
アパート経営法人化のメリット・注意点!相続についても解説
アパート経営の法人化には節税をはじめとするメリットが多くあります。ただし、法人化には注意点もあり、それを踏まえてタイミングを計ることが大切です。この記事では、法人化のメリットや注意点、流れ、相続について解説します。
目次
アパート経営の法人化とは?
マンション・アパート経営の法人化とは、会社を新たに設立し、会社名義で不動産の管理や所有を行うことです。法人化には、不動産を管理する会社の設立と、不動産を所有する会社の設立という2種類があります。
この記事では、それぞれの方式や相続について解説した後、節税効果の高い、不動産を所有する会社の設立方法を詳しく解説します。
不動産を管理する会社を設立する方式
管理会社を設立する場合、建物や土地は自分名義のまま、設立した会社にマンションやアパートの管理業務を委託する方式をとるのが特徴です。主なメリットは、管理会社に支払った管理手数料や管理会社の役員や従業員に支払った報酬を経費にできるため、課税所得を減らせることです。
不動産を所有する会社を設立する方式
不動産所有会社を設立する場合、個人で経営していたマンションやアパートを設立した会社に売り、会社名義の不動産とすることで、法人経営に切り替えます。このとき、土地と建物の両方を売却して会社名義にする方法と、建物だけを売却する方法があります。会社で不動産を所有する方式は、管理する方式と比べて節税のメリットが多いため、今回はこちらをメインに法人化の流れや注意点などを紹介します。マンション・アパート経営の法人化を考えている方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
アパート経営を法人化するメリットは節税!
マンション・アパートを法人化するメリットは、物件の規模にもよりますが主に下記が挙げられます。
・相続における節税
・所得における節税
・経費的な面での節税
・赤字を繰り越せることでの節税
これらについて順番に詳しく説明します。
●不動産投資においての節税に関する記事はこちら
相続における節税
不動産の割合が総資産の70%以下の場合、設立した法人でマンションやアパートを3年間保有すると、資産の評価額を個人経営した際と同じ相続税評価額にまで小さくできます。そのため、相続対象の株価も下がり、相続税対策につながるのです。
また不動産ではなく株式として相続できるため、分割の面倒な手続きが不要になるといったメリットもあります。
家族が役員である場合、会社が得た家賃収入を家族の役員報酬として分配すれば贈与にならないため、贈与税の節税につながります。
所得における節税
個人でのマンション・アパート経営に生じるのが、所得税と住民税です。住民税は所得の10%と一定ですが、所得税は累進課税制度が採用されています。一方、法人としてのマンション・アパート経営には法人税が生じます。東京都23区に事務所を有すると仮定した資本金1億円以下の中小法人の場合、法人税の実効税率は約33.58%です。法人税の実効税率とは、法人税・住民税・事業税の税率を使い、実際に納税する際に用いる税率のことを指します。
これらを総合的にみると、個人経営の所得税のみが累進課税制で、所得が増えると税率も増えるため、所得が一定のラインを超えると法人経営の税率のほうが低くなるといえます。法人化にかかる費用も考慮すると、個人所得が1,000万円を超えたら法人化への移行を考える目安となるでしょう。ただし、この個人所得は不動産所得だけではなく、サラリーマンとしての給与所得も含まれます。
●不動産所得の確定申告に関する記事はこちら
経費的な面での節税
法人化してマンション・アパート経営した場合、個人経営と比べて経費として認められる領域が広くなります。そのため、マンション・アパート経営に必要な費用であれば原則経費で落とすことが可能になり、節税につながります。
赤字を繰り越せることでの節税
法人では個人事業主と比べて、繰越欠損金の繰越期間が長いことも特徴です。繰越欠損金の繰り越しでは、ある年の赤字を繰り越し、翌年以降で黒字の年の損益に反映できます。そのため、黒字の年の利益としての計上を減らすことができ、節税につながる仕組みになっています。繰越期間は、個人事業主が3年間であるのに対し、法人では10年間であるため、より長期的に節税を行えるのです。
アパート経営を法人化する注意点
マンション・アパート経営の法人化には節税のメリットが多くある一方、次のような注意点もあります。
・費用がかかる
・節税にならない可能性もある
以下で1つずつ解説します。
費用がかかる
マンション・アパート経営を法人化する際、会社を設立する初期費用として、株式会社であれば約20万~30万円の費用が必要です。加えて、法人の規模や利益に応じて、法人住民税(均等割)や税理士報酬、社会保険料などの維持費用もかかるため注意しましょう。
節税にならない可能性もある
法人の規模が小さい場合、節税対策にならない可能性があります。前述の通り、不動産所得と給与所得を合計して個人所得が1,000万円を超えるラインが目安となるので、所得や費用、税金を比較したうえで状況に応じた判断が必要となります。
また賃貸経営には、ご紹介したもののほかにも多くの税金が生じるため、それらを把握しておくことが大切です。詳しくは以下のリンクをご参照ください。
●賃貸用不動産を賃貸しているときの税金についてはこちら
マンション・アパート経営でお悩みの方は、不動産会社に相談してみるのも1つの手です。三井のリハウスは都市部の分譲マンションの賃貸管理実績が豊富なので、お客さまの状況に合わせた提案を行うことが可能です。ぜひ一度ご相談ください。
