親の介護のためのお金がない…役立つ制度と費用軽減のコツをご紹介

親の介護にかかる費用は、月額平均8.3万円、介護期間は5年1か月が平均とされています。介護のお金がないときには、公的制度の利用や、所有している不動産を活用した資金調達を検討するとよいでしょう。今回は、どのような公的制度があるのか、どのように不動産を活用すればよいのかをご紹介します。

目次
  1. 親の介護をするお金がない…
  2. 介護にかかるお金の目安は?
  3. 介護費用がない場合に役立つ制度
  4. 費用の捻出のために不動産を活用する方法も!
  5. 介護費用を抑えるコツは?
  6. 早めの相談で不安を解決しましょう!
2022.11.24

親の介護をするお金がない…

高齢の親を持つ子世代の人のなかには、「介護費用は親の貯蓄で賄えるのだろうか」「将来親の介護のために今からできることはあるのか」など、親の将来のことが気になるという人も多いのではないでしょうか?

これまで親の介護について意識的に調べていなければ、介護費用にどのくらいかかるのかが分からなかったり、そもそも親の介護に充てるお金を用意していなかったり、ということも起こるでしょう。

そこで今回は、介護には具体的にどのくらいお金がかかるのか、費用を捻出できない場合にはどのような対策を取ればよいのかを紹介していきます。介護について早めに知識を蓄えておくことで、漠然とした将来への不安の払拭につながりますよ。

高齢夫婦と女性

介護にかかるお金の目安は?

「介護には多額の資金がかかりそう…」と思っても、介護を経験したことがない人にとって、その具体的な金額をイメージするのは難しいでしょう。まずは、介護保険の法的な仕組みや、介護費用の平均的な予算について知り、ある程度の見通しを立ててみましょう。

介護費用の平均は月8.3万円

生命保険文化センターが行った調査※1によると2021(令和3)年度に介護のために使った費用は、月額平均8.3万円で、介護期間の平均は、5年1か月となっています。この数値から介護期間にトータルでかかる費用を計算すると、

月額平均費用(=8万3,000円)×期間(61か月)=506万3,000円

となり、かなり高額になることが分かります。また、1人あたりの介護費用がこの出費であることを考えると、両親2人を介護する場合、単純計算で2倍の1,012万6,000円と、介護にかかる金額はさらに大きくなります。

実際の費用には個人差がある

ここまで紹介した介護費用はあくまでも平均額で、実際の費用は、個人差があります。ここでは、どのような部分で個人差が出るのか、どのくらいの費用が必要となるのかを具体的に見ていきましょう。

介護期間
介護期間が長ければ長いほど、必要となる費用は多くなります。上記の同調査によると、介護期間は4〜10年未満が3割強と最も多く、次いで2割弱が10年以上となっています。前述のように平均値は5年1か月です。

介護体制
施設に入居するのか、在宅で介護をするのかによって、かかる費用の種類や大きさは変わります。

施設に入居して生活をする場合は、施設の種類や受けるサービスによって、費用は変化します。施設には民営と公営があり、そのなかでも複数の種類があります。民営の有料老人ホームでは、数千万円の入居一時金が必要になる場合もあるでしょう。

●老人ホームの費用に関する記事はこちら
老人ホームにかかる費用を解説

介護施設に入居せず、自宅で介護を行う在宅介護の場合は、介護施設を利用する際に支払うサービス料や入居一時金は必要ありません。しかし、場合によっては家をリフォームしたり、介護用品を購入したりと一時的な費用が必要になります。なお、在宅介護をするためにかかる一時的な費用の平均額は、74万円とされています。

所得
所得によってもかかる費用は異なります。介護にかかる費用負担を減らせる「介護保険サービス」の自己負担額は1割となっていますが、一定以上の所得がある場合は、2割または3割の負担が必要となります。

●介護保険サービスに関する記事はこちら
介護サービスにはどんな種類がある?介護保険サービスの基本情報を解説

車いすに乗る女性と介護士

介護費用がない場合に役立つ制度

親の介護費用は、親自身の貯蓄で賄えるとよいのですが、実際には、親の貯蓄だけでは介護費用を捻出できない人もいるでしょう。このような場合は、まず利用できそうな公的制度を調べてみることをおすすめします。介護費用の負担を抑えるうえで役に立つ公的制度について、具体的に見ていきましょう。

高額介護サービス制度

高額介護サービス制度とは、1か月にかかった介護費保険サービスの自己負担額合計のうち、限度額を超えた分を払い戻してくれる制度です。

収入に対する具体的な限度額の内訳は以下の表の通りです。※2

収入負担限度額
年収約1,160万円以上世帯14万100円
年収約770万円以上1,160万円未満世帯9万3,000円
年収約770万円未満の住民税課税世帯4万4,400円
住民税非課税世帯
(前年の公的年金等収入金額+そのほかの合計所得金額の合計が80万円以下の場合)
2万4,600円
(2万4,600円世帯)(1万5,000円個人)
生活保護受給者世帯1万5,000円

