遺産整理とは?手順と注意点、専門家に依頼する際のポイントを解説

遺産整理は、遺言の有無や遺産の確認などから始まり、分割方法を決めて分割をし、相続税を納めるまでの一連の流れを指します。遺産のなかに不動産がある場合は、登記の変更もしなくてはいけません。今回は、遺産整理の流れや承認方法などについてお伝えします。

目次
  1. 遺産整理とは?
  2. 遺産整理の手順
  3. 遺産の内容に応じた3つの相続方法
  4. 専門家への相談で遺産整理をスムーズに!
  5. 遺産整理する際の注意点
  6. トラブルのない遺産相続のために
記事カテゴリ 相続 シニア
2022.12.26

遺産整理とは?

親が亡くなると、葬儀の手配をはじめ、やらなくてはならないことが出てきます。そのうちの1つが遺産整理です。遺産整理とは、亡くなった人(被相続人)がどんな財産を残したのか、その全てを調べ、財産を相続人の間で分配し、必要に応じて確定申告を行って相続税を納めるといった、遺産相続の手続き全般を指します。

遺産整理を行うなかで、分配の仕方でトラブルになるケースや、書類の提出期限に遅れてしまうといったケースがあります。また、遺産整理の手続きのなかには知識がないと対応が難しいものもあるため、弁護士・司法書士・行政書士・税理士などの専門家への依頼を検討するとよいでしょう。とはいえ、たとえ専門家に任せるとしても、相続をスムーズに進めるには遺産整理についての知識を持っておくことは重要です。

今回は、遺産整理の手順や損をしないためのポイント、さらに遺産整理の依頼先などについて解説します。

●親が亡くなったときにするべきことに関する記事はこちら
親が亡くなったら何をすればよい?遺族の手続きTODOリスト

遺言書

遺産整理の手順

遺産整理を行う場合、具体的にどんな作業が必要になるのでしょうか?遺産整理の手順を見ていきましょう。

[ 1 ] 遺言書の有無をチェックする

まず、遺言書の有無を確認します。遺言書には「自筆証書遺言書」「公正証書遺言書」「秘密証書遺言書」の3種類があります。

自筆証書遺言書は、財産目録以外の遺言を自筆で書く遺言書です。自筆証書遺言書は基本的に被相続人が自ら保管します。2020年からは、紛失を防止するために、法務局でも保管できるようになっています。

公正証書遺言書は、法律の専門家である公証人によって本人の意向を聞きながら、公証役場で作成されるもので、公証役場で保管します。そのため、全国どこの公証役場でも、被相続人の公正証書遺言書の有無とその内容を調べることができます。

秘密証書遺言書とは、公証人と2人以上の証人に、遺言書の存在を証明してもらいながら、本人以外は内容を見ることができない遺言書のことです。秘密証書遺言書は、公証役場に作成の記録が残りますが、基本的に本人が保管します。

自筆証書遺言書や秘密証書遺言書など、被相続人自身が保管する遺言書の場合、本人が遺言書をどこに保管したのか分からないこともあるため、被相続人が遺言書を残していないかどうか、普段から大切なものを保管していたような場所を探して、その存在の有無を見つける必要があります。

なお、自筆証書遺言書と秘密証書遺言書の場合は、開封の際に家庭裁判所での手続きが必要です。もし、相続人が勝手に開封してしまうと、5万円以下の過料が課せられるため、注意しましょう。

家系図

[ 2 ] 相続人を調べる

遺言書がある場合は、被相続人の遺言書の内容に沿って、遺産分割(遺産を分け合うこと)します。遺言書がない場合、あるいは遺言書の内容とは別の分け方にしたい場合は、「遺産分割協議」を開くことになります。遺産分割協議とは、被相続人の財産を相続人全員でどう分割するかを話し合うことを意味します。

遺産分割協議を開く際は、誰が相続人になるのかを前もって調べる必要があります。民法では、相続の権利を有する人を「法定相続人」として定めており、被相続人の親族が法定相続人になります。遺産分割協議を開く際、法定相続人が1人でも欠けていると、協議内容は無効になるため、全ての法定相続人に連絡を取る必要があるのです。

法定相続人を確定させるには、被相続人の死亡から出生までの連続した戸籍謄本を取り寄せ、法定相続人を調べます。

なお、民法では法定相続人に相続の優先順位を定めています。常に相続人になるのは、被相続人に最も近い配偶者です。そのうえで、第1順位は被相続人の子どもとなります。実子のほか養子や、認知した子、胎児も対象になります。第2順位は、被相続人の直系尊属である父母または祖父母、そして第3順位は、被相続人の兄弟姉妹となります。

