相続でもめないために!今のうちにできる対策2つ

遺産の相続時の問題の1つに、身内間での争いがあります。今回は、もしものときに身内同士で争いが起こらないように、今のうちにしておきたい対策をご紹介します。ぜひ参考にしてみてくださいね。

目次
  1. 「そのとき」に備えて遺産相続トラブルを防ぐ
  2. [ 1 ] 遺言を作成する
  3. [ 2 ] 家族信託を活用する
  4. 早めの備えで大切な人を守ろう
記事カテゴリ 相続 老後の生活 シニア
2021.04.19

「そのとき」に備えて遺産相続トラブルを防ぐ

相続が発生する「そのとき」がくる前に、遺産をどうしたいのかという意思を明確にしておくことは大切です。本人の意思が分からないと、残された人たちはゼロから相続の話し合いを進めなければならなくなってしまうからです。

「遺産を等分できない」「分割の方法に折り合いが付かない」といった問題が長引くうち、何年も身内同士で争い続ける「争族」問題に発展してしまうこともあります。

今回は、このような相続トラブルから大切な人たちを守るため、今のうちにできる対策をご紹介します。次のうち、当てはまるところをご参照ください。

[ 1 ]財産の相続先を自分で指定したい人
[ 2 ]自分の認知症や、ハンディキャップのある家族の将来が心配な人

●そのほかの相続対策に関する記事はこちら

[ 1 ] 遺言を作成する

遺言とは、自分が亡くなった後に、自分の財産をどのように処理してほしいかを指示する文書です。エンディングノートと混同されやすいのですが、遺言は書いた内容に法的効力を持たせることができる点が大きな違いです。

遺言には、次の3種類があります。

・自筆証書遺言
遺言者が基本部分のすべてを自筆で作る遺言です。筆記用具と印鑑だけで作れて、最も簡単です。これまでは、全文を自筆で作る必要がありましたが、財産目録についてはワープロ打ちなどで作成することが可能になりました(全ての紙面に署名は必要)。法務局に保管を依頼する制度も始まり、紛失の可能性も少なくなりました。

・公正証書遺言
遺言者の下書きや申し伝えを、2人以上の証人立ち会いのもとで公証人が文書にする遺言です。プロが作成するので法的なミスが防げる一方、公証人の費用はかかります。

・秘密証書遺言
公証役場へ遺言を持参し、それが本人の遺言であるという証明を記録してもらうことで、偽造や改ざんを防げる方法です。ただし、2人以上の証人の同行、公証人への依頼が必要なうえ、保管は自分で行わなければなりません。手間が大きく、その割にメリットも少ないので、実務上ほとんど使われていません。

遺言のイメージ

遺言のメリット

遺言を作成することには、さまざまなメリットがあります。

どこにどのような財産があるのかを漏れなく伝えられる

そもそも、自分の財産にはどのようなものがあるのか、相続人には分からないケースがあります。そのようなときには、「財産目録」を遺言書に添付することで、分割漏れを防ぐことができます。

特に、近年では「デジタル遺産」と呼ばれる、ネット銀行を介した預貯金や証券などが増えてきています。しかし、ネット銀行には紙の通帳がないため、存在を誰にも伝えていないと相続人の発見が遅れやすいというリスクもあります。このような分かりにくい遺産も、遺言に記録しておくことで遺族への分割漏れを防ぐことができて安心です。

遺産を誰にどう振り分けるかをすべて指定できる

遺言には法的効力があり、本人の希望通りに遺産を振り分けることができます。遺言書による指定があれば、相続人は遺産分割協議をする手間が省けるうえ、それぞれが自分の主張を始めてもめごとに発展することも防げます。ちなみに、相続人には法定相続人(配偶者と血族)以外の人を指定することも可能です。

自分が亡くなった後の配偶者の暮らしが心配な人は、遺言書の中に「配偶者居住権」の設定をしておくとよいでしょう。配偶者居住権とは、亡くなった本人と同居していた配偶者が、その自宅に引き続き無償で住み続けられる権利のことです。

相続法では、相続人の種類によって相続分が定めています。そのため、配偶者が住む場所を確保するために自宅の所有権を相続すると、自宅以外の財産、特に預貯金を相続する配分が減ってしまい、その後の生活費に困るという問題がありました。

しかし、配偶者居住権を設定しておけば、自宅の権利を「居住権」と「所有権」に分けることができます。配偶者は自宅の「居住権」のみを得ることで、不動産として所有する財産の配分が減るので、その分預貯金を多く相続でき、かつ無償で住み続けることもできます。

手紙を書く女性

遺言の注意点

遺言を作成する際には、次のような点には注意しなければなりません。

不明瞭な書き方でトラブルになる

せっかくスムーズな相続のために遺言を作成しても、解釈が分かれるような不明瞭な書き方をすると、逆効果になってしまう場合があります。遺言者が亡くなった後では真意を確認することもできず、結局もめごとを引き起こしてしまうかもしれません。

すべてを自分で書く自筆遺言書ではこのようなことが起こりやすいので、心配な方は公正証書遺言を選ぶとよいでしょう。

遺留分に配慮する必要がある

有効な遺言を残しておけば、基本的に遺言のとおりの分配が実現されますが、一部の相続人については「遺留分」が認められます。遺留分とは、一定の相続人が一定割合の金銭の請求ができる権利のことを指します。相続人(配偶者と子、子がいない場合は父母や祖父母)には、この遺留分を請求する権利があります。

