Lifestyle / 2020 05,22 /Vol.6

【私が長距離通勤をする理由 Vol.6】
 〜常に深呼吸したくなる、三島市での暮らし〜

昨今は職場の近くに住む「職住近接」のライフスタイルが注目されているが、一方で、何らかの理由で長距離通勤を選んだ人もいる。高速バスや特急電車、なかには新幹線を使い、都内へ2時間近くかけて通勤する長距離通勤者たち。なぜ、そうまでしてそこに住んでいるのだろうか?単純にその街が好きということもあるだろうし、あるいは何かやむにやまれぬ事情、知られざるドラマがあるのかもしれない。

連載第6回目では、静岡県三島市で暮らし、東京都内に勤務する小野美智代さんに、長距離通勤と引き換えに手に入れた暮らしぶりを伺った。

小野洋平(やじろべえ)

1991年、埼玉県生まれ。東京の編集プロダクション「やじろべえ」所属。今までの実家引っ越し回数は4回です。
【やじろべえ株式会社】https://www.yajirobe.me/
【小野洋平/Twitter】https://twitter.com/onoberkon

■結婚を機に三島に移住して15年

静岡県東部に位置する三島市。かつては伊豆国の国府が置かれ、また東海道五十三次の11番目の宿場町として古くから栄えた街だ。今では、東海道新幹線三島駅や東名沼津IC、新東名長泉沼津ICなど、伊豆や富士・箱根・方面への起点となる静岡県の交通の要所となっている。そんな三島市に小野さんが住み始めたのは15年前。なぜ、わざわざ三島市からの長距離通勤を選んだのだろうか。

▲都内にある国際協力NGO公益財団法人「ジョイセフ」に勤めている小野さん

小野美智代さん(以下小野さん):移住のきっかけは結婚です。三島市に来る前は東京の江古田で一人暮らしをしていました。しかし、夫の職場が静岡県の沼津市だったため、一緒に暮らすためには私が静岡へ帰ることが自然の流れで。というのも、私も夫も静岡県の富士市が地元で、いずれは故郷に戻る可能性が高いと思っていましたから。

――なぜ、三島市を選んだのですか?

住む場所を検討していた頃、ちょうど三島市は街を整備し、駅周辺にはマンションを建て始めていました。また「品川駅まで35分」と大きくうたい、東京まで新幹線通勤する移住者をターゲットにしていたんです。さらに、三島駅には新幹線の車庫があるため、朝の始発列車が多く、10〜15分おきに新幹線が通るなどの利点がありました。駅近かつ列車の本数が多いことは長距離通勤する私にとって、好条件だったんですよね。

――ちなみに、三島市の他に候補はありましたか?

夫の職場がある沼津市も検討しました。ただ、沼津だと新幹線から在来線に乗り換える必要がありますし、私の職場の通勤規定で交通費が出る120km圏内から外れてしまうんですよ。三島市ならギリギリ範囲内だし、何より家が気に入りました。広いし、全方向に窓があり、なおかつ安い。総合的に考えて、三島がベストな選択肢でしたね。ちなみに、このあたりは地価が上がっていて、有難いことに私たちの住んでいるマンションは買った当時と同等の価格、もしくはそれ以上で売却できるようです。

▲日光をたくさん取り入れられるリビング

――それはすごい。色んな意味で、三島を選んで大正解だったわけですね。

はい。……とはいえ、15年も住むとは思っていなかったですが(笑)。

――というと?

やはり、三島市は私たち夫妻にとって縁もゆかりもない土地ですからね。先ほど言ったように、そのうち実家のある富士市に戻ることになるだろうと考えていました。やはり、私が野山を駆け巡り、富士山を近くで眺められる場所で育っていたので、家族で住むなら故郷がいいなって。

――では、なぜ三島に長くとどまることになったのでしょうか?

やはり、暮らしていくうちに三島の良さが分かってきたからだと思います。最初は交通の便くらいかなと思っていましたが、他にもメリットがたくさんあったんです。当初想定していた暮らしとは、いい意味でギャップがありましたね。

例えば、私が住むマンションの半径800メートル以内には駅をはじめ、飲食店や市役所、公園などの公共施設がコンパクトにまとまっています。また、私も夫もお酒が好きなのですが、徒歩圏内ではしご酒ができるのも、長く住んでしまった理由の1つです(笑)。さらに、個人的には天然温泉が湧く大衆浴場が近いのもポイントです。わざわざ車で遠出しなくとも、温泉とお酒が満喫できるんですよ。振り返ると、三島市での生活は心身ともにウキウキワクワクすることが多く、自然と笑顔が増えていったと思います。

▲お気に入りは富士山の湧き水が流れる「源兵衛川」に面したカフェテラス

――徒歩圏内で全て完結するわけですね。外出も多いですか?

