Column / 2019 08,08

【逗子】JOURNAL 漁師で農家、イタリアンシェフの逗子的地産地消ライフ

Produced by CCCMHコンテンツスタジオ

http://www.cccmh.co.jp/contentstudio/

三浦半島の付け根に位置し、相模湾に面する逗子市。JR東海道線で品川駅から約50分、京浜急行線に乗れば羽田空港まで直通便があること、始発の便が多いことといったアクセスの良さから、近年、移住者も多い人気のエリアです。そんな海辺の街に、自ら栽培した野菜と、手にした魚介類を使ってイタリアンのひと皿に仕立てるシェフがいます。朝は小坪の漁港から海に出て、昼は葉山町にある畑で農作業、その後に店で仕込みを行なうという、「TRATTORIA LA VERDE」座間太一シェフの半日を追いかけました。


朝の心地よい潮風を切り裂くように、漁船は波間を進んでゆきます。岬を越えて目指すポイントに到着すると、船長は凪の海に浮かぶ「ヴ」の字の旗をひょいとつかみました。長いロープの左右にはタコ壺がひとつずつ、その間には10mおきにカゴが10個、海に沈めた全長110mの仕掛けをぐいぐいとたぐり寄せます。
「おお~っ、いきなり3つとは幸先いいなあ!」
カゴの中では立派なタコがうごめいていて、赤銅色に焼けた海の男は太陽のように笑いました。

刺し網漁やワカメ漁が盛んな小坪漁港。逗子市や鎌倉市など、近辺の食卓をにぎわせています。
水揚げされたばかりのタコ。小坪漁港はタコの名産地としても知られています。

逗子市でイタリアンレストラン「TRATTORIA LA VERDE」を営む座間太一さんの毎日は、とにかくエネルギッシュ。漁師として4~12月はタコ漁を行う傍ら、夏の間はイセエビ漁に精を出し、11月から4月半ばまではワカメ漁に励みます。その一方で、週に一度は片道60kmを運転して、津久井湖のほとりにある1000坪の畑へ。それとは別に、店で日常的に使う野菜を育てる葉山町の畑へも、毎日欠かさず足を運ぶとか。
「津久井湖の畑はもともと伯父がやっていたもの。伯父の手伝いをしたり、イタリアの野菜を育てたりしているうちに、『それじゃあお前が全部やってみろ』ということになって。もう7年になるのかな」

津久井湖周辺の農家仲間へのお土産にタコやワカメを持参すると、「これを持っていけ」と野菜を大量に渡されます。
「それもトラックいっぱいの量だから、漁師仲間にも配るわけ。今度はお返しに大量の魚をお土産にもらうから、それをふたたび津久井湖に……一体なにをやっているんだか、って話だけどさ」
漁船からトラックに乗り換えると、そんな心温まる話を聞かせてくれます。やがてトラックは、眺めのよい葉山町郊外の畑へ到着しました。

海だけでなく山の幸も豊富な土地柄

海からあがると、着替える間もなく、畑へ。トマトやナスのほか、パプリカやズッキーニ、落花生などを育てています。

「津久井湖ではゴボウやジャガイモ、大豆など、週に1度面倒を見ればいい野菜を、ここ、葉山の畑では毎日実るトマトやナスを育てているよ」
前日も10時間かけて草むしりしたという畑からは、丹精込めて手入れされていることが素人目にも伝わってきます。
「夏には、店で出す食材の8~9割はまかなえているかなあ」
愛おしむようにトマトのわき芽を摘みながら、畑の隅々に目を配り、野菜の育ち具合に目をやる。その姿は大地に生きる農の人そのものです。

明るく、落ち着いた空間が広がる、「TRATTORIA LA VERDE」の店内。

「もともと親父は割烹料理を出す旅館をやっていたんだわ」
「新道亭」と名づけられたその旅館は、三浦半島でいちばんの規模を誇っていたそう。祖父は洋食のシェフ、曽祖父は蕎麦屋を営む――座間さんは、そんな料理人一家に育ちました。
「おやじとじいちゃんが鉄砲撃ちで、獲物を使った猪鍋が旅館の名物だったんだわ。イノシシやシカ、キジやヤマドリ、カモ……ガキのころは普通の肉を食べる機会がなかったよね」
子どもの頃から猟についていき、自然の中で生きる術を目の当たりに。高校を卒業し、調理師学校で1年学んだ20歳のとき、座間さんはイタリアへと渡ります。
「どこでもよかったんだけど、海外で働きたかった。それがたまたまイタリアだったんだよね」
ローマ、ナポリで料理の腕を磨き、28歳で帰国。東京のイタリア料理店に2年間勤務した後、30歳で「TRATTORIA LA VERDE」をオープンしました。

