、相応の費用がかかります。

それに対して、不動産査定は無料です。そのため、特に証拠能力を必要としない不動産売却の際には不動産会社に査定を依頼しましょう。たとえば、きっかけが相続や財産分与のためだとしても、不動産の売却を検討する場合は、不動産会社に査定を依頼して市場価格を把握することがおすすめです。その金額に関係者が納得できれば、そのまま売却をスタートさせることもできます。

なお、不動産査定にはWebで依頼でき手軽に受けられる「AI査定」や「簡易(机上)査定」、不動産会社の営業担当者が物件を実際に訪れて査定を行う「訪問査定」があります。それぞれ異なる特徴を持つため、自分に合った査定方法を選んで依頼してくださいね。

三井のリハウスでも、豊富な取引実績をもとにした各種の不動産査定を無料で受けられます。取扱件数100万件を超える実績を生かして売却をサポートいたしますので、不動産の売却をご検討の場合は、お気軽にお問い合わせください。

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不動産のカウンセリングイメージ

「不動産鑑定と不動産査定のどちらを依頼したらよいか分からない」という場合は、まずは無料で相談できる不動産会社へ相談してみましょう。家や土地などの不動産は金額が大きく、価格を見積もるには専門知識も必要です。信頼できる専門家に相談して後悔しない選択をしてくださいね。

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※出典:不動産鑑定評価基準等,国土交通省
http://home.f05.itscom.net/kantei/siryou/koukyou_housyuu.pdf
(最終確認:2023年9月23日)

秋津智幸

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。物件の選び方や資金のことなど、不動産に関する多岐のサポートを行なう。