認知症の親の不動産を売却するには?利用可能な制度のメリットや注意点について解説

認知症になってしまった親の代わりに不動産を売却することは可能なのか?という疑問を抱いている方もいるのではないでしょうか?この場合、成年後見制度を利用することで売却が可能です。この記事では認知症の親の不動産を売却する際に利用可能な制度について、そのメリットや注意点を解説していきます。

目次
  1. 認知症の親の不動産は勝手に売却できない
  2. 認知症の親の不動産売却を可能にする「成年後見制度」
  3. 法定後見制度のメリットと注意点
  4. 判断能力がある場合には家族信託を
  5. 法定後見制度を利用した不動産売却の流れ
  6. 認知症の親の不動産売却で困ったらプロに相談を
2023.07.21

認知症の親の不動産は勝手に売却できない

親が認知症になってしまい、介護施設への入居を余儀なくされることで、実家をはじめとした本人の持ち家が空き家状態になることがあります。こうした状況で、本人が所有している不動産の扱いに困っている方も多いのではないでしょうか?

法律では、意思能力のない者が売買契約を結んでも無効になると定められています。意思能力とは、自分の行動の結果が法律的にどのような意味を持っているかをある程度認識できる能力のことを指す法律用語です。そのため、重度の認知症にかかると意思能力がないと見なされ、不動産の売買契約を本人が結ぶことが難しいという現状があります。

また、重度の認知症を患った親の代わりに子どもが代理人として不動産売却を行うこともできません。なぜなら、意思能力(判断能力)がなければ、法的に有効な代理人を立てるために必要な同意確認がとれないからです。

しかし、一部例外もあります。認知症でも意思能力があると判断されるような軽度のものであれば、不動産売却が可能です。では、これらの例外に該当しない場合、認知症の親が所有する不動産を売却する方法はないのでしょうか?今回は、認知症を患う親が所有している不動産を売却する際に利用可能な制度について、そのメリットや注意点をお伝えしていきます。

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認知症の親の不動産売却を可能にする「成年後見制度」

重度の認知症になってしまった親の代わりに売買契約を結べる方法として、成年後見制度があります。ここでは、その制度について詳しく解説していきます。

成年後見制度とは?

成年後見制度とは、意思能力が十分でない、認知症や知的障害を持つ人の代わりに、成年後見人が契約を結ぶといった法律行為を行う制度のことです。この制度を利用すれば、契約を結ぶだけでなく、本人が不利益な契約を結んでしまった場合に取り消すことも可能です。また、認知症が進行し、遺産分割協議をすることが難しい相続人がいる場合には、この制度を利用することで相続手続きが進められます。

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。法定後見制度とは、本人の代わりに家庭裁判所が法定後見人を選ぶ制度のことです。一方、任意後見制度とは、本人が意思能力を有する間に、将来自分の意思能力が十分でなくなった場合に備えて成年後見人を選んでおく制度を指します。

法定後見人として認められるのは、親族や司法書士、弁護士、社会福祉士などで、職業や経歴、本人との利害関係などをもとに裁判所によって選ばれます。未成年や破産者、本人に対して訴訟を起こしたことのある人などは法定後見人として認められません。また、親族間で争いがあったり、本人の遺産を使い込んでしまう恐れがあったりすると、親族であっても法定後見人に選ばれない場合もあります。このような場合、不服申し立てはできない点に注意しましょう。

成年後見制度は本人の利益保護を目的とした制度であり、不動産売却の場合は、本人に家を売る必要性があれば利用できます。そのため、売却額を安くし過ぎたり、成年後見人の私利私欲のために売却益を用いたりしてはならない点に注意しましょう。また、この制度を利用して売却する場合は、居住用と非居住用で手続きが異なり、居住用の不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要です。

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法定後見制度にかかる費用

法定後見制度を利用する際は、家庭裁判所に申し立てを行う際にかかる費用と、法定後見人に請求された場合に支払う報酬が発生します。ここでは、それらの費用について詳しく見ていきましょう。

申し立て時にかかる費用
申し立てを行う際にかかる費用は以下の通りです。

費用金額
申し立て手数料800円
登記手数料2,600円
郵送料約数千円
鑑定料10万~20万円

鑑定料は本人の意思能力を確認するために鑑定が必要な場合、発生する費用です。鑑定は、一般的に数週間~2か月程度で結果を得られます。

法定後見人に支払う費用
後見人から報酬の請求があった場合、家庭裁判所の判断によっては、報酬を支払う必要が生じることもあります。こういった場合、本人の財産から一定の報酬を支払うことが多いでしょう。家庭裁判所が公表している「成年後見人等の報酬額のめやす」では、基本報酬は月額2~6万円ほどとされています。

