相続対策は何をする?事前に行いたい対策をご紹介!

自分にもしものことがあったとき、遺された家族に負担をかけないために、元気なうちに行える対策があります。今回は、相続に関する悩みを「税金」と「遺産分割」に分けて、それぞれ具体的な対策をご紹介します。

目次
  1. 遺産相続のときにはどんなことに気を付ければよい?
  2. 相続税を節税する6つの方法
  3. 相続人が遺産分割で悩まないための3つの方法
  4. 遺された人がスムーズに相続できるように
記事カテゴリ 相続 老後の生活 シニア
2021.03.22

遺産相続のときにはどんなことに気を付ければよい?

年齢が60代、70代になると、相続のことについて考え始める人は多いのではないでしょうか?自分が亡くなっても子どもが困らないように、今から相続について考えておきたいと思っている人もいるでしょう。

ですが、いざ相続といっても「どんなことに気を付ければよいのか?」「どんな対策が必要か?」など、分からないことも多いと思います。そこで今回は、相続時に想定される気を付けたいことと、それに対して行える対策をご紹介します。相続をスムーズに行うための参考にしてみてくださいね。

専門家に相談するシニア夫婦

まず、遺産相続の際には、大きく分けて2つの問題が想定されます。

相続税がかかることがある

遺産を相続するには、相続税がかかります。相続税とは、現金や不動産をはじめとする「財産」を、配偶者や子どもなどに相続するときに課せられる税金のことです。相続税の税率は、持っている財産の金額によって決まり、金額が大きければ大きいほど税率が上がる仕組みになっています。

ただし、相続税は一定の額までは控除されるため、財産の総額がその範囲内であれば税金の支払いは発生しません。これを基礎控除額といい、以下の計算式で求めることができます。

基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人とは、配偶者や子どもなど、民法で定められている相続人のことをいいます。相続について考え始める際には、自分の財産の総額で相続税が課せられる額かどうか把握しておくと、相続した後に法定相続人に思わぬ出費が発生することも避けられますよ。また、節税対策の方法も検討しておきましょう。

誰が何を相続するかでもめることがある

遺産相続の際、相続人が複数いる場合は、誰が何を相続するのかでもめる場合があります。遺産の分配方法によっては、元々財産を所有している被相続人が、生前に配偶者と一緒に住んでいた家がほかの人のものになり、配偶者の住む場所がなくなってしまうということもあり得ます。相続人同士がもめないようにするためには、被相続人が元気でいるうちに財産をどう分けるかを考え、遺言を残したり、生前に財産の分配を行っておくことが大切ですよ。

相続税を節税する6つの方法

相続税は、支払う額を抑える方法が大きく分けて2つあります。「相続する財産の現金割合を減らす方法(現金ではない形で相続する)」と「非課税や減税の対象となるような特例制度を利用する方法」です。節税につながる6つの方法についてご紹介しましょう。

相続税申告書とペンと印鑑

[ 1 ] マンションを購入する

現金で財産が残っている場合は、マンションを購入することで節税できる可能性があります。同じ金額の現金と不動産を比較したとき、不動産のほうが相続税評価額が低くなり、税金の額が小さくなるからです。

ちなみに、相続税評価額とは、相続税を計算するときの基準となる課税額のこと。マンションの場合は、固定資産税評価額が相続税評価額となります。固定資産税評価額は、建物を建築したときにかかる費用の50%~70%程度である場合が多いです。そのため、現金で財産を残すよりも相続税がかなり安く済む計算となりますよ。

また、土地にかかる評価額も現金より少なくなるのですが、マンションの土地の場合は敷地に対する物件の専有面積の割合を元に計算されるため、戸数の多いマンションでは土地にかかる評価額はかなり低く抑えられます。

[ 2 ] アパートを建築して賃貸経営する

土地を持っている場合は、その土地にアパートを建築して、賃貸物件として運用することも相続税対策につながります。現金よりも不動産のほうが相続税評価額が低くなることに加えて、土地に対しては「小規模宅地等の特例」という減税措置が受けられる可能性があるためです。

「小規模宅地等の特例」は、被相続人が住んでいたり事業に使用していた土地を相続した場合、要件を満たしていると、一定の限度面積の土地に対して50%または80%相続税が減税されるという制度です。なお、限度面積は、最大でも400m2までとなっています。

[ 3 ] 資産管理会社を設立する

住宅を賃貸用として保有している場合は、資産管理会社を設立して賃貸経営することで節税につながる場合があります。相続税は、個人の財産を相続したときに課せられるものです。法人化することで不動産は個人の所有財産ではなくなることから、相続税の課税対象は、不動産から株式に変わることになります。株式の相続税評価は不動産の評価よりも低いのが通常なので、相続税の節税につながるのです。

また、まとまった額の財産を贈与した場合は、家族であっても贈与税という税金が課せられます。しかし、家族を法人の役員としておくと、役員報酬という形で贈与税を支払うことなく財産を引き継がせることができますよ。ただし、役員としての実態がないと役員報酬が会社の経費として認められないおそれがありますので注意が必要です。

登記申請書とパソコン

[ 4 ] 相続時精算課税制度を利用する

土地や株など、特に将来的に値上がりしそうな財産を相続時精算課税制度を利用して贈与すると、節税につながることがあります。相続時精算課税制度とは、生前贈与を行う際に一定額まで非課税で済むという制度。ただし、税負担が免除されるわけではなく、子どもや孫が財産を相続するときに贈与税が非課税となった財産の相続税を支払うというものです。

この制度の場合、生前贈与分の贈与税は、贈与されたときの価値で課税されるため、財産の価値がその後値上がりした場合は、価値の低い頃の税で済んでしまうため結果として節税につながります。

