相続税の対策とは?知っておきたい賢く相続するポイント!

自分が亡くなった後、残された人たちになるべく負担をかけないように対策をしておきたいと考える人は多いのではないでしょうか?今回は、相続税に焦点を当てて、申告をスムーズに進めるコツや節税のポイントをご紹介します。

目次
  1. 相続税の対策、まず確認すべきは?
  2. 相続税を節税する3つのポイント
  3. 相続をスムーズに進めるポイントは?
  4. 相続の対策に欠かせないこと
記事カテゴリ 相続 老後の生活 シニア
2021.12.20

相続税の対策、まず確認すべきは?

長く生きていると、先の人生を見据えて物事を考えることが増えてきます。自分が今、住んでいる家や持っているお金などを次世代に引き継ぐことも、そのなかの1つです。不動産や預貯金、生命保険などの相続にあたって、「手始めにどうしたらよいのだろう?」と考えることはありませんか?

財産の相続は、遺された家族がもめないように、ポイントを押さえて早めに準備をしておきましょう。ここでは、相続税の申告をスムーズに進めるコツや相続税を節税する方法など、相続税の対策について押さえておくべきポイントをお伝えします。

相続人を明確にする

相続税について考えるうえでまず整理したいのは、法定相続人が誰なのかということです。法定相続人とは、法律で定められた、財産を相続する人を指します。具体的には、状況に応じて配偶者や子や孫、父母、兄弟姉妹、養子などが挙げられ、遺産の配分も法律で定められています。

法定相続人が何人いるかによって相続税の控除額が変わってくるので、まずは法定相続人の範囲を明確にしておきましょう。

また、相続は通常、財産を渡す立場にある「被相続人」が指定をしない場合、法定相続人同士での「遺産分割協議」を経て遺産が分配されることになります。「法定相続人以外にも遺産を分けたい」「特定の財産をだれかに残したい」など、自分の思いどおりに遺産を分けてもらいたい希望があれば、遺言書を作成して、自分の意思に基づいた形で財産が残せるように手配するかを検討しましょう。

●遺言書の作成についての記事はこちら
相続でもめないために!今のうちにできる対策2つ

家族3世代の笑顔

相続する資産を把握する

次に相続する資産を把握して整理します。整理する際には、「プラスの財産」と「マイナスの財産」の2つに分けて考えましょう。

プラスの財産は、預貯金、生命保険や退職金、不動産などです。不動産は相続税評価額を算出して、価値を確かめましょう。マイナスの財産は、借入金やローンなどの借金を指します。ネット銀行やネット証券、仮想通貨など、家族が把握しにくい財産については、財産目録を作成するなどの工夫をしないと見過ごされてしまうことがあります。

相続する財産を正しく把握しておかないと、相続税の正しいシミュレーションができなくなります。そうなると、残された家族が相続税を誤って申告したり、想定外の税金が発生したりする可能性が出てくるため、財産の把握は重要です。

仮に、相続する財産の総額である「遺産課税総額」を少なめに見積もっていた場合、遺産課税総額が過少申告であると税務署から指摘が入り、修正申告の必要が出てくるおそれがあります。修正申告をすると、本来納める相続税に10%増し、50万円以上ならば15%増しの金額を加算税として支払わなければなりません。

遺産分割

相続でかかる税を試算する

最後に、相続税が現状でどれくらいかかるのかをシミュレーションしていきましょう。相続した財産にかかる税金には、「基礎控除額」という非課税の上限額があります。基礎控除額の対象となる財産の上限額は以下の計算式で算出します。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

相続する財産から基礎控除額を差し引いて、基礎控除額を超える分には相続税がかかります。相続税がかかる分については節税ができないかを検討しましょう。

ちなみに相続税額が多い場合、法定相続人を増やして基礎控除額を増やす方法があります。基礎控除額は、法定相続人1人につき600万円増えることになるため、法定相続人が多いと、基礎控除額も増えるというわけです。

たとえば孫を養子にして法定相続人とすると、基礎控除額が増えることになります。ちなみに、法定相続人として迎えられる養子は、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとなります。

