共有持分の不動産を売却するには?売却方法や注意点を解説

共有持分の不動産を売却するには、いくつかの方法があります。それぞれの方法の特徴や注意点を押さえて自分にとって最適な方法を選ぶようにしましょう。実際に共有持分を売却する流れもご紹介します。

目次
  1. 共有持分の不動産とは?
  2. 共有持分の不動産を売却するには?
  3. 共有持分の不動産を売却する流れは?
  4. 共有持分の不動産を売却する際の注意点
  5. 共有持分の不動産を売却するのに必要な書類は?
  6. 共有持分の不動産を売却せずにいると…?
  7. 共有持分の不動産の処遇を決めよう
記事カテゴリ 売却 シニア
2022.01.31

共有持分の不動産とは?

土地や建物などの不動産は高額なため、配偶者や親子で共同購入することがあります。また、遺産相続の際に、1つの不動産を複数人で相続することもあります。1つの不動産を複数人が所有するとき、それぞれの不動産の所有分を「共有持分」と呼びます。不動産は複数に分割することができないため、それぞれ「持分」という割合で所有をするということです。

では、不動産の共有持分を売却したい場合はどうすればよいのでしょうか?共有持分の不動産は、一般的に単独名義の不動産よりも査定額が低くなる傾向にあり、第三者への売却は非常に難しいといえます。そのため、自分の共有持分を単独で売却する場合は、共有不動産の売却に強い買取業者を選ぶことが大切です。

この記事では、共有持分の不動産を売却する方法や流れ、売却の際の注意点や必要書類について解説します。

不動産の相続

共有持分の不動産を売却するには?

共有持分の不動産の売却が非常に難しいとお伝えしましたが、方法はいくつかあります。1つずつ見ていきましょう。

全員の同意を得て全て売却する

共有持分を持つ共有者全員の同意を得られれば、共有不動産全体を売却できます。全体を売却すると、相場通りの価格で売却ができる可能性が高まるため、売却価格の面から見ると最も有利な方法といえます。しかし、共有者のなかに1人でも反対者がいると売却はできません。

手続きには共有者全員が立ち会い、売買契約書に署名と押印をしなければなりません。共有者が多ければ多いほど、手続きが困難になる可能性が高いため、共有者のなかから1人、対外的な対応を請け負う代表者を決めておくとよいでしょう。委任状があれば、代表者が本人に代わって売却手続きを行うことも可能となりますよ。

共有不動産全体を売却した場合は、それぞれが所有する持分の割合に応じて各共有者で売却益を分配します。

自分の持分のみを売却する

共有者全員の同意を得ることが難しい場合は、共有持分割合に応じて、自分の持分だけを売却することもできます。この方法は、ほかの共有者の同意がなくても可能です。ただし、不動産全体を売却するわけではないため、買主からすると制限が多く、リスクの大きい買い物となります。そのため、買主がなかなか見つからなかったり、相場よりも売却価格が安くなったりする点に注意しましょう。

共有持分を売却する際は、共有持分の売却に強い買取業者と取引することが大切です。後々のトラブルを避けるため、弁護士といった専門家に相談、依頼をするというのもおすすめです。

また、買取業者のような第三者に売却するのではなく、ほかの共有者に自分の持分を買い取ってもらうという方法もあります。共有者が対象の共有物件に居住している場合などは、買い取るメリットが大きいため、話がスムーズに進む可能性が高いでしょう。

単独名義に変えて売却する

不動産の共有を解消してから売却するという方法もあります。これは共有持分の不動産の構図を解消する形です。共有名義の不動産を単独名義にするには、ほかの共有者と話し合ったうえで、ほかの共有持分を買い取ったり、贈与してもらったりする必要があります。単独名義に変えてしまえば、通常の不動産と同じように売却することが可能ですよ。

共有持分の不動産の構図の解消が、共有者同士の話し合いではうまくいかないこともあります。そのようなときは、「共有物分割請求」として裁判所に申し立てするという方法があります。共有物分割請求とは、共有物件を単独所有物件とすることを請求する権利のことです。裁判所の判決によって適切な分割方法を決めてもらい、不動産の共有状態を解消することができます。ただし、判決が出るまでに早くて半年ほどかかるため、すぐに共有を解消したいという人は注意しましょう。

