
認知症になりやすい人とは?発症リスクを高める病気・対策もご紹介!
認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす「認知症」は、完全に発症を防ぐことはできません。しかし、発症のリスクを下げることはできます。今回は、認知症になりやすい性格や生活習慣についてご紹介します。認知症の発症リスクを抑えるためにお役立てください。
認知症の発症を完全には防げない
「最近、物忘れが多くて…」と思うと、気になるのが認知症ではないでしょうか?認知症とは、脳の病気や障害などの原因で、認知機能低下が起こり、日常生活に支障をきたす状態です。本人は無自覚な状態で進行していくことが多く、認知症が進行するにつれて、さまざまな認知機能低下を引き起こします。
認知機能の低下には具体的に以下のような症状を伴います。※1、※2
・物忘れ(記憶障害)
数分前、数時間前の出来事をすぐ忘れる、昔から知っている人の名前が出てこないなど
・時間・場所が分からなくなる
日付や曜日が分からなくなる、慣れた道で迷うことがあるなど
・理解力・判断力が低下する
手続きや貯金の出し入れができなくなる、状況や説明が理解できなくなるなど
・仕事や家事などを効率的に行えなくなる
仕事や家事などの物事の計画が立てられなくなる、優先順位が付けられなくなる、順序立てができなくなるなど
・感情表現が変化する
その場の状況が読めず、周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなり、周囲の人が予想しない感情の反応をする
こうした認知症が引き起こすさまざまな認知機能の低下は、高齢者になればなるほど高まります。
では認知症の発症を完全に予防することはできるのでしょうか?残念ながら、現状では認知症の発症を完全に予防する方法はありません。しかし、認知症になりやすい人の特徴や、発症の可能性を高める病気を知って気を付けることで、認知症の発症のリスクを抑えることは可能といえるでしょう。
本記事ではまず、認知症になりやすい人の特徴を、性格と生活習慣、大きく2つの側面から見ていきます。次に発症リスクを高める病気をご紹介したうえで、発症リスクを抑える方法をお伝えします。
認知症になりやすい性格
認知症のなりやすさは、普段の脳の使い方と密接な関係があります。そして、普段の脳の使い方は、その人の性格によって大きく変わります。ビクトリア大学の米田富子博士らを中心としたチームの研究※3によると、「神経症傾向の高い人は認知症になりやすい」そうです。
神経症傾向とは、ストレスによって精神的にダメージを受けやすい性格特性のこと。そのような人は、不安や恐れが生じやすく、それが怒りとなって誰かに当たったり、社会的に孤立したりという状況につながりやすくなります。
ここでは、以上のことを踏まえて、認知症になりやすい性格について詳しく解説します。
受動的な人
何でも受け身的でいわれたことだけをこなす人や、依存的な人は、認知症を発症するリスクが高いとされます。これは脳を積極的に動かさないことに由来しています。自分で考えたり、意思決定を他人に委ねたりすることは、脳を積極的に動かさない、ということになり、認知症の発症リスクを高めます。
複雑な考え方をしない単純作業の多い業務や、人とコミュニケーションをする機会が少ないルーティンワーク業務の場合、受動的になってしまう傾向が多いといえるでしょう。
怒りっぽく、短気な人
頑固で怒りっぽく、短気な人は周囲の意見を受け入れられず、ストレスがたまる状態ということ。この状態が続くと、周囲から人が離れてしまい、孤独になりやすくなります。
些細なことも気にする人
小さなことでも気にしてしまう人は、認知症を発症するリスクが高いとされます。他人からの何気ない一言や行動に傷ついたり、敏感に反応したりすると、ストレスが蓄積しやすくなります。ストレスが蓄積すると、不安や恐怖が生じやすくなるのです。
協調性のない人
周囲の人と協調するのが苦手な人は、誰かと一緒にいることを敬遠しがちになり、コミュニケーションや社会活動の場が減ってしまうため、脳の機能が衰退しやすくなります。
認知症になりやすい生活習慣
脳の状況が悪化する原因は性格のほかに、食事や睡眠、運動といった生活習慣も関係があるとされています。では、どういった生活習慣が脳の状況を悪化させ、認知症を発症するリスクを高めてしまうのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
食生活の乱れ
魚や野菜・果物よりも肉やパンなどを多く摂取すると、認知症の発症リスクが高まります。脳を正常に機能させるには、EPAやDHAという栄養素が含まれる魚や、ビタミンやミネラルなどの栄養素が含まれる野菜・果物を食べることが大切です。