ただし、法定相続人が突然増えるわけですから、ほかの相続人との間でもめるケースは大いに考えられます。

調査をする手元

相続税を節税する3つのポイント

相続税の基本を押さえたうえで、相続税がかかることが分かった場合は、相続税の節税を模索しましょう。主な節税の方法として3つご紹介します。

生前贈与を検討する

相続税の基礎控除額を上回る財産については、生前贈与として亡くなる前に贈る方法があります。相続した財産に相続税がかかるように、贈与した財産にも贈与税がかかりますが、生きているうちに上手に贈与することで節税につながることがあります。節税につながる主な生前贈与の方法を以下にまとめました。

生前贈与の形方法・条件非課税枠
暦年贈与毎年、預貯金や手元の現金を子や孫に渡す最大で年間110万円まで贈与税がかからない
配偶者特例20年以上連れ添った配偶者に1度だけ使える特例措置。マイホームまたはマイホーム取得の資金を贈与した場合、非課税枠が設定される。この特例を活用して3年以内に相続が発生しても、新たに相続税がかからない。2,000万円までは贈与税がかからない
教育資金の一括贈与2023年3月31日までの時限措置。直系尊属の祖父母や父母から30歳までの子や孫へ、教育資金として一括贈与する場合。1,500万円までなら贈与税がかからない
住宅の取得やリフォーム資金の贈与2021年12月31日までの時限措置。直系尊属である祖父母や父母から、住宅の取得やリフォームのための資金として贈与を受けた場合。非課税枠は取得する住宅の条件によって異なる。500万~3,000万円まで贈与税がかからない
結婚・子育て資金の一括贈与2023年3月31日までの時限措置。直系尊属である父母や祖父母が、20歳以上50歳未満の子や孫に結婚・子育て資金を贈与した場合。1人あたり1,000万円まで、結婚資金は300万円まで

上記で紹介した生前贈与は、配偶者特例を除いて、贈与して3年以内に贈与した人が死亡した場合は、相続税の課税対象となります。そのため、実行するのであれば早めに行うのがよいでしょう。

また、配偶者特例には注意が必要です。配偶者特例を用いて生前贈与をしたとしても、もともと相続税の配偶者控除も大きいうえ、配偶者のほうが先に亡くなってしまうことも考えられます。配偶者特例のメリットは税金の面では大きくないといえるでしょう。

●生前贈与についての記事はこちら
生前贈与を賢く行うには?節税のポイントと手続きについて解説

生命保険や退職金の非課税枠を把握する

相続する財産のなかに、生命保険や退職金がある場合は、それらの非課税枠を把握しておきましょう。生命保険や退職金には非課税限度額があります。相続税が非課税となる生命保険や退職金の限度額は、どちらも「500万円×法定相続人の数」で計算します。

生命保険や退職金の非課税枠は大きく、財産分与に便利です。そのまま現金で残すと全てが相続税の課税対象になりますが、生命保険や退職金という形で残すと、非課税枠ができることになるのです。生命保険や退職金として残すことは受取人を指定することでもあるので、被相続人である当人の意思を明確にすることになります。

不動産を利用して税負担を軽くする

財産を相続するとき、現金よりも不動産の形で残したほうがよいかもしれません。不動産購入や賃貸経営による土地活用は、現金よりも節税効果を見込める場合があります。

たとえば、宅地や賃貸経営のための収益物件として建物と土地を相続した場合、「小規模宅地等の特例」が適用されると、相続税評価額が最大で80%減額になります。

ただし、不動産は物理的に分割するのが難しいものです。そのため、遺産相続時にもめないよう 配慮する必要があります。相続の際には、相続人たちが納得できる分与を心がけることが必要でしょう。また、分与方法を遺言書で指定しておくと、事前にもめごとを防ぐことにつながります。

家の模型と不動産売買契約書

相続をスムーズに進めるポイントは?