土地の場合は分筆して売却する

共有不動産が土地の場合は、持分に応じて土地を分筆して単独名義にすることも可能です。分筆とは、1つの土地を2つ以上に分け、独立した単独名義の土地を複数作ることです。一度分筆をしてしまえば、その土地は他者と共有しているものではないため、自分の意思のみで自由に売却できます。

分筆する際には、隣地との境界線を明確に記載した証明書である、境界確認書が必要になります。作成されていない場合は早めに用意しておきましょう。

相続の場合なら換価分割を利用する

売却したい共有持分の不動産が相続によって取得したものであれば、「換価分割」によって共有状態を解消できます。換価分割は、相続時に限り、認められている制度です。換価分割を行うと、相続した共有不動産全体を売却して、売却代金を持分の割合に応じて分配することで、共有状態を解消できます。

相続人全員が不動産の取得を希望しない場合、換価分割は相続人同士で明確な遺産分割ができるため、後々トラブルになりにくい方法といえますね。

相続人の話し合い

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共有持分の不動産を売却する流れは?

共有持分の不動産を売却するさまざまな方法を紹介してきましたが、売却価格のことを考えると、やはり不動産全体の売却を検討したいという人が多いのではないでしょうか?ここでは、共有者全員の同意を得て、不動産全体を売却する場合の流れについて説明します。

[ 1 ] まとめ役を決める
共有者全員の同意を得るためには、共有者間の意見をまとめる役割が必要です。共有者は一人ひとりの経済状況や生活環境が違うため、その数が多くなればなるほど異なる意見が出てきて、同意を得ることは難しくなります。

そこで大切なのは、共有者間をまとめる「説得力」と「調整力」のある人に、まとめ役を依頼することです。実績のある不動産関連の実務家にまとめ役を依頼できれば、スムーズに売却を進められますよ。

[ 2 ] 費用負担を決める
不動産を売却する際には、さまざまな費用や税金がかかります。後々のトラブルを防ぐためにも、共有者全員でそれらの支払いの配分を事前に決めておきましょう。代表的な支払い項目は以下の通りです。

仲介手数料
不動産売却を仲介してくれた不動産会社に支払うお金です。

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不動産売買の仲介手数料には消費税がかかる!計算するときの注意点も解説

登記費用
共有持分の売却を行うと、所有権移転登記をする必要があります。

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所有権移転登記の費用はどれくらいかかる?取得のために必要な費用の計算方法

抵当権抹消費用
住宅ローンを組んだ際の抵当権を抹消するために必要な費用です。

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譲渡所得税
不動産を売却して売却益が出た場合に、所得に対してかかる税金です。

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利益が発生した場合にかかる譲渡所得税の計算方法

印紙税
不動産の売買契約書などの、課税文書と呼ばれる特定の書面にかかる税金です。

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不動産売却の手続きにかかる税金と計算方法

このように、不動産売却をする際にはさまざまな費用負担が発生しますが、費用負担は基本的に持分の割合をもとに配分するのがおすすめです。一般的に不動産売却でかかる費用は、売却価格の5%程度ともいわれますが、実際にどれほどの費用がかかるのか、あらかじめ細かく計算しておくとよいでしょう。

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売却時の諸費用イメージ

[ 3 ] 売却価格を決めておく
不動産を売却する際に何よりも大事なのは、売却価格ですよね。共有不動産といっても、通常の不動産と同じような手続きで売却が行われるため、売り出し価格を設定しても、値引き交渉が行われることもあります。その際に、事前に最低売却価格を決めておかないと、値引き交渉が行われるたびに、共有者全員の同意を得る必要があります。

そのため、複数の不動産会社に査定をしてもらったうえで、あらかじめ共有者全員が納得できる売り出し価格と最低売却価格を決めておくことが大切です。その際は、共有不動産の相場についても調べておくとよいでしょう。

[ 4 ] 売却期間の目安を設ける
不動産売却の期間は、土地やマンション、戸建て含めた全体で3か月から半年程度が目安、といわれています。しかし共有不動産の場合は、買主が事実関係の確認をする時間が必要になるため、さらに長い期間がかかる可能性もあります。

あまりにも長い期間がかかると、売却に参加できない共有者が出てきたり、せっかく得られた同意を反故にされる恐れもありますね。そのようなことが起きないように、あらかじめ売却期間の目安を設けておき、その期間を超えたときにどうするかを決めておくと安心です。

[ 5 ] 確定申告をする
共有持分を売却して得た売却益は譲渡所得になるので、確定申告をして納税をする必要があります。売却益に応じて所得税・住民税が課税されますが、その際に「3000万円の特別控除」という特例を利用できる場合もあるので、あらかじめ確認しておくとよいですよ。ただし、これは居住用財産の場合のみ利用することができます。土地のみの共有では、特別控除は受けられないので注意しましょう。

●3000万円の特別控除に関する記事はこちら
居住用財産3000万円控除|不動産売却時に活用できる控除とは?