[ 3 ] 相続財産を洗い出す

遺産相続を進めるにあたっては、被相続人の保有財産について、くまなく把握することが必要です。不動産・預貯金・有価証券・金銭債権・貴金属・自動車などが保有財産として見なされます。なお、借金や税金などのマイナスの財産も同様に相続の対象になります。

遺産分割協議書

[ 4 ] 遺産分割協議書を作成する

相続人や相続財産が確定したら、必要に応じて遺産分割協議を開き、相続人同士で相続財産の分割方法について話し合います。その際、相続人全員の合意が必要です。合意を得たら、書類を作成し、相続人全員で署名・押印します。

もし合意に至らなかったときは、調停申立書を作成し、「遺産分割調停」を家庭裁判所に申し立てましょう。遺産分割調停は家庭裁判所で行われ、調停委員が相続人の間に立ち、話し合いを進めていきます。調停が成立すれば、調停調書が作成され、その内容に沿って、相続の手続きを進めます。

調停が不成立の場合は、自動的に「遺産分割審判」へ移行し、家庭裁判所で各相続人が主張や立証を行います。それに基づいて裁判所が「審判」を行い、審判が確定すればそれに沿って名義変更の相続手続きを進めることになります。

[ 5 ] 名義変更手続きを行う

不動産を相続する際は、相続登記をする必要があります。相続登記とは、不動産の名義を被相続人から相続人へと変更することです。この登記を済ませない限り、不動産の所有名義は被相続人のままとなります。遺産分割協議が進まなかったり、相続登記を放置して権利関係を曖昧にしていると、将来その不動産を売却したいときや、自分が死亡した後さらに相続が発生するときなどにトラブルが起きる可能性もあるため、相続登記は早めに済ませましょう。なお、相続登記は2024年から義務化されるため、今から登記を行っておくことをおすすめします。

相続登記に必要な書類は以下の通りです。

・被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・相続人全員の印鑑証明書
・相続人全員の住民票
・不動産の固定資産評価証明書
・不動産の全部事項証明書
・遺言書、または遺産分割協議書

遺産分割協議がまとまらなかったり、相続人が多数に及んだりしていると、相続登記をするのもなかなか大変な作業であるうえに時間もかかります。自分で手続きするのが不安な場合は、司法書士や弁護士などに手続きを一任することを検討するとよいでしょう。

[ 6 ] 相続税を申告する

遺産整理では、相続税の納税が必要になる場合があります。相続税の支払いが発生するのは、相続した財産の総額(葬儀費用や負債を差し引いた総額)が基礎控除額を上回る場合です。逆に、相続財産の総額が基礎控除額を超えなければ、相続税の申告や納税は必要ありません。

相続税の基礎控除額は、以下の計算式を用いて計算します。

相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

なお、基礎控除額のほかにも、土地の評価額を下げる特例や、配偶者控除といった特例もあります。相続財産の総額が基礎控除額を超える場合でも、特例を利用することで、納税の必要がなくなる場合があります。

●相続税の基礎控除に関する記事はこちら
相続税の基礎控除とは?計算方法と課税の目安をご紹介!

遺産の内容に応じた3つの相続方法

ここまでは、遺産整理の手順について説明してきましたが、ここからは、相続方法について見ていきましょう。相続には、3種類の選択肢があり、選択を誤ると借金を抱える恐れもあるため、注意が必要です。相続するときは、3種類のなかから、遺産の内容に適した方法を選択することが重要になります。

遺言書、財産目録、家と車の模型

単純承認

単純承認は、被相続人の相続財産を全て引き継ぐ相続方法です。マイナスの財産も継承するため、マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、借金を背負うことになります。その際には、相続した借金返済のために、自分の財産を持ち出すことになるので、注意が必要です。
被相続人に多額の借金があった場合や、連帯保証人になっていた場合は、慎重に判断するようにしましょう。

なお、単純承認には特別な手続きは必要ありません。決められた期間内に、次に説明する限定承認、あるいは相続放棄する意志を家庭裁判所に申述しない場合は、単純承認したものと見なされます。

限定承認

限定承認は、プラスの相続財産の範囲内でマイナスの相続財産も引き継ぐ相続方法です。
相続したマイナスの財産(債務)をプラスの財産で清算します。それでも債務が残った場合、残債を相続人が返済する義務は発生しません。逆に、清算後に残った財産がプラスの場合は、相続人の財産となります。負債があっても、どうしても手元に残しておきたい不動産があるときや、被相続人の資産の状況が把握しきれていない場合などにはメリットがあるといえるでしょう。