●賃貸経営をお悩みの方はこちら
相続税対策でアパート経営を法人化する際のポイント
相続税対策として、マンション・アパート経営の法人化を検討する際は、不動産を所有している本人ではなく将来の相続人を会社の役員にすることがポイントです。役員という立場に置くことで、不動産の家賃収入、つまり財産を役員報酬としてあらかじめ分配でき、将来の相続財産を減らせます。法人の相続人が出資して会社を設立し、株主になると、本来なら不動産の所有者の遺産となる不動産収入が、法人のオーナー(株主)の利益となります。そのため、こちらでも相続財産を減らせて、相続税対策につながります。
法人に土地を売却する際には注意が必要です。親の代から所有しているような土地の場合、取得費が明確になっていないと、土地の売却額の95%が譲渡所得税の課税対象となります。
アパート経営を法人化する流れ
ここまで、マンション・アパート経営を法人化するメリットと注意点について解説してきました。それらを踏まえたうえでここからは、法人化の流れについて詳しく説明します。
・会社の基本事項を決定
・法人の設立
・法人による資金調達
・役員報酬の決定
会社の基本事項を決定
まず会社を設立するには、以下のような基本事項を定める必要があります。
不動産の所有方式を考える
前述の通り、会社が不動産を管理する方式か所有する方式かを選ぶ必要があります。また、所有方式を選んだ場合、会社は建物だけを所有するのか、建物と土地の両方を所有するのかも決めなければなりません。それぞれ初期費用や収益性に違いがあるため、状況を考慮して適切なほうを選択しましょう。
株式会社か合同会社か選択する
合同会社は株式会社と比べて設立費用が低く、後に株式会社に変更できます。ただし、場合によっては金融機関からの評価が低くなる恐れもあるため注意が必要です。
定款を作成する
定款は会社の商号や事業目的などを記載したものです。会社のルールや規律となるため、会社設立の際には必ず作成しなければなりません。
法人の設立
法人設立には設立登記が必要です。その際に登記申請書や印鑑届出書などの書類が必要になるためあらかじめ準備をしておきましょう。準備ができ次第、法務局で設立登記の申請と会社印の登録手続きを行います。その後は、法務局での設立登記から2か月以内に税務署で開業申請をします。
法人による資金調達
個人で多くの資金を所有している場合を除き、融資してくれる金融機関を探さなければなりません。しかし、金融機関の融資では、設立した法人が不動産賃貸業以外の事業も行っていると見なされると、不動産が設備投資の扱いになり、融資期間が最長20年間となってしまいます。不動産賃貸業のみを目的とした法人ならば耐用年数に応じた期間の融資が受けられます。よって、設立した法人は不動産賃貸業のみを目的として、ほかの事業は行わないようにするとよいでしょう。
役員報酬の決定
マンション・アパート経営の法人化に伴い、その法人の役員報酬を決める必要が生じます。役員報酬の金額を定められるのは、1年に1回のみであり、一度決めると変更できないため、節税できる金額を想定して報酬設定をすることが大切です。
アパート経営で法人化以外に節税する方法
マンション・アパート経営においては法人化以外にも次のような節税方法があります。
・経費計上を漏れなく行う
・小規模企業共済を活用する
以下で解説します。
経費計上を漏れなく行う
前述の通り法人化による経費計上は節税につながるため、漏れなく計上することが大切です。共用部分の水道光熱費や修繕費などの、必要経費か否かの見分けがつきにくいものは税理士に相談しましょう。
小規模企業共済を活用する
小規模企業共済は、個人事業主としてある一定の金額を、課税対象となる所得から控除できる制度です。ただし加入には条件があるため、詳しく知りたい方は以下のリンクを参考にするとよいでしょう。
●小規模企業共済について詳しくはこちら
賃貸経営は計画的に法人化しよう
この記事では、マンション・アパート経営を法人化するメリットや注意点、具体的な流れについて解説しました。現状の不動産の規模や所得などの状況を踏まえて、個人経営か法人経営か、会社所有か管理か、など適切な方法を選び、よりよい不動産賃貸経営を行いましょう。
個人所得が1,000万円に満たない場合は、前述の通り法人化の効果は薄いため、別の方法を考えてみるのも有効です。たとえば、区分所有のマンションを貸し出す、賃貸マンション経営も選択肢の1つとして挙げられます。そうした可能性も含め、一度不動産のプロに相談してみてはいかがでしょうか?
三井のリハウスの賃貸管理サービスでは、豊富な経験を生かし、賃貸経営についての初歩的なサポートから日々の賃貸管理で生まれるお悩みの解決まで、お客さま一人ひとりに寄り添った対応を行っています。法人化についてのお悩みはもちろん、区分マンションによる賃貸マンション経営についても、ぜひ一度三井のリハウスにご相談ください。
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※税法の規定を簡略的にとどめている部分や、行政によって対応が異なる部分がありますので、実際のお取引での税法上の適用の可否につきましては、ご自身にてお近くの税務署や税理士等へのご相談・ご確認をお願いいたします。


宮原裕徳
株式会社ラムチップ・パートナーズ 所長。税理士。日本のみならず、東南アジアも含めた不動産にかかわる会計・税務に精通している。法人や個人向けの節税セミナーなども行っている。
https://www.miyatax.com/