確定申告は、不動産を売却した翌年の3月15日までに行う必要があります。また、売却益は持分の割合によって分割されるため、共有者一人ひとりが個別で確定申告を行わなければなりません。

売却益が出ずに損益が出た場合も、確定申告を行えば「譲渡損失の繰越控除」という特例を利用できます。この制度は、不動産を売った年の所得税を計算する際に、その年の所得の合計額から譲渡損失分を控除できるというものです。さらに売却した年の所得よりも譲渡損失が大きい場合は、翌年以降の所得からも最長3年間繰り越して差し引けます。この特例も居住用財産の場合にしか利用することができないので、よく注意して利用しましょう。

共有持分の不動産を売却する際の注意点

共有持分の不動産を売却する流れについて説明しましたが、売却の際には特に注意しなければならない点がいくつかあります。後々のトラブルを防ぐためにも、しっかりと確認しておきましょう。

共有者を確認する

共有持分の不動産を売却する場合は、その不動産の共有者についてしっかりと確認する必要があります。共有者の所在が分からなければ、売却の同意を得ることはできません。

共有不動産を持つ共有者が亡くなるなどして相続する際には、相続人の数だけ共有持分が細かく分かれてしまいます。その結果、相続が繰り返されて共有者が多数になっており、自力で全員分を調べるのが難しい場合もあります。そのような場合は、司法書士や弁護士などの専門家に依頼して、共有者全員を調べてもらうのがおすすめです。

全員の納得を得る

共有持分の不動産全体の売却は、共有者全員の納得が大前提となりますが、自分の持分のみを売却する際にも、ほかの共有者の同意を得ておいたほうが安心です。勝手に持分を売却しても、すぐに知れわたるわけではありませんが、買い取った業者がほかの共有者に持分の売買を持ちかけたりすると、自分が共有持分を売却してしまっていることが判明します。

ほかの共有者からすると、知らない間に共有者の1人が見知らぬ買取業者に変わっている状況となりますので、トラブルなどにつながる可能性があります。共有不動産は、親族や家族同士で共有していることが多いので、その関係性が悪化する恐れもありますよ。

納得を得た売却

共有物分割請求される可能性を把握する

自分の持分を買取業者に売却した場合、買取業者から共有物分割請求をされることがあります。共有物分割請求は法的強制力があるため、ほかの共有者は共有状態の解消のために動かないといけません。

まずは共有者同士で話し合いをしますが、それで解決できない場合は「共有物分割訴訟」という裁判によって決定します。裁判になると、裁判所が共有物の分割方法を指定するので、それに従わなければなりません。判決結果によっては、共有不動産が競売にかけられて売却される可能性もあります。

このように、買取業者との話し合いが順調に進まないと、最終的に裁判を起こされて大きなトラブルに発展する可能性があります。そうなる前に、共有不動産に詳しい弁護士に相談して、対処方法などについてアドバイスをもらいましょう。

共有持分を把握しておく

売却の際には、改めて自分の持分についてしっかりと把握しておきましょう。売却益の分配や、その後の確定申告にもかかわる大切な情報です。持分割合は、登記事項証明書の所有者欄に記載してあります。

法務局や出張所の窓口で、登記事項証明書をあらかじめ取得しておくと安心です。オンライン申請や郵送申請も可能なので、早めに確認しておきましょうね。

債権者の有無を確認して、相談する

共有持分の不動産にローンが残っている場合は、債権者となる金融機関とローンや担保についてどうするかを話し合わなければなりません。債権者の情報や、抵当権などの担保は登記事項証明書に記載されているため、あらかじめ確認しておきましょう。

●抵当権に関する記事はこちら
抵当権とは?抵当権付き物件の相続や抹消手続きを解説

共有持分の不動産を売却するのに必要な書類は?