限定承認にする場合は、裁判所に申し出をし、認めてもらう必要があります。期間は被相続人の死亡後(相続があったことを知ってから)3か月以内です。

限定承認は、財産や借金の調査のためにかなりの時間と手間がかかることは覚えておきましょう。また、相続人全員の同意を得て手続きを行う必要があるため、ほかの相続人のなかの誰か1人でも同意が得られない場合は、限定承認を行うことはできません。

相続放棄

プラスの財産も、マイナスの財産も、全ての財産の相続権を放棄する方法です。マイナスの財産が大きいときに選択するとよいでしょう。限定承認とは異なり、ほかの相続人の許可がなくても放棄できるため、ほかの相続人との連携が面倒な人にも有効な手段です。相続放棄する場合も、3か月以内に裁判所に申し出て、認めてもらうことが必要になります。

専門家への相談で遺産整理をスムーズに!

遺産整理は煩雑なうえに手続きも多いため、場合によってはトラブルが起こり、その対応に追われるケースもあります。自分の力で手続きができるかどうか不安な場合は、相続の専門家である弁護士・司法書士・行政書士・税理士などへ依頼することをおすすめします。

また、それぞれの専門家へ依頼する際に発生する費用は、各専門家で異なります。そのため、依頼する際には、最初の相談段階で費用について確かめておくようにしましょう。

ここからは、どんな手続きをどんな専門家に依頼したらよいのか、各専門家の業務内容について具体的に見ていきましょう。

弁護士

弁護士

遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判に唯一対応できるのが、弁護士です。弁護士に依頼できる内容は、一般的には以下の通りです。

・遺言書の作成
・遺言書の検認手続き
・遺産分割の内容の協議
・遺産分割協議書の作成
・相続放棄の手続き
・相続人と相続財産の調査
・不動産の名義変更(基本的には司法書士が対応)
・預貯金・株式の名義変更
・相続トラブルの対応など

弁護士は大半の相続手続きができるため、相続手続き全般を依頼したい場合や、相続トラブルが起きているときは弁護士へ問い合わせるとよいでしょう。

司法書士

相続登記を一任できるのが、司法書士です。司法書士に依頼すると、大半の相続手続きが完了します。司法書士に依頼できる内容は、以下の通りです。

・遺言書の作成
・遺言書の検認手続き(書類作成の代行のみ)
・遺産分割協議書の作成
・相続放棄の手続き(書類作成の代行のみ)
・相続人と相続財産の調査
・不動産の名義変更など

相続に関してトラブルがない場合、特に不動産相続の際には、司法書士に依頼するとよいでしょう。

行政書士

行政書士

行政書士に依頼すれば、書類の対応を一任できます。お願いできるものとしては主に以下の書類作成になります。

・遺言書の作成
・遺産分割協議書の作成
・相続人や相続財産の調査など

必要書類がそろえば、自力で相続手続きを進められる場合や、部分的に力を借りることで、なるべく依頼費用を抑えたい場合は、行政書士に依頼するとよいでしょう。

税理士

相続税に関する手続きに唯一対応できるのが、税理士です。相続人と相続財産の調査、そして相続税の申告などを依頼できます。相続税が発生するか分からない人、相続税の相談をしたい人は税理士に相談するとよいでしょう。

信託銀行

信託銀行でも相続手続きを行っています。実際は、信託銀行が各士業へ外注します。信託銀行では相続財産の活用方法についてアドバイスしてくれるのが特徴です。相続財産の活用方法について知りたい場合に向いているといえるでしょう。

遺産整理する際の注意点

遺産整理をする際、法定相続の基準を目安にすること、そして各手続きに遅れないことが重要になります。ここからは、遺産整理する際の注意点について見ていきましょう。

法定相続分を目安にする

遺産を分割する際、一般的に「法定相続分」を目安にして分割します。遺産相続の場合、複数の相続人の、どの立場の人が財産をどのくらいの割合で相続できるのか、それぞれの取り分が法律で定められており、これを法定相続分といいます。

