
家賃滞納による強制退去は可能?条件や手続きの流れ、注意点を解説
賃貸物件の貸主にとって、借主の継続的な家賃滞納は大きな問題です。そこで今回の記事では、家賃滞納による強制退去が可能な条件や実際の手続きの流れ、また強制退去が認められない条件や実行時の注意点も併せて解説します。
目次
家賃滞納による強制退去は可能?
家賃滞納による強制退去は、通常の督促を行っても事態の改善が見られず、裁判所に申し立てが認められた場合にのみ可能です。実際に強制退去を実行するには、さまざまな条件を満たす必要があるので、一度家賃を滞納しただけですぐに借主を強制退去させることはできません。
強制退去とは、法律にもとづく権利を強制的に実施する手続きの一環であり、特に賃貸借契約における建物の明渡請求権を行使することを指します。この手続きの目的は、建物の明け渡しを実現することで、借主が所有する家具などを建物から撤去することも含まれます。
家賃を滞納されてしまうと、賃貸物件を所有する貸主に家賃収入が入りません。かといって新しい入居者を入れることもできないため、早急に対処したい問題でしょう。実際に借主を強制退去させることになった場合、貸主にはさまざまな手間や負担がかかるため、強制退去が可能な条件や手続きの流れをしっかりと確認しておくことが重要です。
強制退去の前に家賃滞納者へできる交渉
強制退去はあくまでも最終手段です。家賃滞納が発生した場合、まずは電話やメールなどによる督促を行います。以下が通常の督促の流れです。
1.電話やメールでの督促
2.督促状・請求書での督促
3.連帯保証人へ連絡
以下で詳しく解説します。
1.電話やメールでの督促
まずは、家賃を滞納している借主に対し、電話やメールで家賃を支払うように促してください。このとき、電話を何度もかけたり、夜間にかけたりすることは避けましょう。借主に精神的苦痛を与えた場合、後でトラブルにつながる恐れがあります。
2.督促状・請求書での督促
借主と電話やメールで連絡が取れない場合は、書面で督促を行う方法もあります。電話やメールなどで複数回にわたって連絡しても反応がない、折り返しの連絡がないといった場合は、督促状や請求書などを送ります。
3.連帯保証人へ連絡
上記のような督促をしても借主と連絡が取れなかったり、支払いの意思がないと感じられたりする場合は、連帯保証人に連絡しましょう。借主が保証人に迷惑をかけたくないと考えていれば、この段階で支払いに応じるでしょう。もし、連帯保証人ではなく保証会社を利用している場合は、借主の代わりに保証会社から家賃が支払われます。連帯保証人も家賃の支払いに応じず、保証会社の利用もない場合、最終手段である強制退去の手続きに移行できます。
なお、三井のリハウスは、入金管理・未収金対応といった充実した賃貸管理サービスのもと、お客さまをサポートします。家賃滞納者への対応でお悩みの方はぜひご相談ください。
強制退去が可能な条件
上記でご紹介したようなさまざまな対処を試みても、事態の改善が見られなかった場合は強制退去に着手できます。借主を強制退去させるにはいくつかの条件をクリアしている必要があるものの、これらの条件は明文化されていません。これは、借主の家賃滞納理由が多岐にわたるためです。過去の判例から見た、一般的に強制退去が可能であるとされている3つの条件は以下の通りです。
・3か月以上の家賃滞納
・借主に支払いの意思がない
・貸主と借主の信頼関係が崩れている
以下で詳しく解説します。
3か月以上の家賃滞納
過去の判例のなかには、借主が家賃を3か月以上滞納して、強制退去が認められたケースがあります。しかし、滞納期間については法的に定められているわけではありません。3か月以上という期間は1つの目安であり、状況によって変化することを理解しておきましょう。
借主に支払いの意思がない
強制退去を実行するためには、借主に支払いの意思がないことを第三者に示す必要があります。内容証明等を利用して、先に説明した通常の家賃督促とそのやりとりを記録に残しておくと有効です。内容証明については後ほど詳しく解説します。
貸主と借主の信頼関係が崩れている
強制退去を実行するには「賃貸借契約」を継続するのが困難であると認められる必要があります。賃貸借契約とは、貸主が借主に部屋を貸し、借主が対価として家賃を支払うという法律上の取り決めであり、双方の信頼関係によって成り立っています。たとえば、借主が支払いの意思を示した場合でも、約束の日時に支払われなかった場合は、信頼関係が崩れたと判断されることもあるでしょう。
●賃貸借契約に関する記事はこちら
強制退去が認められない場合
ここでは、借主を強制退去させられない場合について説明します。具体的には以下の通りです。
・滞納が一時的かつ短期間である場合(目安として3か月未満の家賃滞納)
・借主が分割支払いを約束した場合
・信頼関係が崩れていないとされる場合
上記の場合は、基本的に借主へ強制退去を要求することは難しいとされます。さらに、貸主の督促方法に問題がある場合も、強制退去の実行が認められないことがあります。問題があるとされる貸主の督促方法は、具体的に以下の通りです。
・勝手に部屋に侵入する
・勝手に家財を持ち出す
・脅迫行為をする
・勝手に鍵を交換する
貸主が上記のような法的に問題のある行為を行った場合、強制退去の実行はできない恐れがあります。家賃を滞納しているからといって、何をしてもよいわけではないことを覚えておきましょう。
強制退去を実行する流れ
通常の督促をしても事態の改善が見込めず、かつ前述した3つの条件を満たしている場合は、借主を強制退去させることが可能です。強制退去を実行する際の一般的な流れは以下の通りです。
1.内容証明通知書を送る
2.契約解除と「建物明渡請求訴訟」の提起を行う