また、九州大学と神戸大学の共同研究グループによると、マーガリンやファットスプレッドを使用したパンや洋菓子などの「トランス脂肪酸を過剰摂取すると認知症の発症リスクを高める」という結果が出ています。トランス脂肪酸や中性脂肪は、認知症を引き起こす要素といわれている「アミロイドベータ」を体内に蓄積させてしまう可能性があるため、摂取量を注意する必要があるでしょう。
睡眠不足
睡眠不足は認知症の発症リスクを高めます。学際ジャーナルの「Nature Communications」で発表された研究では、睡眠時間が6時間以下の人は、7時間の睡眠をとっている人よりも認知症と診断される可能性が高いことが報告されています。
また睡眠不足は「自律神経」を乱すことになります。自律神経とは、自分で意識しなくても、体がおのずと働くために作用する神経のこと。自律神経が乱れると、呼吸や血流の巡りなど自律神経がつかさどる身体の働きが乱れます。そうなると当然、脳への影響も懸念されます。
社会活動の不足
社会活動の不足は認知症の発症リスクを高めます。親しい人との付き合いや地域社会への参加、就労などの社会活動が不足すると、脳の機能が衰退しやすくなります。他人とのコミュニケーションでは、さまざまなことを考えるために、脳の機能が活性化しますが、コミュニケーションが不足すると、脳の機能を活性化する機会をなくすことになるのです。
運動不足
運動不足は認知症の発症リスクを高めます。ここでの運動とは、息が切れるほどの激しいスポーツではなく、息が切れないほどの散歩や家事、ガーデニングなど体を動かすことです。
適度な運動は、脳のなかでも記憶をつかさどるといわれる海馬の血流を増加させ、記憶力の改善に期待できるとされています。逆にいえば、適度な運動をしていないと、記憶力の低下や脳への悪影響につながることもあります。
アルコールの過剰摂取
アルコールの過剰摂取は認知症の発症リスクを高めます。アルコールの過剰摂取が脳の萎縮につながるという説があるのです。
厚生労働省によると、過去に5年間以上の大量飲酒またはアルコール乱用の経験のある高齢男性とそういった経験のない男性を比較すると、認知症の危険性4.6倍になると報告されています。※4
発症リスクを高める病気
体に発症した病気が認知症の発症リスクを高める、とった場合があります。いったいどういった病気が認知症を発症するリスクを高めてしまうのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
難聴
音が聞こえづらくなる難聴は、認知症を発症するリスクを高めます。難聴になると、耳からの情報が不足すること、人とのコミュニケーションがしづらくなることで、脳の機能が低下しやすくなることが影響を及ぼします。
糖尿病
糖尿病とは、血液中の糖分を正常に保つ働きをする「インシュリン」が作用しなくなり、血液中に含まれる糖分の度合いが高くなる病気のこと。糖尿病になると、さまざまなメカニズムで、脳にアミロイドベータが蓄積されます。そうなると、認知症の発症リスクが高まるのです。
高血圧
高血圧とは、血液が動脈に流れる際に、血管の内側にかかる圧力が高い状態のこと。高血圧になると、脳の血管につまりや出血、萎縮などが生じ、脳の神経細胞がダメージを受けたり、アミロイドベータが蓄積されたり、といった可能性を高めます。
歯周病
歯周病とは、口内に細菌が繁殖し、歯肉周辺が炎症を起こす病気のこと。歯周病はかむ力を弱めるため、脳への刺激を低下させます。脳への刺激が少なくなると、記憶力が低下する原因となるのです。
慢性腎臓病
慢性腎臓病とは、腎臓が慢性的に機能低下をしている病気のこと。体内の老廃物を排せつする腎臓の機能が慢性的に低下すると、心臓や血管の病気の発症につながります。それに伴って脳の機能も低下することになり、認知症を発症するリスクを高めます。
発症リスクを抑えるには
認知症の発症を完全に予防する方法はまだないものの、認知症の発症リスクを抑える可能性が高い方法はあります。詳しく見ていきましょう。
生活習慣の見直し
認知症の発症リスクを抑えるには、生活習慣を見直すことです。生活習慣とは、主に食生活、睡眠、適度な運動のこと。詳しく見ていきましょう。
食生活
食生活に気を付けると、認知症の発症リスクを下げる可能性があります。認知症の発症リスクを抑えるには、摂取カロリーや塩分、糖分の摂取を考えて、バランスのよい食生活を心掛けることが必要です。
米国シカゴのラッシュ大学医療センターでは、認知症の発症リスクを下げる可能性のある10の食べ物と、発症リスクを上げる可能性がある5つ食べ物を以下のように挙げています。
●認知症の発症リスクを下げる可能性がある10 の食べ物
・緑黄色野菜
・緑黄色野菜以外の野菜
・ナッツ
