【相続専門会計士・税理士の相続コラム】事業用資産の買換え特例とは?

目次
  1. そもそも、いくら税⾦がかかるの?
  2. 買換えるとお得(買換え特例)
  3. 「買換え特例」はどういう場合に使えるの?
記事カテゴリ 相続
2019.09.12

こんにちは。相続専門の公認会計士・税理士の石倉英樹です。

先日、ご相続の相談にいらしたお客様からこんな質問を受けました。
「親から相続した賃貸アパートを売ろうと思うんですが、不動産を売却するとどれくらい税金がかかるんですか?」
今回のコラムでは、不動産を売却する際にかかる税金と、意外と知られていないお得な特例についてご紹介いたします。

■そもそも、いくら税⾦がかかるの?

不動産を売却した場合、その不動産を昔買った値段よりも高く売れれば「儲け」が生じ、低くしか売れなければ「損」することになります。そして、この「儲け」が出た場合に税金がかかるのです。不動産を譲渡(=売却)したことによる税金なので「譲渡税」と言います。

例えば、昔3,000万円で購入した不動産を今回5,000万円で売ったとすると、その差額の2,000万円が儲けとなり、この儲けに対して譲渡税がかかることになります。

では、いくらの譲渡税がかかるのでしょうか?「10%?」「20%?」それとも「30%?」
実は、約40%もの譲渡税がかかることになります。正確に言うと、所得税30%+復興特別所得税0.63%+住⺠税9%で、儲けに対してあわせて「39.63%」もの税金がかかるのです。
仮に儲けが2,000万円だとすると、その39.63%にあたる7,926,000円の譲渡税が発生します。これはかなりの負担です。

しかし、この譲渡税。実は、不動産を⻑く所有していた⽅は税率を低くしてもらえるという特典があります。具体的には、その不動産の所有期間が「5年」を超える場合には税率が、20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住⺠税5%)までグッと抑えられるのです。先ほどの、不動産の売却による儲けが2,000万円のケースでは、譲渡税は4,063,000円となり400万円弱もの節税となります。

■買換えるとお得(買換え特例)

お客様にここまでご説明すると「なるほど。⻑く所有していると、かなり譲渡税が安くなるんだね。」と喜んでいらっしゃいました。しかし、それと同時にこうも仰います。
「でも、もっと譲渡税を低く抑える⽅法はないんだろうか?」

実は「賃貸マンション」や「駐車場」など、その土地を使って売上を上げているような資産(事業用資産)については、「事業用資産の買換え特例」という制度が用意されています。

例えば、収益性の低い事業用資産を売却し、新たに収益性の高い資産に買い換えた場合、売却した資産の譲渡所得(儲け)に対する譲渡税の一部を将来に繰り延べることが可能です。
具体的には、この特例を受けることによって、売った金額(譲渡価額)より買い換えた金額(取得価額)の⽅が多いときは、売った金額に20%の割合を掛けた額を収入金額として譲渡所得の計算を行い、売った金額より買い換えた金額の⽅が少ないときは、その差額と買い換えた金額に課税割合を掛けた額との合計額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

この買換えの特例は、あくまで課税の繰り延べであり、譲渡税が免除されるわけではありませんが、特例を使わない場合に比べて手元に残る現金が多くなるため、高い価格の物件への買換えがしやすくなるというメリットがあります。

■「買換え特例」はどういう場合に使えるの?

では、どういう条件を満たせばこの買換え特例を利用できるのでしょうか?主要な条件を簡単にご紹介しましょう。この特例を受けるには、次の要件すべてを充たす必要があります。

まず一つ目は、売る資産(譲渡資産)と買う資産(買換資産)は、共に事業用のものに限られるという点です。なお、この「事業」には、農業、製造業、小売業など様々なものがありますが、第三者に不動産を貸付けているような場合にも、事業用とみなされます。

二つ目は、譲渡資産と買換資産とが、一定の組合せに当てはまるものであるという点です。この組み合わせについては、いくつかのパターンが挙げられますが、代表的なものとして次の組合せがあります。「譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超える国内にある事業用の土地等や建物又は構築物を譲渡して、国内にある事業用の土地等、建物又は構築物を取得する場合」。

三つ目は、買換資産が土地等であるときは、取得する土地等の面積が、原則として譲渡した土地等の面積の5倍以内であるという点です。この5倍を超えると、超える部分は特例の対象となりません。なお、令和元年12月31日までの譲渡資産の譲渡に限って、一定の農地への買換えの場合は10倍以内とされることがあります。

四つ目は、資産を譲渡した年か、その前年中、あるいは譲渡した年の翌年中に買換資産を取得する必要があります。

そして五つ目は、買換資産を取得した日から1年以内に事業に使うことです。なお、取得してから1年以内に事業に使用しなくなった場合は、原則として特例は受けられません。

この事業用資産の買換え特例は、適用期限が令和2年12月31日(個人の7号(改正前は9号)は令和2年3月31日)までですので、不動産の組み換えを考えていらっしゃる⽅は検討されるといいかもしれません。

石倉 英樹

石倉公認会計士事務所の所長。

相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。
https://ishikura-cpa.jp/