天気が良ければ、子どもたちと街を散策しています。また、三島に住んでからは外食が増えましたね。というのも、三島市って人口1人あたりの飲食店の数が新宿よりも多いそうなんですよ。たしかに、街中を見れば昔からのお店が残っていますし、飲食店を開くために、わざわざ移住された方も珍しくありません。それと、小さい子どもを連れて行きやすい座敷のある飲食店が多いのも特徴ですね。

――ファミリー層を中心に移住を促進した街だけに、そういった場所が多いのかもしれませんね。

昨年には「みしま未来研究所」という、幼稚園をリノベーションした施設もできました。コワーキングスペースやカフェスペースが併設されていて、地域住民の憩いの場となっています。私もボランティアで店番を担当するなどして楽しんでいます。

▲小野さんが店番をする「みしま未来研究所」内のカフェ

■最高に快適な新幹線での過ごし方

――15年前となると、今以上に長距離通勤をしている人は少なかったと思います。当時、職場の反応はいかがでしたか?

そうですね。新幹線通勤をしている人なんてまわりにいなかったので、とにかく驚かれました。私自身も長く続けようとは全く思っておらず、“とりあえずやれるところまでやってみよう”みたいな感じでした(笑)。まさか、子どもを二人産んでまで新幹線通勤を続けているとは思いもしなかったです。

――自宅近くの職場への転職も考えていたのでしょうか?

はい。長距離通勤が難しくなったら、静岡で転職しようと思っていました。でも、実際に長距離通勤をやってみたら苦ではないどころか、とても快適だったんですよね。何より、確実に座れますから。特に妊娠中は新幹線でよかったです。妊婦の時ってトイレの回数が増えますが、新幹線はトイレはもちろん、綺麗な洗面台まで完備されていますから。

――とはいえ、通勤時間が増えることへの不安や心配はなかったですか?

もちろん、ありましたよ。経験者に話を聞こうにも、そもそも前例が少なかったのでそれも難しく、すごく不安でした。これまでに、新幹線通勤が不利だと強く感じたのは東日本大震災の時。新幹線はすぐに運転再開したのですが、東京都内が混乱していたので、その日に帰宅することは断念しました。その時に、災害時は家族と離れ離れになる体験をしましたし、東京と静岡は遠く離れているんだなと、改めて実感しました。

――長距離通勤の前例が少ない中で、どのような準備や下調べをしましたか?

下調べですか?私は、何事にも思い切って飛び込むタイプなんですよね。当たって砕けろみたいな(笑)。当時、女性で新幹線通勤をしている人の話は聞いたこともなかったですし……。だから、特に準備などはしてないです。不安はありましたけど、それ以上に冒険のようにドキドキする楽しみのほうが大きかったです。

――なるほど。でも、それくらいの思い切りがないと新幹線通勤は難しいかも……。ちなみに、新幹線の車内ではどのように過ごしていますか?

以前は読書をしたり、携帯でブログを書いたり、保育園で必要な名札書きや裁縫などをしていました。新幹線内にwi-fi 環境が整ってからは、行きの電車では仕事のメールをチェックしたり、必要な資料を出勤前にメールで送るようになりましたね。帰りは、パソコンでニュースや動画を見ながら缶ハイボールを飲んでいます(笑)。自分ひとりの自由な時間が持てるのは、贅沢だと思いますよ。もし、地元で通勤するとなると、交通手段は車になって、ここまで自由にリラックスできないと思うんですよ。ですから通勤中にゆとりある、ひとりの時間が持てるのは新幹線通勤者の特権だと思います。

▲帰りの新幹線で飲む缶ハイボール。オフになれる瞬間だという

――確かに。それに、新幹線の座席って不思議と集中できますもんね。

そうなんですよ。あとは、オンとオフが自然に切り替えられるのもメリットです。三島駅と東京駅って電車を降りた瞬間から流れている空気が全然違うんですよ。だから、頭で考えずとも、東京駅に降りた瞬間から自動的にオンに切り替えられるんです。