年収770万円未満の世帯の場合、負担上限額は4万4,000円です。現状、負担限度額以上に介護費用を負担している場合には、超過分の払い戻しを受けられる可能性があるので、一度近くの自治体窓口に確認してみましょう。

高額医療・高額介護合算療養費制度

この制度は、医療保険と介護保険における1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)の自己負担の合算額が高額な場合に、限度額を超えた分が払い戻される制度です。家計に対し、医療費や介護費用の自己負担が膨らみ困窮しないよう設けられています。

詳しくは各都道府県や市のホームぺージを確認するとよいでしょう。

特定入所者介護サービス費

所得の低い人を対象に、介護サービスの負担を軽減するために設けられたのが「特定入所者介護サービス費」です。介護保険施設に入所したり、ショートステイを利用した際に所得や資産が一定以下である場合、負担限度額を超えた分の居住費・食費が介護保険から支給されます。給付を受けるためには、負担限度額認定を受ける必要があるため、まずは、該当する市区町村に問い合わせてみましょう。なお、申請して負担額の減額認定の許可が得られた人には、「介護保険負担限度額認定証」が交付されます。

生活福祉資金貸付制度

「生活福祉資金貸付制度」は、高齢者世帯、低所得者世帯、障害者世帯を対象にした融資制度です。高齢者をはじめ、所得が少ない人、障害を持った人など生活困窮者の経済的なサポートや自立支援をすることを目的としています。ただし、この制度は貸し付けであるため、借り入れた額については返済が必要です。なお、連帯保証人を立てる場合は無利子、連帯保証人を立てない場合は低利子(1.5%)で融資を受けることができます。

これまで紹介した制度のほかにも、自治体が独自に助成制度を設けている場合があるため、気になる人は各都道府県や市町村に問い合わせてみましょう。

ミニチュアのシニア夫婦と家

費用の捻出のために不動産を活用する方法も!

親の介護費用を捻出するためには、手持ちの不動産を利用する方法もあります。具体的に見ていきましょう。

親の家を売却

親の家を売却して費用を捻出する方法です。この方法は、介護をきっかけに子世帯と同居をする場合や、親が施設に入るため実家が空き家になってしまう場合に有力な選択肢の1つとなります。

誰も住んでいない家であっても所有権がある限り、固定資産税や都市計画税は毎年負担しなければなりません。また、家を空き家にしておくと、不審者の侵入や放火などの被害に遭う恐れがあり、防犯面でも懸念は高まります。

思い切って親の家を売却すれば、維持費がかからなくなるばかりか、売却額によって介護費を捻出できる可能性があります。ただし、売却してしまうと不動産という大きな資産が1つなくなるため、実家がなくなってよいか、所有者本人の意見を尊重しながら事前に話し合う必要があるでしょう。

リースバック

「リースバック」とは、住んでいる家を売却したうえで、その家を購入した買主と賃貸契約を結び、そのままもとの家に住み続けるという方法です。住んでいる家を売却することで、最初にまとまった資金は得られますが、リース(賃貸)の契約をすることで自宅に住み続けることになるので、毎月家賃を払い続けることになります。

リースバックのメリットとしては、まとまった資金を手にしながら売却後も自宅に住み続けられる点が挙げられます。物件の利用形態が「所有」から「賃貸」になるだけなので、ライフスタイルが大きく変わらずに済みます。

もう1つのメリットは、短期間で売却できる点です。リースバックでは、直接不動産会社に買主となってもらうケースが多いので、一般的な家の売却のように購入希望者を募って内覧を行い、買い手が決まったら契約を結ぶという手間や時間がかかりません。そのため、短期間でまとまったお金を得ることができます。

ただし、リースバックを行うとこれまで住んでいた家が自己資産ではなくなるという点には注意が必要です。リースバックを行うことで、所有権は買主となった不動産会社に移るため、リフォームやリノベーションを買主の許可なく行うことはできなくなってしまいます。

また先述の通り、リースバックでは毎月家賃が発生し、家賃は、売却価格を基準に、周辺の賃貸相場から妥当性のある利回りによって決定されるのが一般的です。「売却価格が低かった割に家賃が高い」といったことも考えられるため、リースバックを選択する前に、家賃の支出を考慮した資金計画を立てることが望ましいでしょう。