そのため、遺言で、遺留分の権利がある人に対してその権利を下回る相続分しか分配していないと、「遺留分の侵害」を巡ってトラブルが起こることも考えられます。たとえば、本人が遺言に「自分の全財産を長女のみに相続させる」と指定した場合、配偶者とほかの子は遺留分を請求し、当事者間で争いになってしまうかもしれません。

トラブルを避けるには、なぜこのような指定をするのかという理由や気持ちを「付言事項(ふげんじこう)」として一緒に記しておくとよいでしょう。

書式が守られずに無効化してしまうことがある

遺言には、署名、押印、日付の記入、訂正の方法など、法律で定められた書式があります。これらの書式が守られていないと、遺言は無効となってしまいます。最近では、手軽に書ける遺言セットが市販されていますが、費用がかかっても確実に作成したい方は、やはり公正証書遺言を選んでおくと安心です。

[ 2 ] 家族信託を活用する

家族信託とは、判断能力があるうちに信頼できる家族や親戚などに財産を託し、その管理を任せるという制度のことです。

認知症や重病に備えておきたい方や、自分に何かあったときに心配な家族がいる方には、おすすめの制度です。

家族信託のメリット

家族信託を行うことには、次のようなメリットがあります。

家族が財産を柔軟に管理できる

家族信託を行っておけば、いざというとき、受託者となった家族が権利を引き継いで、財産を柔軟に管理することができます。

財産は、本人の同意なしに他人が動かすことはできません。そのため、本人が認知症と診断されると、判断能力の低下を理由に、あらゆる契約行為ができなくなる「資産凍結」の状態になってしまいます。

しかし、あらかじめ家族信託を行っておくことで、本人が認知症になっても、本人の同意なしに住居を売却することが可能です。売却して資金ができれば、療養費に充てることもできるでしょう。また、賃貸マンションや駐車場などの「収益不動産」がある場合も、その管理運営を引き継ぐことができるので、賃料収入を急に使えなくなるリスクも防げます。

ハンディキャップがある家族のその後を守れる

家族信託は、ハンディキャップがある家族の暮らしを守るためにも利用できます。たとえば、障害のある長女を賃貸アパートの賃料で養っていた親が、アパートの運営を長男に信託してその収入を長女のために使ってもらう、といったことが可能です。

事業継承にも活用できる

親が経営する会社を子に引き継がせたい場合、家族信託で株式を託せば、その時点では生前贈与にならないので贈与税はかかりません。同時に、自社株の議決権は親自身が持っていられる「指図権」を設定するといった、柔軟な継承も可能です。

二次相続以降の指定もできる

家族信託では、信託財産の承継先を指定することができ、遺言に似た法的効果があります。

さらに、家族信託であれば、遺言ではできない「次の世代以降の相続」についても指定することが可能です。二次相続、それ以降の相続が発生した場合の遺産分割協議が不要になり、遺族の負担を減らすことができます。

家系図

家族信託の注意点

家族信託を利用する際には、次のような点に注意が必要です。

財産を使い込まれるおそれがある

家族信託の受託者は、財産を管理運用できる権利を得られます。そのため、受託者に財産を私的に使い込まれてしまうリスクには十分注意しなければなりません。

使い込みを防ぐには、誰を受託者にするか、受託者が信頼できる人物かどうかを、慎重に検討することが大切です。ほか、受託者を監視する「信託監督人」や、高齢者や未成年の受益者に代わって権利を行使する「受益者代理人」を立てることもできます。

損益通算ができない

家族信託の税務上の注意点は、損益通算が禁止されていることです。損益通算とは、所得の損失(赤字)をほかの所得から差し引くことをいいます。これによって、所得を抑えて節税することができるのですが、家族信託をした不動産から出た損失はなかったものとみなされ、別の信託財産の所得から差し引くことができません。

複数の収入源を持っている人の場合は、このようなリスクも踏まえながら家族信託を検討する必要があります。

判断能力がなくなったあとでは契約できない

本人が認知症や急病になった後では家族信託の契約をすることができないので、相談は元気なうちに行うことも大切なポイントです。

もし、子どもや孫のほうから家族信託の相談をされたときには「今から相続の話なんて…」と感情的にならず、一度前向きに検討してみるとよいでしょう。

●認知症対策に関する記事はこちら

早めの備えで大切な人を守ろう

相続が発生する「そのとき」は、いつやってくるか分かりません。だからこそ、財産の分け方は早めに決めておくことが大切です。本人の明確な意思表示があれば、家族や身近な人たちをもめごとから守ることができます。

また、今回ご紹介した「遺言を作成する」「家族信託を活用する」という2つの対策のほかに、財産を定期的に見直して整理しておくことも心がけましょう。たとえば、維持費ばかりかかっている空き家、持て余している土地などがある場合は、思い切って現金化すれば公平に分割しやすくなります。

ただし、その際は相続税に注意が必要です。相続財産の評価額を算出する際、現金は時価そのままの評価額になりますが、不動産は取引価格よりも低い金額で評価されます。そのため、不動産を現金化すると相続税の税額が増えてしまう場合もあるのです。

相続税をいかに節税するかということも、相続を考えるときの大切なポイントです。多額の相続税が遺族の負担になってしまうことのないよう、前もって行える相続税対策についても知っておきましょう。

●相続税対策に関する記事はこちら

自分にはどんな節税対策が向いているのか、節税効果はどのくらい得られるかなどについて、相続に強い専門家からのアドバイスも受けておくと安心ですよ。

遺言書を書く人

伊藤諭

弁護士法人ASK市役所通り法律事務所代表。弁護士。
地元に根ざした幅広い業務を行い、企業法務や交通事故、相続などを注力分野としている。
多数の講演実績のほか、ネットニュースの監修やメディア出演も行う。
https://www.s-dori-law.com/