なお、法定相続分は、相続人の置かれている状況によっても割合が異なってきます。主な状況ごとの割合について、具体的に見ていきましょう。

配偶者の法定相続人の法定相続分は以下となります。

相続人の状況

配偶者の法定相続分

配偶者のみの場合

全ての財産

配偶者と第1順位の法定相続人がいる場合

財産の1/2

配偶者と第2順位の法定相続人がいる場合

財産の2/3

配偶者と第3順位の法定相続人がいる場合

財産の3/4

第1順位(子ども)の法定相続分は以下となります。その子どもが既に死亡しているときは、その子どもの直系卑属(子どもや孫など)が相続人となります。子どもも孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子どものほうを優先します。

相続人の状況

第1順位の法定相続分

配偶者と第1順位の法定相続人がいる場合

財産の1/2
ただし第1順位の相続人が複数いる場合は1/2を均等に分割

第1順位の法定相続人のみの場合

財産の全て
ただし第1順位の相続人が複数いる場合は均等に分割

続いて、第2順位(父母や祖父母)の法定相続分は以下となります。

相続人の状況

第2順位の法定相続分

配偶者と第2順位の法定相続人がいる場合

財産の1/3
ただし第2順位の相続人が複数いる場合は1/3を均等に分割

第2順位の法定相続人のみの場合

財産の全て
ただし第2順位の相続人が複数いる場合は均等に分割

第3順位(兄弟姉妹)の法定相続分は以下の通りです。

相続人の状況

第3順位の法定相続分

配偶者と第3順位の法定相続人がいる場合

財産の1/4
ただし第3順位の相続人が複数いる場合は1/4を均等に分割

第3順位の法定相続人のみの場合

財産の全て
ただし第3順位の相続人が複数いる場合は均等に分割

以上の分割は、法定相続の場合です。遺産分割協議を行った場合は、上記の法定相続分に従う必要はありません。相続人全員の合意があれば、遺産を自由な割合で分割することが可能です。

なお、身内のなかでも相続権がない人もいます。内縁の配偶者や離婚した元配偶者には相続権はなく、また再婚した相手の連れ子は養子縁組をしない限り相続権はありません。相続権があるかどうか、判断に迷う場合は、専門家に尋ねることをおすすめします。

相続税申告書

手続きの期限を守る

遺産整理の手続きはたくさんあり、期限に遅れると、お金を支払わなければならないこともあるため、注意が必要です。各種手続きの期限は以下の通りです。

相続開始から1週間以内
死亡届の提出は1週間以内に行います。死亡診断書と印鑑を準備して、以下のいずれかの場所に届け出ましょう。

・死亡地の市区町村役所または役場
・死亡者の本籍地の市区町村役所または役場
・届出人の住所地(所在地)の市区町村役所または役場

相続開始から3か月以内
相続放棄と限定承認の選択は3か月以内に行います。手続きしない場合は単純承認となります。ただし、家庭裁判所に資料を用意して申し立てると、期限を延長することもできます。

相続から4か月以内
被相続人が確定申告しなければならない場合は、4か月以内に準確定申告を行う必要があります。準確定申告とは、被相続人の代わりに確定申告をすることを意味します。期限内に手続きを行わないと、加算税が課せられるため、期限内に済ませましょう。

相続開始から10か月以内
相続税の申告・納付は10か月以内に行います。手続きを期限内に行わなかったり、申告の内容に誤りがあったりすると、延滞税や加算税が課せられるため、早めに正確に済ませることが必要です。

なお、遺産分割協議が長引く場合は、未分割の状態で申告と納付を済ませて、分割が終わった後に、修正申告と更生請求を行います。

相続開始から1年以内
遺留分侵害額請求は1年以内に行います。遺留分とは、法律上取得が保証されている相続財産のことです。たとえば、遺言書で遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額請求を行使して、遺留分を請求することができます。

●遺留分に関する記事はこちら
遺留分とは?計算方法や請求方法を解説!

トラブルのない遺産相続のために

親が高齢の場合、いつ相続が起こってもおかしくはありません。相続が発生したとき、対処に迷わないように、正確な知識を持っておくことが大切です。当記事でご紹介したように、法定相続人の範囲や相続の流れなど、基本的な知識があると、相続争いのようなトラブルを予防することができることでしょう。

遺産整理は、手順や必要書類、注意するべきことが多いため、自分1人で解決しようとせず、専門家に頼るのも、スムーズに遺産相続を進めるうえで大切です。ぜひ専門家への相談も検討しながら、トラブルのない相続を実現してくださいね。

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伊藤諭

弁護士法人ASK市役所通り法律事務所代表。弁護士。
地元に根ざした幅広い業務を行い、企業法務や交通事故、相続などを注力分野としている。
多数の講演実績のほか、ネットニュースの監修やメディア出演も行う。
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