StoryEssay / 2018 09,03

彼女が笑顔のワケ

家族のかたちは、家族の数だけあるもの。全3回にわたって、各作家がさまざまな「家族」をテーマにしたショートストーリーをお送りします。
今回は、家族から言われた何気ないひと言がきっかけで変わった女性に出会った話です。

5歳(嫁公認アカウント)

妻と息子2人との間で繰り広げられる微笑ましいエピソードがSNSで話題に。現在はコラムの執筆を中心に活動中。
Twitter  https://twitter.com/meer_kato

子どもにとって、家族の存在は大人が考える以上に大きいものだ。大人になれば、親という存在が完璧ではないことを理解するのだが、子どもからするとまるで家族が人生の全てであるように感じてしまうこともあるかもしれない。

だからこそ、家族の何気ないひと言がずっと心に残っていることは誰にだってあるのではないだろうか。それは良くも悪くもー……。

 

新入社員のユキちゃんはいつもニコニコしている子だった。

1年目は覚えることも多いので大変だ。当然、失敗もたくさんする。とくにユキちゃんは不器用で物覚えも悪かったので、怒られることも他の新人に比べて多かった。同じ部署の上司にも散々怒られ、嫌味も言われていたので「いつか辞めるんじゃないか」と周囲はヒヤヒヤしながら見守っていたのだけど、ユキちゃんはへこたれるようすもなく「大丈夫です! 仕事、楽しいですよ!」と元気に働いていた。

ゴールデンウィーク明けのある日のことだ。僕と同僚とユキちゃんの3人がたまたま遅くまで残業していた。ようやく仕事も終わり、なんとなく流れで「飯でも行くか」となり、3人で近くの定食屋に行くことにした。

ユキちゃんはとにかくよく食べる。チキン南蛮定食のご飯を大盛りにして、ポテトサラダも付けてモリモリと食べていた。あまりに美味しそうに食べるものだから、同僚と一緒に面白がって「好きなものをたらふく食べなさい」と勧めると、とびきりの笑顔で「いいんですか?」と言ってモツ煮込みも追加で頼んだ。

見ているこっちも幸せになるほど気持ちの良い食べっぷりだった。

それから月に何度か仕事が遅くなる日は、決まってユキちゃんとご飯を食べに行くようになった。

ユキちゃんもそれを楽しみにしてくれているようで「先輩、お腹すきました!」とニコニコと笑いながら付き合ってくれた。

一応断っておくが、別に僕はユキちゃんのことを好きだとかそういった感情はなかった。僕以外の社員もユキちゃんをよくご飯に連れて行っていたし、みんな口を揃えて「ユキちゃんとご飯に行くと幸せな気持ちになる」と言っていた。僕も全く同じ気持ちだった。

夏が終わるころには、ユキちゃんは社内で人気の後輩になっていた。みんながこぞってご飯を食べさせるものだから、入社時と比べてかなりぽっちゃりとしてきていた。そのことをからかうと、「皆さんが毎日餌付けするからですよ!」と冗談交じりに怒っていた。