――朝の東京駅は特に、ビジネスマンで溢れかえっていますからね。

もう、人の歩く速度から違います。東京駅の構内は、自然と右側通行と左側通行のルールができていて、その波に乗らないといけないじゃないですか? そのなかに身を置くと、勝手に戦闘モードに入っちゃう(笑)。一方で、三島駅に降りると、早歩きしようが、 スキップしようがその人の自由。私はよくパワフルだって言われるんですけど、それは充電できる三島市での生活があるからこそ、成立しているんだと思いますよ。

■趣味に仕事に、多忙な日々を送る小野さんのルーティン

――1日のルーティーンを教えてください。

起床時間は季節によって変えています。ジョギングが趣味なので、日の出が早い夏は5時半前には起きて子どもたちが起床する時間まで走ります。逆に、冬は帰宅後に走るので、朝は少しだけゆっくりです。就寝時間は特に決めていませんが、最低7時間は睡眠を取れるように心がけています。

▲富士市に帰省した際、ジョギング中に見える富士山

【冬〜初春の場合】

6:30起床 6:45朝ごはんの支度、家事、身支度 7:40自宅を出発 7:55保育園を出発 8:09三島駅を出発 9:03東京駅に到着 9:24市ヶ谷駅に到着 9:30始業  勤務 17:00終業 17:05市ヶ谷駅に到着 17:27東京駅を出発 18:17三島駅に到着 18:30自宅に到着 20:20ジョギング 21:45帰宅・入浴 22:00フリータイム 23:30就寝

通勤時間はドア to ドアで1時間半ほど。自宅から三島駅までは徒歩6分ですが、今は娘を保育園に預けてから三島駅に向かいます。余裕を持って8時9分の新幹線に乗りますが、会社はフレックスタイムなので一本後の新幹線に乗ることもあります。

――17時に退社後は、まっすぐ家に帰るんですか?

そこは臨機応変に変えています。例えば、週に1度だけ残業する日を決め、セットで飲み会も入れています。東京駅の終電が10時47分なので、2次会には行けませんけどね(笑)。

――長距離にも関わらず、飲み会を入れるバイタリティはすごいです。晩御飯はどなたが作られているんですか?

夜は夫が食事や子どものお迎えなどをしてくれています。私が長距離通勤で譲歩している分、家事の割合は夫の方が多いです(笑)。

――休日はどのように過ごされていますか?

家族で街中を散策したり、家に居る時はテラスにいることが多いです。ここで食事をしたり、コーヒーを飲みながら読書したり、仕事をしたり。このテラスもマンションを購入する決め手でした。

▲開放感のあるテラスは仕事も捗るそう

▲家族で誕生日会を開いた様子

■三島市は、走ることが楽しくなる街

――三島市に移住してから、始められたことはありますか?

2013年に、女性の健康と美をテーマに楽しく走る団体「HiPs」を立ち上げました。もともとは「産後太りを何とかしたい」というママ友たちとの会話から始まったのですが、もう一つ大きな背景として東日本大震災での被災者の方々からの学びです。「いざという時に自分は果たして何km先まで走って避難できるのか?」、「子どもを抱えたまま高台に逃げられるだろうか?」と、健康や体力に自信を持てない母親としての危機感を肌で感じたことが、私の背中を押しました。

▲月に一度満月の日に集まって走る「HiPs」のジョギング風景。近年は男性の参加も増えているそう

――いざというときの体力を培ううえでも、ジョギングは有効ですよね。

はい。静岡県は将来的に大震災の確率が最も高いエリアです。幼い頃から街ぐるみの防災訓練は多かったものの、個人としては防災の意識が薄かったです。ましてや、当時の私は今より10kg以上も太っていましたし、ギックリ腰も繰り返していました。そこで、まずはいつ地震が来ても大丈夫なように、健康になって、体力を備えておこうと思ったんです。始めたきっかけは体力づくりでしたが、街中をジョギングすることで、さらに前向きな気持ちになれましたし、街の魅力を再認識しましたね。

――例えば、どんな魅力に気づきましたか?