資産の把握や相続の仕方、相続税や贈与税への配慮など、財産の相続はやることが盛りだくさんですね。では、相続をスムーズに進めるにはどうしたらよいのでしょうか?ここでは、相続をスムーズに進めるポイントをお伝えしましょう。

早めの段階で対策を打つ

相続への対策は早めに手を打っておくに越したことはありません。たとえば、先ほどご紹介した生前贈与は、配偶者特例を除いて、相続する人が死亡した時点からさかのぼって3年前までに済ませておかないと、相続税の課税対象になってしまいます。

なお、遺産分割でもめる原因の多くは生前贈与です。生前贈与を活用するのであれば、全相続人に説明を尽くして平等に行うことが必要です。

また、相続への準備として想定しておきたいのは、自分が認知症になったときのことです。認知症になると、法的な判断が難しくなったり、介護が必要になったりと、元気なときとは状況が変わってしまいますね。認知症になった場合を想定して、成年後見制度や家族信託などの活用を検討しましょう。

成年後見制度や家族信託制度とは、当人の判断能力が衰えた際、当人に代わって財産を保護する制度です。

●成年後見制度についてはこちら
成年後見人とは?なれる人、なった場合の権利や職務について

家系図と家の模型

預貯金口座の出入金の管理をする

預貯金の口座の出入金を生前10年にわたってさかのぼれるようにしておくと、相続税の申告がより正確に行えます。税理士に委任して「書面添付制度」を活用し、税務署に申告・提出しておくと、税務調査への事前の対応になります。

書面添付制度とは、税理士が税務署に対して申告が適正であることを伝える制度のことです。あらかじめ詳細に伝えることで、税務申告をスムーズにします。

相続税の納税時期を把握する

相続税は、相続が発生したと知った日、一般的には相続する人が亡くなった日から10か月以内に税務署に納付しなければなりません。期限を過ぎた場合、相続税とは別に延滞税として、課税遺産額の20%を納める必要があります。

税務署

相続の対策に欠かせないこと

相続税対策の場合、節税には事前の情報収集や早めの対策が欠かせません。2013年の相続税法改正により相続税の基礎控除基準が下がり、相続税を支払う対象になる人が増えてきました。

多くの人は、相続人たちの負担を減らしたいという目的で相続税対策を行っているはずですが、この目的と手段が知らぬ間に逆転してしまっている場合が多く見られます。相続税対策はやり方を間違えると相続人同士で争う「争族」につながりかねません。「相続人の負担を減らすための対策」がかえって相続人の負担を増やすことになってしまっては本末転倒ですよね。

生前にしっかり適切な対策をしておくと、残された子や孫の負担を減らすことにつながります。逆に、相続税ばかりに気を取られて節税のための税金対策のみをしていると、残された家族にもめ事が起こる、といったこともありえます。相続の際には、誰に、何を、どう渡すのか、といったことを押さえてから手配することが肝心です。

また、会社の経営や不動産オーナーなど、法人として手掛けているものがある場合は、特に綿密な事前準備が必要となります。なぜなら、誰が株を持つのか、持ち株の割合はどうするのかなど、当人の一存だけでは決められないものがあるためです。関係者との話し合いや合意が必要となりますね。

なお、相続する資産のなかに空き家がある場合は、なるべく生前に処遇を決めておきましょう。家は人が住まなくなると、荒れたり、周囲の景観の妨げになったりという弊害が生まれます。放置すると罰金の対象にもなってしまいます。

●空き家に関して詳しくはこちら
空き家の活用方法とは?賢く上手に利用する空き家対策について解説

相続税の対策は、把握しなければならないことが多く、分からないことや迷うことも多く出てきますね。事前に税理士や弁護士などの専門家に相談したり、相続対策のセミナーに参加するなどして早めの対策を行いましょう!

小さな子どものいる夫婦

伊藤諭

弁護士法人ASK市役所通り法律事務所代表。弁護士。
地元に根ざした幅広い業務を行い、企業法務や交通事故、相続などを注力分野としている。
多数の講演実績のほか、ネットニュースの監修やメディア出演も行う。
https://www.s-dori-law.com/