・ベリー類
・豆類
・全粒穀物
・魚
・鶏肉
・オリーブオイル
・ワイン
●認知症の発症リスクを上げる可能性がある5つの食べ物
・赤身の肉
・バター
・チーズ
・小麦粉、砂糖、牛乳、バター、ショートニング、ベーキングパウダー、卵などを使ったお菓子やデザート
・揚げ物やファーストフード
上記のような考えは、「地中海式」と「ダッシュ式」の2つの食事方法が基礎になっています。地中海式は穀物や野菜を中心の食事方法で、ダッシュ式は高血圧を抑制するために脂肪の多い肉類や砂糖を避ける食事方法です。
睡眠
睡眠時間を6時間~7時間にすると、認知症の発症リスクを下げる可能性があります。睡眠には時間だけではなく、質のよさも問われます。熟睡して、スッキリと目覚めるような質のよい睡眠を心掛けましょう。
運動
週1回以上の「軽い有酸素運動」は、認知症の発症リスクを下げる可能性があります。軽い有酸素運動とは、息が切れない程度に体を動かすこと。散歩や家事、ガーデニングなどの軽い有酸素運動で、脳に程よい刺激を与えましょう。
生活習慣病への適切な対応
「生活習慣病」になったら適切な対処をして、認知症の発症リスクを下げましょう。生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣によって発症する病気のこと。糖尿病や高血圧などがあります。
糖尿病や高血圧は完治が難しい病気ですが、症状をしっかりコントロールすることで、認知症の発症リスクを下げることができます。
また、先にお伝えした通り、認知症の発症リスクを上げる症状に難聴があります。難聴の原因はさまざまですが、高齢になるにつれて難聴のリスクは高まります。音の聞こえが悪くなってきたら、早めに病院で検査をして、補聴器を使うといった対策を取りましょう。
社会的・知的活動を行う
認知症の発症リスクを下げるには、社会的・知的な活動を行うことです。社会的な活動とは、人とのかかわりのこと。週1回以上は友人と交流するようにしましょう。また知的活動とは、脳を積極的に使うこと。学習や趣味など、意欲的にできたり、好きなことに集中したりといったことで、脳を活性化させましょう。
生活習慣に気を付けて、認知症を予防しよう
認知症の発症リスクは誰にでもあります。だからこそ、認知症が発症しないように予防する方法を多くの公的な専門機関が見いだそうとしているのです。現状では認知症を完全に予防するとはいい切れないまでも、抑制する可能性が高い方法は見つかっています。日頃から生活習慣に気を使い、病気の早期発見・治療を行って、認知症の発症リスクを抑制しましょう。
また、もし認知症になったときのことを先に考えておくのも大切です。実際に認知症になると、不動産や預金など財産の管理がしにくくなります。認知症が当人を冷静な判断がしづらい状態にしてしまうのです。
認知症になる前に、「成年後見制度」や「家族信託」を活用して、財産管理のサポートを受けることも考えましょう。成年後見制度とは、当人が認知症になった場合に、当人の代わりに契約や財産管理といった法定権利を裁判所が認めた人に託す制度のこと。また、家族信託とは、不動産や預貯金などを信頼できる家族に託すことです。
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認知症と不動産取引
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認知症と不動産取引
※1出典:認知症,厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html
(最終確認:2022年8月9日)
※2出典:認知症を理解する,厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html
(最終確認:2022年8月9日)
※3出典:Trajectories of Personality Traits Preceding Dementia Diagnosis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26945005/
(最終確認:2022年8月9日)
※4出典:アルコールと認知症,厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-007.html
(最終確認:2022年8月12日)


内門 大丈
医療法人社団彰耀会メモリーケアクリニック湘南理事長/院長。
横浜市立大学医学部臨床教授、日本認知症予防学会神奈川県支部支部長など、
精神・神経領域において多岐にわたり活躍中。そのほか、著書の執筆も行う。
http://www.memorycare.jp/