●リースバックに関する記事はこちら
住まいのリースバックとは?メリットや注意すべきトラブル事例を解説

家の模型

リバースモーゲージ

リバースモーゲージは、自宅を担保にお金を借りられる制度で、老後資金を調達するシニア向けの方法を指します。具体的には、持ち家(マンション、戸建てを含む)を担保として、資金を借り入れし、借主が亡くなった際に担保である持ち家を処分することで、一括返済を行う方法です。

リバースモーゲージのメリットは、大きく分けて2つあり、そのうちの1つは、住み慣れた自宅に住み続けることができるということです。リバースモーゲージの場合は、ここまでもお伝えした通り、自宅を担保として金融機関から融資を受けることができるため、返済するまで自宅に住み続けることができます。

2つ目のメリットは、毎月の支払いは利息のみになるのが一般的ということです。住宅ローンの場合は、毎月、元本の返済を行っていく必要がありますが、リバースモーゲージの場合は、借主の死亡後に返済が行われるため、毎月の負担額を抑えられるといえるでしょう。

しかし注意すべき点もあります。それは、年齢や資金用途が設定されているという点です。リバースモーゲージは基本的にシニア向けのローンのため、利用できる年齢の下限は50〜60歳と設定されていることが一般的です。また、一般的に生活資金としての借り入れを目的としているため、投資や事業目的での借り入れを行うことはできません。

●リバースモーゲージに関する記事はこちら
リバースモーゲージとは?シニアのための資金調達方法を解説

●リースバックとリバースモーゲージ の違いに関する記事はこちら
住まいのリースバックとは?メリットや注意すべきトラブル事例を解説

介護費用を抑えるコツは?

介護費用を捻出するための方法をお伝えしてきましたが、そもそもの介護費用を抑えることができれば、金銭的なゆとりが生まれる可能性も高まります。そこで、介護費用を抑えるためのコツも併せて紹介します。

ケアマネジャーに相談する

利用している介護保険サービスを見直すことで、出費を抑えることができる場合があります。具体的にどうすればよいか自分では分からない場合は、介護のスペシャリストであるケアマネジャーに相談してみましょう。

ケアマネジャーは、介護を必要とする人が適切な介護保険サービスを受けられるように、ケアプランの作成を行っています。介護費用を抑えるために、ケアマネジャーに毎月支払える金額をベースに、ケアプランを作成してもらうというのも1つの方法です。ケアプランの見直しや相談はいつでも行ってもらえるので、気軽に問い合わせてみましょう。

●ケアマネジャーに関する記事はこちら
ケアマネジャーはどう選ぶ?業務内容から付き合い方のポイントまで解説!

シニア夫婦と話す女性

低額な施設を選ぶ

ここまでもお伝えした通り、介護施設も民営なのか、公営なのかによって費用は変わってきます。一般的には、民営より公営のほうが費用を抑えられるため、捻出できる介護費用に余裕のない人は、介護施設を公営の施設から検討するのがよいでしょう。

公営施設には、看取りの対応が可能な「特別養護老人ホーム」や自立した生活に不安を抱える人のための「軽費老人ホーム」などがあります。ただし入居には条件があり、希望者が多い施設では入居待ちになることも多いため、早くから動き出すことが重要です。

●介護施設の種類に関する記事はこちら
高齢者の介護施設にはどんな種類がある?それぞれの特徴をご紹介

早めの相談で不安を解決しましょう!

介護については、親の希望をできる限りくみ取りながら、子世代への負担を抑えた選択ができるように、家族で早めに話し合っておくと安心です。たとえば、費用負担について兄弟姉妹でどのように分担するのか、親が介護施設に入居した後は、持ち家をどうするのかなど、親が介護を必要とする前から相談しておくことが大切です。また、どんな介護施設を選べばよいのか、介護について何を行えばよいのか分からない人は、親の居住地を担当する地域包括支援センターに相談してみるのもよいでしょう。

三井のリハウスシニアデザイングループは、介護に際しての施設探しや住み替えに関する相談、離れて暮らしている親への見守りサポートなどに対応しています。気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか?分からないことや不安なことは早めに解決策を見つけておくことで、介護が必要となった際も的確な対処につながりますよ。

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シニアデザイン 人と住まいの、より良い明日のために

※1出典:「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」,公益財団法人生命保険文化センター
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html
(最終確認:22年10月4日)

※2 出典:「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」,厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf
(最終確認:22年10月4日)

三井不動産株式会社 ケアデザイン室

三井不動産グループが培ってきた住まいと不動産に関する総合力・専門性を生かし、豊かな老後を過ごすためのお手伝いをするとともに、福祉の専門職が豊富な経験に基づいたコンサルティングを通して高齢期のさまざまなお悩みにお応えしています。