まず、三島市は平地が多いので走りやすいですし、街中に花と緑が溢れていて景観もいい。そして、富士山の湧き水が流れる川沿いを走ると、せせらぎや鳥の声が聞こえ、自然からのパワーを得られます。夏の夜には蛍も舞うので、走っていてとても気持ちがいいんですよ。これだけ街が美しいと、つい立ち止まって深呼吸がしたくなります。

▲小野さんのジョギングコース

――想像するだけで、気持ち良さそうです。

さらに、普段から街を観察することで、震災時に役立つ情報も得られるんですよ。例えば、車が通れない場所でもジョギングなら通ることができます。そうすると「ここには公衆電話ボックスがある」とか「ここに抜け道がある」「この公園には水道と、トイレがある」といった、街のインフラを知ることができるんです。

■ここに来て、自分のことをもっと好きになれた

――三島での暮らしを心から満喫されているんですね。

本当に(笑)。行動もかなり変わりましたからね。例えば、ここに住んでからは、ホームパーティーなどで県外からよく友人を招くようになりました。街でお祭りがある時なんかは、ビールサーバーを借りてみんなで盛り上がっていますよ。最初からこの環境を想定していたわけではないので、まわりからはよく「ラッキーだよね」と言われます(笑)。だからこそ、三島の魅力や暮らしやすさを、もっと広く知ってもらいたいですね。

――三島市に元々住んでいる人たちとの交流はありますか。

ありますよ。三島市はかつて東海道五十三次の箱根の宿場町だったと、近所の方から聞いたこともありますが、外から来る方に対してものすごく優しいと思います。現に、私たちは新しく建てられたマンションで暮らしていますが、古くから三島に住む地域の方からも話しかけられますし、お祭りなどのイベントにも溶け込みやすい雰囲気があります。

あと、朝方のジョギングの時、同じく走っている方や散歩している方々とよくすれ違うんですが、みなさん必ず挨拶します。多い日は、朝から50回ぐらい「おはようございます」を言っていますよ(笑)。私は出張で全国各地に行きますが、他の地域だとこんなことはないですからね。いつもの癖でつい、すれ違う方に挨拶してしまうのですが「え、誰?」と驚かれることもしばしばで、どうも反応が薄いんですよ。でも、それは三島市が特別なんだなって思います。こうした風土があるからこそ、この街には移住者が徐々に増えているんだと思います。現に、私が住むマンションは45世帯のうち、約半数は東京・神奈川に新幹線通勤をしていますよ。

▲川沿いでストレッチする日も

――今まさに移住を考えている人にとっては、すごく魅力的ですね。精神的にも、いい影響がありそうです。

そう思います。私自身、東京に住んでいた頃は常に緊張感がありました。オンとオフを切り替えづらかったですし、情報や選択肢が多い分、仕事したり、学んだりするにはとても便利な環境ですが、常にこれでいいのかな?という迷いや不安も絶えませんでした。三島市での生活は選択肢こそ少ないかもしれません。でも、その分、迷うことも少ないなと思います。

そして何より、ここに住んでから自分の生き方が好きになれました。「自分らしく」が明確になって、さらに自信を持てたというか、自分のことをもっと好きになれた。これは他の場所では得られなかったであろう、大きな変化だと思います。

――まさに長距離通勤と引き換えに手に入れた、心身ともに充実したライフスタイルですね。

昨今は多様性が叫ばれていますが、私の生き方もその多様な事例の1つだと思っています。長距離通勤もそうですし、じつは私たちは法律婚ではなく夫婦別姓の事実婚なんです。
生き方にも働き方にも正解はないですし、みんな違ってみんないいわけじゃないですか。だから、私はこういうライフスタイルがあるってことを発信して、若い人たちの選択肢を増やしてあげたいですね。

――最後に、移住を考えている方にアドバイスをお願いします。

私は「ワーク・ライフ・バランス」よりも「ワーク・ライフ・インテグレーション」という言葉が好きです。働いているお母さんからはよく「どうやって両立しているんですか?」と聞かれるのですが、そもそも両立なんてできないと思っています。仕事の時は仕事に熱中すればいいし、家庭優先の時は家庭。家族の誰かが病気になった時は迷わず看病に時間を割けばいいんですよ。要は、アンバランスでも良い。仕事とプライベートは、かっちりと2つに分ける必要もない。その時々でプライオリティーが変わるわけですから「どちらも立たせなければ」って真面目に考える必要はないんです。私は気持ちさえ、混同していても、自分が心地よければそれで良いと思っています。三島市での暮らしが、そう気づかせてくれたんです。

(取材協力)
小野美智代
<HiPs>
https://www.facebook.com/HiPs.mishima

この記事を読んだ人におすすめ

Recommend

「二拠点生活(デュアルライフ)」という言葉をご存じでしょうか?

かつては、都会と別荘地に住まいを所有する富裕層など、限られた方が楽しむライフス