「今度はムラサキ色の電車がきたよ♪」

屋上庭園ではしゃぐ子どもが眼下を走る電車を指差し、お母さんに呼びかけます。

ここは「京王井の頭線」の「永福町」。井の頭線ユーザーにとっては、急行待ちの駅としてお馴染みです。各駅停車で永福町に到着して急行を待つ数分間、車窓から見える風景は落ち着きのある“東京の日常”といった印象ですが、この地はパワースポットとしての一面をもっていることを、あなたはご存知でしょうか?

数年前まで井の頭線沿線に住んでいた私も幾度となく乗換えでホームに降りた永福町。今回は初めて改札を抜け、街を歩いてみました。

【永福町の基本情報】

駅名:京王電鉄井の頭線「永福町」
ランドマーク:永福寺

 ■井の頭線の急行が止まる駅。車やバス生活も快適

京王井の頭線、永福町駅があるのは杉並区の南側に位置する「永福二丁目」という住所。吉祥寺から渋谷までを結ぶ人気路線のほぼ中間に位置し、どちらの駅にも10分以内でアクセスできます。

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▲永福町の踏切。全7色の井の頭線が行き交います

また、学生の街として栄えているお隣の駅「明大前」からは京王線に乗り換えでき、新宿にもたったの15分。

利便性が良いにも関わらず、1日の乗降人員は明大前と比べて1万人以上少なく、都会の喧騒を忘れさせる、まさに穴場の駅といえるでしょう。

▲駅直結の屋上庭園「ふくにわ」からの景色。新宿の高層ビル群が間近に見え(写真の左側)、都心部に近いことが実感できます

さらに、井ノ頭通りや方南通りといった主要な道路が駅の近くを走っているため、車での移動も快適。

バスで新宿や高円寺、中野方面にも出ることができます。

▲永福町北口商店街にあるバス停「大宮台」。日中だと新宿駅西口方面には1時間に6本、高円寺方面には1時間に4本のバスが発車しています

■街の由来になったお寺とパワースポット大宮八幡宮(東京のへそ)

永福町の駅がある「永福」という地名は、この地にある曹洞宗の寺「永福寺」に由来します。

▲駅から歩いて10分の場所にある永福寺。1523年(大永2年)に秀天慶実和尚が創建した古寺で、境内には「子授け地蔵」の名で信仰された地蔵菩薩石像などが祀られています

永福寺だけでなく、永福町には神社仏閣が数多く存在します。

▲こちらは永福町北口商店街にある大圓寺。1603年(慶長8年)に徳川家康によって赤坂溜池に建立された後、1908年(明治41年)に現在の地に移転されました

そして、大圓寺からさらに西北の方に10分ほど歩くと見えてくるのが「大宮八幡宮」です。1063年(康平6年)に源頼義に寄って建立されたこの神社。東京の重心にあることから”東京のへそ”といわれ、パワースポットとして遠くからもたくさんの人が参拝に訪れます。

▲正参道の方から見た大宮八幡宮の「ニ之鳥居」。境内は約15,000坪と都内でも3番目の広さです
▲大宮八幡宮の「神門」。特に子育てや安産に御利益があるといわれ、毎月の「戌の日」には安産祈願で多くの妊婦さんが訪れます

永福町を歩くと、歴史的な寺社とともに古い町並みがそこかしこに残っていることに気がつきます。

▲大宮八幡宮の正参道前の通りにある建物。退色した壁材や瓦の一枚一枚が土地の歴史を無言で語ります

■便利な駅ビルと老舗の個人店

そんな永福町、駅の改札を出ると、そこは2011年に開業した駅ビル「京王リトナード永福町」。スーパーやベーカリーカフェ・輸入食品店や薬局などがあり、かなり便利。駅を出る前に最低限の必要な買い物を済ませることができます。

▲井ノ頭通りの方から見た「京王リトナード永福町」。1階のスーパー「キッチンコート」は23時30分まで営業しています
▲京王リトナード永福町の屋上庭園「ふくにわ」。四季折々に色づく木々や草花、そして夜には夜景やイルミネーションも楽しめます

駅を出れば北と南にそれぞれ商店街が伸びています。

井の頭線の向こうに見えるのが「永福町北口商店街」。交差点を渡った商店街の入り口の右側には、中華そばの有名店「永福町大勝軒」があります。

▲永福町大勝軒は1955年創業の老舗。中華麺(ラーメン)一筋で、香りの豊かな煮干しスープと大盛りの麺が60年以上にわたって多くの人に愛されています

永福町北口商店街では、大勝軒の他にもうなぎ屋さんやお蕎麦屋さんなどの老舗が現役で営業中。変わらぬ味で街の人の胃袋を満たしています。

▲外観から年季を感じさせる永福町北口商店街の「稲毛屋」。うなぎや焼き鳥で有名です
▲永福町北口商店街は数年前に電線類が地中化。電柱がなくなった通りは広々として、バスが通っても気にせず安心して歩道を歩けます
▲駅から南の方に伸びる商店街にも味のある店が点在。8月には「永福町夜祭り」、10月には「オータムフェスティバル」など、永福町の商店街では年間を通してさまざまなイベントが開催されます