[ 5 ] 住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用する

住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用して生前贈与を行えば、節税につながる場合があります。住宅取得等資金贈与の非課税制度とは、親や祖父母が贈与したお金で子どもや孫が住宅を購入するとき、一定の基準を満たせば最大3000万円までは贈与税が非課税となる制度です。

新築の物件はもちろん、増改築するための資金の援助にも適用されます。ちなみにこの場合、一般的な贈与税の基礎控除も併せると3110万円までが非課税となりますよ。この制度を利用して生前に資産を贈与しておけば、相続時に課税対象となる資産を減らすことができます。

[ 6 ] 贈与税の配偶者控除を利用する

配偶者に対する生前贈与制度を利用することで、節税につながることもあります。婚姻期間が20年以上の配偶者に対して、居住用不動産を贈与する場合、または居住用の不動産を購入、建築するための資金を贈与する場合は、基礎控除額の110万円のほかに最大2000万円まで控除される特例があるのです。

この場合、婚姻期間が20年以上の夫婦はじめいくつかの要件を満たすことで利用することができます。国税庁のホームページで事前に確認しておきましょう。

●夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除の要件に関するページはこちら

またこれとは別に、相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)という制度もあります。配偶者は、「法定相続分相当額」か「1億6000万円」のどちらか多いほうの金額までの相続であれば、相続税はかからないという制度で、配偶者の相続税負担を大きく引き下げてくれます。
ただし、配偶者の相続税がかからなくても、配偶者が亡くなったときの二次相続で、子どもの相続税負担が重くなってしまう可能性が考えられるため、配偶者贈与制度や相続時精算課税制度の利用なども含めて、早くから有効な方法を検討するようにしましょう。

相続人が遺産分割で悩まないための3つの方法

これまで相続税の節税対策について見てきました。次に、相続人同士が遺産分割でもめないための対策を考えてみましょう。そもそも相続人がもめる原因となることの多くは、遺産が等分できない、分割の方法に折り合いがつかないということにあります。そこで、相続人が遺産分割で悩まないために利用できる対策を2つご紹介します。

相続の相談をする夫婦

[ 1 ] 不動産を売却する

所有している財産が不動産の場合、分割しづらい可能性があります。そのため、相続人への分割のしやすさを考えるなら不動産を売却して現金化してしまったほうがよいでしょう。

ただし、現金化することによって、譲渡所得税などがかかることがあります。その点も想定しつつ検討してくださいね。

また、相続財産が自宅しかない場合は、リースバックで現金化するという方法もあります。リースバックとは、住んでいる家を売却して、賃貸契約をしてその家に住む方法です。リースバックの方法を使えば、家に住みながら財産を現金化することができますよ。

[ 2 ] 家族信託を活用する

「将来、認知症になって遺産の分割の判断ができなくなるかも」といったもしものときの不安は、家族信託という方法で解消できます。家族信託とは、持っている不動産や現金などの資産の管理や処分を、信頼できる家族に任せるために、あらかじめ家族間で契約する制度です。家族信託を活用すれば、信頼できる親族に財産の管理を任せつつ、自分が亡くなった後の財産の移転先を指定しておくこともできますよ。

また、財産管理を別の人に任せる制度には「成年後見人制度」というものもあります。本人の不利益を避けるための最低限の財産管理を行う成年後見人制度とは違い、家族信託では、家族間で取り決めることができるため、自由度が高く、後見人に支払うランニングコストも発生しません。将来、遺産相続でのトラブル回避のために、家族信託の利用を検討してみるのもよいでしょう。ただし、家族信託を利用する場合は、認知症になってしまってからでは契約が成立しないため、早めの対策が必要となりますよ。

[ 3 ] 配偶者居住権を設定する

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、自宅の所有権を相続できなくても引き続き居住できるという権利です。遺された配偶者が、遺産の分配によって今まで住んでいた住まいを失ってしまうことがないように設定します。

自宅を配偶者が相続すると、現金やそのほかの財産を十分に相続できずに生活費に困ることがあります。これを防ぐために、子どもなどほかの相続人が自宅の所有権を取得し、配偶者は利用権として住む権利を確保するのです。

自宅の評価を、利用権と利用権のない所有権の2つに分けることになるので、相続税の評価は有利になります。また、利用権は配偶者が死亡すると消滅し相続の対象にならなくなるので、二次相続まで考えると節税効果は非常に大きいのです。

遺された人がスムーズに相続できるように

これまで相続税の節税について、相続の際のトラブル回避について、対策方法をご紹介してきました。今回紹介した方法以外にも、相続税の節税対策として生命保険を利用するやり方もあります。

被相続人であるあなたが生命保険に加入して、法定相続人である配偶者や子どもを生命保険金の受取人に設定する方法です。生命保険金は、被相続人が死亡することで受取人の権利が発生するもので、いわば受取人自身の財産なので、相続財産そのものではありません。

もっとも、この保険金は「みなし相続財産」とされ、相続税の対象になりますが、法定相続人のうち1人あたり500万円までは非課税となるため、この範囲内で受取金額を設定しておけば節税効果も見込めるわけです。

3世代の家族

ご紹介したように、相続の対策の種類はたくさんあります。相続する財産の額や内容、家族の状況によって有効になる対策が変わってきますよ。

また、今は元気でも急に認知症になって判断が低下してしまう可能性もありますよね。そのため、元気なうちから相続についての知識を深めて、早めに対策を打っておくのがおすすめです。遺された人のことを考え、今から相続対策を始めましょう!

●認知症対策について検討したい方はこちら

伊藤諭

弁護士法人ASK市役所通り法律事務所代表。弁護士。
地元に根ざした幅広い業務を行い、企業法務や交通事故、相続などを注力分野としている。
多数の講演実績のほか、ネットニュースの監修やメディア出演も行う。
https://www.s-dori-law.com/