歯触りと香りがすばらしい「地ダコのマリネ」1,000円。

「じいちゃんの代から、魚の仕入れに葉山の漁師のところに行っていた。俺もそれに倣って葉山へ買い付けに行っていたんだ。そうして漁師の網掃除なんかを手伝っているうちに、暇なら船に乗れっていう話になったんだよね」
そのころには座間さん自身も鉄砲を持って山に入り、シカやイノシシを撃ってはジビエとして出していました。けれどしだいに四つ足の動物を殺すことが辛くなってきたとか。
「そんなきっかけもあって、猟師から漁師になったんだよね」
子どもの頃から釣りをはじめ、サーフィン、ウインドサーフィン、ダイビングと海での遊びに通じていた座間さんですが、そうしたマリンスポーツの真骨頂が漁であると言います。
「時期になったら、タコをあげに行く前にカワハギを釣ったり、ルアーを流してカンパチを釣ったりしている。もちろん、カルパッチョにするためだけどさ」

タコとトマト、オリーブの実の組み合わせが絶妙。「地ダコのトマト煮 ルチアーナ風」1,500円。

そんな会話の合間にも、イワナ釣りや自然薯掘り、ネマガリダケ採りや山菜摘み……楽しげなエピソードが溢れ出てきます。
「でも、いちばんの趣味はキノコ採りかな。イタリアンで重要な食材のポルチーニは日本でヤマドリダケモドキっていうんだけれど、ここらの山にもはえている。季節になったら昼休みにひとっ走りして、背負子いっぱいに摘んでくるよ」

どこに行っても、帰ってくるとほっとする街

長野の友人から届いたばかりというネマガリダケの下ごしらえ。「日本中の友だちと、『お裾分け』といっては食材をやりとりしているよ」

野の幸、海の幸を自ら見極め、その手でつかみ、ひと皿の料理に昇華していく。座間さんのイタリア料理は、やはりそこに独自性があるのでしょうか。
「自分で育てた野菜を使うイタリアンのシェフは増えたし、漁師が食堂をやることもある。でも、両方をやるイタリアンの料理人は少ないかもね……」
ただ、それは自分のエゴのようなもの、と座間さん。
「自分で育てたから、朝獲ってきたから旨い、っていうわけじゃない。なにを使ってもおいしくつくる人はいるし、そうじゃない人もいるからね」
店の特色を決めるのはシェフではなくお客さんであり、こちらから表立って言うことではない、とキッパリ。
「ただ、このタコはおいしいね、と言っていただいたら、じつはね……と話すことはあるけどさ」
このあたりに、豪快にして繊細な、座間さんの人柄が垣間見えます。
「そんなことはいいからさ、まあ食べてみてよ!」

ナポリでシラスとオリーブオイルを和える食べ方を知った座間さん。「日本に帰ったらこれをピッツァにしようとひらめいた。いまじゃ、湘南中で真似されちゃったけど(笑)」

そんな座間さんに逗子市の魅力をたずねると、「さりげなさ、じゃないかな」とにっこり笑います。
「取り立てて観光地でもなければ大きな産業もない。湘南のほかの街に比べると地味だけれど、ここに帰ってくるとほっとするような懐の深さがあるよね」

街の魅力をはかる基準はじつにさまざま。交通の便、自然環境、学校や病院、福祉施設の充実度――。そこにもうひとつの要素を加えるならば、いきいきとした素敵な大人がいること。そんな街では、子どもたちも健やかに育っていきそうです。

この日の朝、獲ってきたタコをていねいに茹であげます。
店の片隅には、座間さんの船に乗ってワカメ漁を体験した地元小学生からの手紙が。

■施設データ
TRATTORIA LA VERDE
所在地:神奈川県逗子市逗子2-10-3
アクセス:JR逗子駅から徒歩約5分、京急逗子線新逗子駅から徒歩約3分
問合せ:046-871-2439
営業時間:11時30分~15時(14時L.O)、17時30分~22時(21時L.O.)
休業日:月曜、火曜(祝日の場合は営業)、ほか不定休あり

⇒逗子駅周辺の物件一覧をみる