共有者全員の同意を得て、不動産全体を売却する場合の流れと注意点を説明してきました。ここでは、売却の際に必要となる書類を紹介します。

法務局で用意するもの

法務局とは、不動産や株式会社などの法人の登記を扱っている行政機関です。不動産の売却時には、法務局で以下の書類を用意する必要があります。

登記識別情報(権利証)
該当不動産の所有者であることを証明する書類です。権利の登記をした際に、登録名義人のみに12桁の英数字からなる文字列が通知されます。

●登記識別情報に関する記事はこちら
登記識別情報とは?不動産登記に関する基礎知識を分かりやすく解説

不動産に即して用意するもの

不動産によっては、土地の境界や面積を明らかにする、以下の書類を用意する必要があります。昔から代々相続してきた土地などは、これらの書類がない可能性も高いでしょう。その場合は、新たに調査を行い、書類を作成する必要があります。調査のための測量の際は、不動産の共有者はもちろん隣地所有者も立ち会い、土地家屋調査士や測量士といった有資格者によって行われます。測量には数か月の期間が必要になる場合もあるので、余裕をもって準備を始めてくださいね。

・境界確認書
境界確認書とは、隣地との土地の境界をはっきりと決めるために測量を行い、確定した境界を証明する書類のことです。隣地所有者や役所の担当者を招き、双方が納得したうえでコンクリートの杭などで永久境界標を設置します。

・地積測量図
地積測量図とは、土地の面積の測量結果を明らかにする法的な図面です。ほかにも、土地の正確な形状や隣地との位置関係、境界標の位置、面積の求積方法なども明らかになります。

不動産の測量

所有する人々が用意するもの

共有者の人々は以下の書類を用意する必要があります。共有者が遠方に住んでいる場合もありますので、早めに書類の準備をお願いしておきましょう。

・身分証明書
・実印
・印鑑証明書
・住民票

共有持分の不動産を売却せずにいると…?

共有不動産の売却の難しさについてお伝えしてきましたが、難しいからといって売却せずにいるとどうなるのでしょうか。共有不動産をそのままにした際のリスクについて紹介します。

共有者が増え続ける

共有持分の状態をそのままにしておくと、子世代、孫世代と相続が繰り返されて、共有者がどんどん増えていきます。共有者が多くなればなるほど、全員の同意を得るのは難しくなりますね。

売却がどんどん難しくなる

時間の経過とともに共有者が増えるほか、引越しや死亡などで共有者の行方の確認が困難となります。不動産全体の売却には、共有者全員の同意を得る必要があるため、場合によっては売却を実行に移せなくなる可能性もありますよ。

課税や修繕費が発生し続ける

不動産を所有していると、固定資産税や都市計画税といった税金の負担や、修繕費などが発生します。また、共有持分の不動産を相続、贈与する場合には、相続税や贈与税の負担を負う可能性もあります。家計的にこれらの支払いが難しく、不動産を売却したくなったとしても、前述の理由により、簡単に売却はできない点に注意しなければなりません。また、これらの税金や費用を支払わない共有者が出現する可能性もあります。

困っている共有者

共有持分の不動産の処遇を決めよう

ここまで、共有持分の不動産の売却方法や、所有し続けた際のリスクについて説明してきました。もし共有不動産の売却を考えているなら、まとめ役と買取業者は、不動産売買の実務に強い、信頼のおける相手を選ぶことが重要です。実績のある人に頼むことができれば、納得のいく条件で売却できる可能性が高くなります。

それでも売却が難しい場合は、共有持分の放棄という方法もあります。もちろん自分に利益はありませんが、共有持分の所有が負担になっている場合は、有効な選択肢だといえるでしょう。放棄の際には、持分放棄を登記原因とする所有権移転登記を申請する必要があり、この申請は共有者全員でしなければなりません。また、ほかの共有者は放棄された持分を贈与により取得したとみなされ、贈与税がかかる場合もあるため、事前に通達をしておきましょう。

もし無事に売却ができた場合は、確定申告を忘れずに行いましょう。売却価格によっては特例を利用できる可能性があります。しかし、どの特例も利用するためには細かいルールがあるので、自分で判断することが難しい場合は、税務署や税理士に相談するのがおすすめです。

後悔することのないよう、今のうちに共有持分の処遇について考えておきましょう!

宮原裕徳

株式会社ラムチップ・パートナーズ 所長。税理士。日本のみならず、東南アジアも含めた不動産にかかわる会計・税務に精通している。法人や個人向けに節税セミナーなども行っている。
https://www.miyatax.com/