Column / 2019 08,02

【相続専門会計士・税理士の相続コラム】注目すべき民法改正

石倉 英樹

石倉公認会計士事務所の所長。

相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。
https://ishikura-cpa.jp/

こんにちは。相続専門の公認会計士・税理士の石倉英樹です。

早いもので今月から7月。2019年も半分が終わり下半期に入りました。それに合わせるように、相続業界に大きな変化が起こっています。今回の相続コラムでは、今年7月からすでに施行される相続関係の法律の改正を中心に、「注目しておくべきポイント」を相続専門の税理士の視点からお話しいたします。

■2019年7月1日から施⾏されたもの

2019年7月1日から施行されている制度として、特に注目すべき改正には次のようなものがあります。

①遺産分割前の払戻し制度
多くの方がご存知の通り、相続が発生すると、亡くなった方の預金口座は遺産分割協議が終了するまで凍結されてしまいます。しかし、凍結されたままでは、葬儀費用の支払いや被相続人の家族の生活費の支払いが出来ないなどの不都合が生じる可能性があります。
そこで、今年の7月からは相続人が単独で一定額の預貯金の払戻しが認められるようになりました。

②遺留分制度に関する⾒直し
これまで、遺留分(相続人に最低限保証された相続分)が請求された場合には、不動産や自社株の持ち分など、金銭以外の方法で支払うことができました。しかし、それでは共有関係が続き不都合が生じるおそれがあることから、今年の7月からは遺留分請求はすべて金銭で支払いがなされることになりました。

③相続人以外の介護等の貢献を考慮
これまで、故人の介護などに対する寄与分の請求は、相続人にしか認められていませんでした。しかし、相続人以外の親族(例えば、⻑男の妻など)も、故人の介護や療養看護を行っていた場合には、特別の寄与分として相続財産の分配を請求することができるようになりました。

■今回注目すべき改正は、相続人以外の介護者の⾦銭請求権

今回の改正によって、例えば⻑男の妻が義理の父などの介護を無償で行い、財産の維持又は増加に貢献していた場合には、貢献度に応じた金銭を相続人に請求できることになります。今までは、相続人だけにこの権利(いわゆる「寄与分」)が認められていただけに、不公平感を解消する改正である、と評価する声が大半です。

しかし、相続の現場からこの改正を見た場合、気をつけるべき点が一つ。それは、介護者が相続人に対して請求できる金額(特別寄与料)は、「当事者間の協議によって決定する」という点です。つまり、介護をしていた人にお金を払うという点は当事者全員が納得していたとしても、「では具体的にいくら払うか?」という点では揉める可能性があります。

万一、この特別寄与料について当事者間で協議が調わない場合には、家庭裁判所に対して金額の決定を委ねることが可能ですが、裁判所が介入する事態になった場合には、介護の貢献度を高く評価しもらいたい介護者と、金銭の支払いを低く抑えたい相続人との間でしこりが残り、それをきっかけに揉め事に発展してしまう可能性があります。

■来年4月に施⾏される『配偶者の居住権確保』も要注目

今回の⺠法改正の目玉である『配偶者の居住権確保』(来年4月から施行)は、いわゆる「争族」になってしまった家族を想定した制度ですが、相続の現場に身を置く立場から考えると、住み慣れた自宅から高齢になった配偶者を退去させるという状況は、争族の中でもかなり揉めているケースと言えるでしょう。なぜなら、子供たちはいずれ配偶者(=自分の父又は⺟)が亡くなれば、その時に遺産は自分たちが相続できるため、無理やり自宅から親を出ていかせる状況はそれほど多くないと考えられるためです。

ただし、次のような場合には注意が必要です。例えば、子供が先に亡くなっているようなケースでは代襲相続で孫が相続人になります。このとき、亡くなった子供の配偶者(例えば嫁)との関係が不仲だった場合には、家を追い出されるほどの争族になることも否定できません。また、子供がおらず相続人が亡くなった方の兄弟姉妹になるケースも注意が必要です。生前から兄弟仲が悪く、昔から疎遠になっているような場合には、遺産分割協議が折り合わず、それぞれが法定相続分を主張し争族に発展するケースがあります。

しかし、相続専門の税理士としての立場からお話しすると、ここまでの骨肉の争いに発展していない大部分の家庭では、むしろ配偶者が多く遺産を相続した方が、相続税の節税と言う点ではメリットがあります。

たとえば、『小規模宅地等の特例』という制度は、簡単に言うと、残された配偶者等が住み慣れた自宅の敷地等を相続した場合、相続税を計算するに当たってその土地の評価額を大幅に減額できるという特例です。その減額幅はなんと8割引き。仮に評価額が5,000万円の自宅の土地であれば、8割減額して1,000万円まで評価額を下げることが出来ます。つまり、今回の⺠法改正で配偶者の居住権が保護されるまでもなく、自宅の敷地等は配偶者が相続した方が相続税の節税というメリットがあると言えるでしょう。

また、配偶者が相続した場合には、少なくとも1億6,000万円までは相続税がかからない『配偶者の税額軽減』という特例もあり、この点からも配偶者が相続する場合には相続税の節税が可能です。(但し、残された配偶者が亡くなった際のいわゆる二次相続については、その際の相続税に与える影響を別途検討することが必要です)。

■遺言書作成の柔軟化は、今年の1月から既にスタート

今回の⺠法改正によって、上記のように残された配偶者や相続人以外の介護者の権利保護が図られていますが、特定の人の権利を保護することによって、それがかえって「争族」の火種になる可能性があることも否定できません。

この問題を解決するためにはやはり大原則に戻って、故人があらかじめその遺志を残す、「遺言書の作成」が重要となるでしょう。今回の⺠法改正でも、「自筆証書遺言」の作成について見直しが行われました。今までは、遺言の全文を「手書き」しなければなりませんでしたが、今年の1月13日からは、遺言の中の「財産目録」についてはパソコンによる作成が認められることになりました。なお、偽造を防ぐために、財産目録にもすべて署名・押印する必要がありますが、遺言を作成する手間が大幅に省力化されます。

さらに、来年7月10日からは、法務局での「自筆証書遺言の保管制度」が新たにスタートしますので、遺言書の紛失・偽造を防ぐ効果が期待されています。なお、この保管制度を利用した場合には、従来必要だった家庭裁判所による検認が不要となるため、遺言書の作成がより身近なものになるかもしれません。