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法定後見制度のメリットと注意点

ここまで法定後見制度の概要についてご紹介してきましたが、ここからは制度のメリットと注意点について解説していきます。認知症の親が所有する不動産を売却したいと考えている方は、参考にしてくださいね。

メリット

法定後見制度のメリットについては以下の通りです。

重度の認知症の親に代わって不動産を売却できる
先ほどお伝えした通り、重度の認知症患者の場合は、法定後見制度を利用するほかに本人以外が不動産を売却できる方法がありません。そのため、親の介護でまとまった費用が必要な場合や、介護施設への入居によって家を売却したい場合にはこの制度を利用するとよいでしょう。

親が存命のうちに不動産売却を行うことができる
生前売却を行えば、固定資産税や都市計画税などの税金や不動産の維持管理費用による負担を軽減できる場合があります。

本人が行った不利益な契約を無効化できる
悪徳商法や詐欺などの不当な勧誘で、本人が不利益な契約を結んでしまった場合も、法定後見人が解除できます。この不利益な契約の無効化は、任意後見制度や後述する家族信託の制度では行えないので、法定後見制度ならではのメリットといえるでしょう。

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注意点

法定後見制度の注意点は以下の通りです。

・家庭裁判所に申し立てを行わなければならない
・家庭裁判所が後見人に親族を選ばない可能性がある
・法定後見人が選ばれるまでに時間がかかる
・法定後見人が親族ではなく、専門家になった場合には親が亡くなるまで報酬を支払わなければならない
・家庭裁判所に不動産売却を認められない場合がある

法定後見人はあくまで意思能力が十分でない人の財産管理をするのが目的なので、正当な理由がなければ、不動産売却が認められない場合があります。このような事態を防ぐためには、なぜ不動産売却を行いたいのかの理由を明確化し、売却が本人にどのような利益をもたらすのかを証明できるようにしておきましょう。

判断能力がある場合には家族信託を

親の認知症が軽度であり、意思能力が十分にある場合には、認知症が進行した場合への対策として家族信託が有効です。ここでは、家族信託のメリットや注意点を併せて解説していきます。

家族信託とは?

家族信託とは、自分の老後に備えて、信頼できる家族に自身の所有する財産の管理や運用を任せる制度です。家族信託を利用すれば、親の認知症が進行または発症してしまった場合でも、資産が動かせなくなるという心配がありません。そのため、老後に認知症になってしまうリスクに備えて家族信託を利用する人が増えています。

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家族信託のメリット

家族信託を利用するメリットは以下の通りです。

ランニングコストをかけずに済む
ランニングコストがかからないことは、家族信託の大きなメリットです。この制度では家族間で信託契約を結ぶため、法定後見制度のように後見人となる専門家に報酬を支払う必要がありません。

財産の管理方法が柔軟である
家族信託では、契約時に定めた信託目的の範囲内であれば、財産の管理方法を柔軟に検討することができます。たとえば、親が不動産を積極的に活用することを望んでいた場合、その趣旨が契約で定めてあれば、売却するだけでなく賃貸経営をすることも可能です。

ほかにも、家庭裁判所に申し立てを行わずに済む、親が亡くなる前に不動産売却ができるといったメリットが挙げられます。

家族信託の注意点

家族信託にはメリットもありますが、以下のような注意点をきちんと把握してから検討するようにしましょう。

信託契約時に費用がかかる
不動産を信託財産に入れる場合、不動産の名義を変更する必要があるため、名義変更にかかる税金として登録免許税が課されます。また、信託した金銭を管理するために正式な信託口座を金融機関で開設する際に公正証書の作成が必要です。これらの名義変更や書類作成の手続きを司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合には、別途報酬が発生します。

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受託者を決めるのに親族間で争う可能性がある
受託者とは、信託契約を結んだ際に財産の管理や運用を任される人です。受託者を決める際に親族間で争いになるケースもあるため、トラブルに発展しないよう、落ち着いた話し合いを心がけましょう。

相談できる専門家が少ない
家族信託はまだ新しい制度であるため、相談できる専門家が少ないという現状があります。しかし、特有の税金や法的解釈が必要となるなど複雑な手続きが多いため、なるべく実績のある専門家に依頼するのが望ましいでしょう。