新しい駅ビルのお店を便利に使いながら、商店街を歩いて個人店を堪能するのが永福町ならではの街の楽しみ方かもしれません。

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■和田堀公園・善福寺・神田川……人々を癒す豊かな自然

永福町には、深い歴史とともに、善福寺川に沿って広がる和田堀公園や善福寺川緑地など、豊かな自然が残っています。

▲永福町の南から東の方に向かって流れる一級河川「神田川」。穏やかに流れる川の周辺は散歩やランニングのコースになっています
▲神田川沿いにある「永福中央公園」。球戯場があって遊具も充実し、子どもたちの絶好の遊び場です

駅の周辺には大きな道路が走っていて車通りも多いですが、住宅街の中はとても静か。

ビルやマンションなどの高い建物は少なく、歩きながら建物探訪をしているだけで何とも言えない安心感を覚えます。

▲駅の南側の住宅地。一軒家も多く、治安はとても良さそうな雰囲気
▲とぼとぼ歩いていると、いろいろなところでどこか懐かしい景色に出会えます

■街の人に愛される名店。シンプルで変わらない味は永福町の象徴

永福町の駅から北口商店街を進んでいくとやがて右手に見えてくる素敵な看板。1967年(昭和42年)にオープンした老舗洋食店「グリルマリノ」です。

▲永福町駅からは徒歩6分ほど。オープンから50年以上続く名店で、テレビ番組でも度々取り上げられてきました

今回はお父様の後を引き継いで2代目として店の厨房に立つ、大崎厚男さんにお話を伺いました。

(※以下、「」内は大崎さんのセリフです)

▲店主の大崎さん。お忙しい中お話を聞かせてくださいました

――大崎さんがお父様からお店を引き継いだ経緯を教えてください。

「僕は親父の背中を見て育ったので、子どもの頃から料理人になりたいと思っていました。でも最初から店を継ごうという考えはなかったんです。しばらくはホテルで働いていましたが、両親が高齢になってきたとき、『自分がこの店を守ろう』と決意して親父の後を継ぎました」

――お客さんはどんな方が多いですか?

「たまにテレビ番組に取り上げてもらうとわざわざ遠くからもお客さんが来てくれますが、それは一時のこと。通常だとほぼ9割が地元の人です。親子三代で通ってくれるお客さんもいて、本当にありがたいです」

▲「オムレツ職人」の大崎さんの巧みなフライパンさばきに思わず見とれてしまいました

――大崎さんにとって永福町はどんな街ですか?

「新しい建物も増えて新しい人も増えているけど、古い建物もたくさん残っています。駅ビルができたり、街の開発が進んでも、大勝軒さんやうちみたいな個人店も頑張っているし、新しいものと歴史あるものがうまく共存できている街ではないでしょうか。これからも変わらずマイペースに店を続けていきたいです」

▲大崎さん自慢のオムライス。巷で「タンポポオムライス」ブームが到来しても作り方を一切変えることなく貫いてきた、昔ながらのシンプルで優しい味わいは永福町を象徴するかのようでした

■歴史によって育まれた“文化”がこの街の魅力

永福町の街を初めて歩き、古い寺院や、たくさんの自然、老舗店が残る商店街など、さまざまな魅力に気がつきました。

歴史を大切にする街には、古き良き建物や自然が残り、そのうえに住む人たちの「文化」がつくられる……

大きなランドマークや商業施設がない永福町の魅力は、電車で通過するでは伝わりにくいかもしれません。

あなたも今度急行待ちで永福町を降りたら、そのままフラッと改札の外に出てみてはいかがでしょうか?

肩肘張らずに街を散策すれば、永福町に住む人たちがつくりあげてきた「文化」を感じ取れることでしょう。

下條 信吾

長野県安曇野出身、東京在住のフリーライター・カメラマン。レゲエベーシストとしてKaRaLi、Tropicos、The Kingstompersなどで活躍中。
趣味は地図なしの東京街歩き。
八王子から立川まで2時間半、下北沢から仙川まで4時間、お台場から笹塚まで6時間かかりました。
Instagram: https://www.instagram.com/bassieshimo/?hl=ja