3.強制退去を執行する
以下で詳しく解説します。
1.内容証明通知を送る
内容証明郵便で家賃督促や賃貸借契約解除の書面を送付します。書面には滞納額や支払い期限、それらが守られなかった場合には法的措置を取り、部屋の明け渡しを要求することについて明記しておきましょう。内容証明郵便では、誰が、誰に、どのような内容を送ったかを日本郵便株式会社が証明してくれます。内容証明は裁判で法的な証拠として利用できるため、必ず内容証明通知を送るようにしてください。
2.契約解除と「建物明渡請求訴訟」の提起を行う
契約解除を行った後も借主が立ち退かない場合は、裁判所に明渡請求訴訟を提起します。通常、申し立てを行う裁判所は、対象となる物件の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所です。申し立てに際して、以下の書類を用意しておきましょう。
・賃貸借契約書
・家賃の支払い経過をまとめた表
・登記簿謄本
・賃貸契約解除通知書および配達証明書
・家賃の請求書および配達証明書
・明渡請求の訴状
・固定資産評価証明書など
強制退去に関して弁護士に依頼をすると、代理人として裁判に出席してもらえます。借主と直接やりとりすることを避けたい場合は、弁護士への依頼も検討するとよいでしょう。
3.強制退去を執行する
裁判所による立ち退きの催告にも応じない場合、法的に強制力のある強制退去が執行されます。執行に際しては、執行官が直接現場に赴き、借主を退去させます。具体的には、家具や家電などを運び出し、部屋を空にします。運び出した荷物は執行官が指定した倉庫で1か月程度保管され、借主が引き取りに来なければ売却または破棄されるのが一般的です。
強制退去を執行できるのは、起訴から最短で3か月半から4か月後です。スケジュール感を確認しておくことが重要でしょう。
強制退去にかかる費用
強制退去の過程で、以下のような費用が発生します。
ステップ | 費用相場 |
---|---|
内容証明通知書の送付 | 1,300円~ |
契約解除と「建物明渡請求訴訟」の提起 | 2万円~4万円 |
強制退去の執行 | 30万円~50万円 (※部屋の大きさや家財の量によって変動します) |
弁護士費用 | 30万円~40万円 |
※表記の金額は一例です。
民事執行法第四十二条に「強制執行の費用で必要なものは、債務者の負担とする」とある通り、法律上で強制退去にかかる費用は借主に請求可能だと定められています。しかし、家賃を滞納していた借主は経済的に困窮している場合が多く、自己破産されると費用を請求できないため、結果的に貸主の負担になってしまうケースもあります。また、弁護士費用は強制執行の費用として認められないため、請求できません。
これらの費用を、家賃滞納分と合わせるとかなりの損失となってしまいます。強制退去を検討している方は、かかる費用を把握してから決断するようにしましょう。
家賃滞納による強制退去の注意点
強制退去を実行する際には、以下のような注意点があります。
・トラブルにつながる恐れがある
・手間や負担がかかる
以下で詳しく説明します。
トラブルにつながる恐れがある
家賃滞納は貸主と借主双方にとって重大な問題です。強制退去を行う際には、双方の意見や感情が衝突し、大きなトラブルに発展することもあり得るでしょう。家賃滞納をしている借主に不満を抱いたとしても、貸主は誠実な対応を心がける必要があります。
たとえば、勝手に部屋に入る、勝手に鍵を変えるなどの違法行為に及んでしまうと、逆に貸主が訴えられ、訴訟問題に発展することもあります。貸主は感情に任せず、正当な方法で対処することを心がけましょう。もし家賃滞納トラブルに関して不安がある場合は、不動産管理会社に相談するのがおすすめです。
手間や負担がかかる
家賃滞納から督促、法的な手続きを経て強制退去が実施されるまでには一定の期間が必要で、貸主には多くの手間や負担がかかります。煩雑な手続きやトラブルのリスクを減らすために、管理会社に相談することを検討してもよいでしょう。
家賃滞納に伴う強制退去を弁護士へ依頼するメリットと注意点
家賃滞納による強制退去を検討するにあたって、弁護士へ相談するメリットは以下の通りです。
・家賃滞納を軽視していた借主が弁護士の介入で督促に応じる可能性がある
・知識を持つ第三者の介入により、感情のぶつかり合いを避けて解決できる
・弁護士の知識と経験を生かし、迅速な解決が可能になる
・煩雑な手続きを自ら行う必要がない
上記のメリットがある一方で、注意点もあります。以下で具体例を挙げるので、参考にしてみてください。
・裁判で争う可能性を示唆することで、借主との関係が悪化する場合がある
・借主も弁護士を立て、弁護士のアドバイスによって、自己破産を選択する場合がある
・費用がかかる
・借主側も弁護士を立てて対抗してくることで、家賃回収が難しくなる可能性がある
強制退去に関して弁護士に依頼するメリットと注意点を理解し、家賃の滞納状況、借主との関係性などのさまざまな状況を踏まえたうえで判断しましょう。
家賃滞納にお困りなら管理会社への相談がおすすめ
家賃滞納は貸主にとって、一刻も早く解決したい重要な問題でしょう。しかし、借主にも家賃を滞納している事情があり、すぐに解決することはなかなか難しいのが実情です。また、解決のための最終手段である強制退去を実行するには多くの費用と労力がかかります。
家賃滞納を防ぐには、借主に家賃支払い能力があるか、入居審査を厳しく行う賃貸管理会社に依頼することも方法の1つです。万が一、家賃の滞納が発生しても、経験豊富なプロが的確に対処してくれるため、貸主自身への負担は少なく済むでしょう。
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