三井のリハウスシニアデザイングループでは、不動産取引を円滑に進めるために、ここまでご紹介した成年後見制度や家族信託のコンサルティングをはじめとした、認知症対策サポートのサービスを行っています。お困りの方はぜひ一度お問い合わせください。

法定後見制度を利用した不動産売却の流れ

ここからは、法定後見制度を利用した場合の不動産売却の流れについて解説していきます。不動産売却の流れをあらかじめ把握し、よりスムーズな売却につなげましょう。

[ 1 ] 家庭裁判所に申し立てを行う

事前に必要な書類や費用を準備し、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に成年後見制度開始の審判の申し立てを行います。申し立てを行う人は、本人のほかに配偶者、四親等内の親族、検察官なども可能です。より詳しい手続き方法については、裁判所のホームページで確認できます。また、管轄の家庭裁判所も以下のサイトから調べられるので参考にしてください。

[ 2 ] 家庭裁判所が審理を行う

申し立て後は、家庭裁判所によって、法定後見制度を利用してよいかどうかの審理を行います。この際、裁判所の職員が本人や後見人候補者、申立人にヒアリングをし、必要と判断された場合には医師が本人の意思能力を鑑定します。

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[ 3 ] 法定後見人が選ばれる

家庭裁判所が法定後見人に最も適した人を選任します。選任までは、申し立てから2か月ほどかかることが一般的です。場合によっては親族でなく、司法書士や弁護士などが法定後見人に選ばれることもあります。その場合、報酬費用が発生する可能性もあるので注意しましょう。

[ 4 ] 査定を受け、媒介契約を結ぶ

法定後見人が選ばれた後の流れは、通常の不動産売却と同様です。まずは査定を受け、その後信頼できる不動産会社と媒介契約を結びます。信頼できる不動産会社は、担当者の対応が親切か、査定額に対する根拠が明確かなどを見て選ぶようにしましょう。三井のリハウスでは、累計取引件数100万件以上の実績に基づいた査定を行っていますので売却を検討する際は、ぜひご利用ください。

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[ 5 ] 居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る

売却する不動産が本人の居住用不動産の場合は、家庭裁判所の許可を得る必要があります。許可を受けずに売買契約を結んだ場合は無効となるので、注意しましょう。許可を申請するのに必要な書類は以下の通りです。

・申立書
・全部事項証明書
・固定資産評価証明書
・売買契約書の案
・査定書

なお、非居住用の不動産を売却する際は、家庭裁判所の許可は不要ですが、医療費や施設入居費の確保といった正当な理由が必要になります。

[ 6 ] 売買契約を結ぶ

家庭裁判所の許可が下りたら、法定後見人が本人の代理として買主と売買契約を結びます。売買契約は売主と買主、仲介している不動産会社が集まって行い、重要事項説明書の読み合わせを行った後に署名・押印をし、手付金の受領で完了となります。

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[ 7 ] 決済・引渡しを行う

引渡し当日は、残代金受領・固定資産税などの清算を行い、登記申請の手続きをします。引渡しと決済は同日に行われることが多く、買主に物件引渡しを行ったら売却は終了です。

認知症の親の不動産売却で困ったらプロに相談を

認知症の親が所有する不動産を売却したい場合、売却方法は認知症の進行具合によって限られます。そこで、状況に応じた売却方法をあらかじめ知っておくと、いざというとき売却方法をスムーズに選択できますよ。重度の認知症で意思能力がないと見なされた場合には法定後見制度を利用する必要があるため、認知症を発症する前の判断能力があるうちから家族信託を契約して認知症に備えておくことがおすすめです。

法定後見制度では、用意しなければならない必要書類が多く、専門的な知識が必要とされる場面が多々あります。そこで、専門家や、認知症のご家族を持つ方向けに売却のサポートを行っている不動産会社に相談するのがおすすめです。

家族信託の場合、家族間で信託契約を結ぶため、受託者へ報酬を支払ったり、家庭裁判所に申し立てを行ったりする必要はありません。しかし、手続きが複雑であり、相談できる専門家が少ないという注意点があります。そこで、家族信託を検討する際は、実績のある専門家を見極めることが大切です。

三井のリハウスシニアデザイングループでは、認知症の親の不動産を売却したいと悩んでいる方に向けて、成年後見制度の利用、家族信託の組成のコンサルティングといった認知症対策サポートを行っています。法定後見制度、家族信託のどちらについても相談可能ですので売却でお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。

柴田剛

弁護士法人ASK川崎所属。弁護士。
交通事故、相続、債務整理などのいわゆるマチ弁業務のほか、スポーツ法務にも注力している。
https://www.s-dori-law.com/