Column / 2019 01,10

【相続専門会計士・税理士の相続コラム】家族信託とは?

石倉 英樹

石倉公認会計士事務所の所長。

相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。
https://ishikura-cpa.jp/

こんにちは。相続専門の公認会計士・税理士の石倉英樹です。

さて、前回のコラムで、取り上げた「認知症問題」。もし親御さんが認知症になり、ご本 人で判断することが難しくなった場合、「親の預金は解約したくても出来ない時がある」
「実家は売りたくても売れない時がある」というお話をしました。
今回はその続き。認知症に備える相続対策のひとつとして、最近テレビや新聞などで注目されている『家族信託』という仕組みについて詳しくお話しいたします。

■なぜ今「家族信託」が注目されているの?

もし、親御さんが認知症になりその症状が進行した場合、親御さんご本人が判断する力を失ってしまうと、生活費や介護費に充てるために定期預金を解約したり、誰も住まなくなって空き家になっている実家を売却したり、他人に貸したりすることが出来なくなってしまいます。その理由は、定期預金も実家も名義が「親御さんご本人」になっていることが原因です。

つまり、定期預金を解約したいのであれば名義人である親御さんご本人が銀行で解約 手続きをしたり、実家を売ったり貸したりしたいのであれば名義人である親御さんご本 人がその手続きをする必要があります。このため、その名義人が認知症などにより判断 能力を失ってしまった場合には、これらの手続きをするには成年後見人を選任するなど、一定の制限が課せられてしまうのです。そして、このような問題を解決する仕組みとして今注目されているのが「家族信託」です。

■名義を替えてしまう

誤解をおそれず家族信託を分かりやすく一言で説明すると「元気なうちに名義を替えてしまう仕組み」と言えるでしょう。預金や実家の名義が親御さんのままだから、その方が判断能力を失うとこれらを動かすことが出来なくなる、というのが根本的な問題でした。そうであるならば、あらかじめお元気なうちに名義を次の世代(例えばお子さんなど)に替えてしまえばいい、というのが極めてシンプルな発想です。

例えば、登記上実家の名義が親御さんになっている場合、お元気なうちに家族信託を利用して信頼できるお子さんの名義に変更しておきます。そうすることで、数年後親御さんが認知症などにより判断する力を失ってしまったとしても、名義人は親から子に変更されているため、そのお子さんの判断で実家を売るまたは貸すなどの判断が出来ることになるのです。

■贈与税がかかるんじゃない?

さて、ここまで聞くと、多くの皆さんからこういうご質問を頂きます。「親から子供に名義を替えてしまうと、それは『贈与』になっちゃうんじゃない?」。つまり、贈与税が課かってしまうんじゃないか?と心配される方が多くいらっしゃると思います。

しかし、家族信託を利用されるお客様のほとんどは、家族信託で名義を変更したとしても贈与税はかかりません。なぜなら、家族信託を利用して実家の名義を親から子供に替えたとしても、その実家の実質的な持ち主は「親御さんのまま」となるように設計をすることで、贈与税が発生しないようにすることが出来るためです(これを「自益信託」と言います)。

この自益信託と言われる方法で家族信託を利用すると、実家を売却して売却収入が入 ってきた場合、そのお金は名義人であるお子さんの財産にはならず、依然として親御さんの財産となります。家族信託を使う方の多くは、この自益信託の方法で贈与税がかからないような仕組みにしているケースが多いでしょう。実質的な持ち主を変えずに、名 義だけを子供などに託すことが出来る、ここが家族信託の非常にユニークなところです。

■どういうケースで使われている?

お客様からご相談をお受けしていると、家族信託の利用を検討される方の多くは親御さんまたは身近な方が認知症になった時に備えて、相続対策の一環として家族信託の導入を検討されています。「急に預金が動かせなくなるのは困る」「実家が売れなくなると空き家になってしまう」「親が所有する賃貸物件の賃貸契約、大規模修繕などが出来なくなると困る」など、将来のもしもに備えてある種「保険」のような位置づけで家族信託を使われています。

私のお客様でもこういう方がいらっしゃいました(守秘義務に配慮してご説明します)。「都内でひとり暮らしをしている父親がもし認知症になって介護施設に入ることになった場合、その実家は空き家になってしまう。そうなってしまった場合には、実家を売却して父の介護費や生活費に充て、残りの人生を不自由なく過ごしてもらいたい。ただ、その時に実家の名義が父のままだと実家が売れなくなるので、今のうちに家族信託で名義を変更しておきたい。」というご相談でした。そこで何度かご自宅に足を運び、どういった内容の家族信託にするか打ち合わせをした後、お父様からお子様に実家の名義を変更しておくことで、当初のお悩みからは解放されることになりました。

■子供以外には託せないの?

家族信託のご相談にいらしたお客様からは、「財産を託すのは子供以外ダメなんですか?」というご質問をよく頂きます。結論から言いますと、実は子供以外にも託すことが可能です。お子様がいらっしゃらない方でも、信頼できる兄弟がいる、または信頼できる甥っ子・姪っ子がいる場合、その方に家族信託を利用して財産を託すことも可能です。実際、私のお客様の中でもお子様はいないが、信頼できる甥っ子がいるのでその方に家族信託で財産を託した、という方もいらっしゃいます。

さらに言うと、家族・親族以外の信頼できる人(例えば友人)などにも、家族信託を使って財産を託すことは可能です。ただし、営利を目的として、反復継続的に不特定多数の方から財産を託される場合には、信託業法の規制を受けることになりますので注意が必要です。具体的には、信託の引き受けを業として行う場合には、免許を受けた信託会社でなければならない、という規制があるため、家族・親族以外が家族信託によって財産を託される場合には、この信託業法に抵触しないように注意する必要があります。

■家族信託を利用したい場合はどうすればいいの?

家族信託を利用する場合には、大きく2つのステップを踏んで進めていくことになります。まずひとつ目が、家族信託の契約書を作成するステップです。家族信託は、財産を託す人(例えば親御さん)と財産を託される人(例えばお子さん)との間で契約書を締結します。この契約書の中で「何を目的として家族信託を利用するのか?」「どの財産を、誰に託すのか?」「託された人にどういう権限を与えるのか?」「もし、託した人が亡くなったら、託した財産はどうするのか?」などを細かく記載していくことになります。

そして、二つ目が、この家族信託契約書に従って子供などに託した財産の名義を変更するステップです。例えば実家を子供に託す場合には、その実家の名義を親から子に移す手続きをとります。具体的には登記簿上、信託を理由として所有権を移転する信託登記手続きなどを行うことになります。

基本的にはこれらのステップを踏むことで家族信託を利用することは出来ますが、一 般の方が独学でこれらの手続きを進めるのは難易度が高いでしょう。そこで多くの方は、これら一連の流れを「家族信託の専門家」に依頼し、サポートしてもらうケースがほと んどです。

家族信託はここ数年で広がり始めた仕組みのため、まだまだサポートしてくれる専門家が少ないのが現状ですが、家族信託の信託登記を担当する司法書士や当事務所のように相続に力を入れている税理士事務所でも、家族信託の相談に乗れる専門家が着実に増え始めています。家族信託について詳しく知りたい方は、まずは問合わせをしてみると良いでしょう。