Column / 2019 03,11

【久が原】人にも街にも多くを求めない、だから“程よい”。豊かで余裕のある「久が原の暮らし」

下條信吾

長野県安曇野出身、東京在住のフリーライター・カメラマン。レゲエベーシストとしてKaRaLi、Tropicos、The Kingstompersなどで活躍中。
趣味は地図なしの東京街歩き。
八王子から立川まで2時間半、下北沢から仙川まで4時間、お台場から笹塚まで6時間かかりました。
Instagram:https://www.instagram.com/bassieshimo/

「カーンカーンカーンカーッ……」

やがて電車が通り過ぎ、踏切が開く。
向こうから渡ってくる女性の自転車や、男性の真っ白なスニーカーが太陽の日差しを反射させ、私の視界をキラキラとくすぐる。

この街を歩いていると、 “陽だまりの中”にいるようななんとも言えない幸福感に満たされる。
取材日はたしかに良い天気だったけど、私がその感覚を覚えた理由はきっと他にありそうな……そんな気がする。

久が原の基本情報

駅名:東急池上線「久が原」

久が原の商店街には●●●●●がない!?

久が原駅があるのは東京都の大田区。五反田と蒲田を結ぶ東横線池上線で蒲田から4駅の場所にあります。地上駅で、ホームも木製のベンチも何とも味わい深い雰囲気。

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▲久が原駅の蒲田方面乗り場。こじんまりとした大きさに愛着が湧く

電車を降りて改札を抜けると、東西にそれぞれ商店街があります。環八通りに向かって西に延びるのが「久が原駅前通りすえひろ商店会」。スーパーマーケットやドラッグストア、飲食店や病院、学習塾など、さまざまなお店が揃った商店街です。

▲久が原駅前通りすえひろ商店会
▲久が原駅前通りすえひろ商店会のOdakyu OX
▲久が原駅前通りすえひろ商店会のスマイルドラッグ

そして、駅から東に延びるのが「ライラック通り久が原」。距離としてはこちらの商店街はすえひろ商店会よりも長く、住宅に溶け込むように点々とお店が並びます。

▲ライラック通り久が原
▲踏切横のベーカリー「パン小屋Hutte」と、その右隣の肉店「肉の山本」
▲生活の心強い味方、スーパーマーケット「サミット」もあります!

2つの商店街を端から端まで歩き、これなら日常生活に必要なものはだいたいなんでも揃うなと思う反面、他の街にはない独特の空気感が。その空気感の正体を考えながら商店街を歩いていると、他の街にはたくさんある「あるもの」がないような……。

▲豊富な品揃えの本屋「井上書店」
▲黒湯で有名な天然温泉も楽しめる銭湯「益の湯」(取材した2019年1月時点ではリニューアルオープンに向けて改装中でした。入りたかった……)
▲レトロな趣の理容室「しもとり」

2つの商店街をじっくり見渡して、他の街にある「あるもの」がないことにはっきり気がつきました。

スターバックス、ドトール、タリーズ……
マクドナルド、ロッテリア、モスバーガー……
吉野家、日高屋、富士そば……

この街には大手飲食チェーンのお店がひとつもありません。

見慣れたチェーン店がひとつもない久が原の町並みは、独特の一体感があり、雰囲気もおっとりおだやか。
街ゆくお店の店主同士が笑顔で挨拶を交わしている様子が印象的で、喧騒という言葉とはかけ離れた空気が流れています。

人を急かさない。解放的でおだやかな町並み

ライラック通りから外れて住宅地の中に入ってみると、道は碁盤目状になっていて、閑静な住宅街が広がります。

この辺りは「久が原台」という台地に位置し、周辺は起伏に富んだ地形。
周辺に高い建物は見当たらず、空が広々と見渡せます。

また、久が原は田園調布や山王と並ぶ邸宅街として知られる場所。有名人なども住んでいるそうですが、意外と庶民的なマンションもあり、敷居が高い……という雰囲気はありません。

すえひろ商店会側は、ライラックを抜けた住宅街とはまた違った雰囲気。
寺院や緑が多く、地元に住む人の憩いの場となっています。

▲住宅地の中にある公園
▲駅の西側を南北に走る環八通り
▲環八通り沿いにある嶺白山神社。齢600年の御神木がお見事です
▲環八通りを越えた先にある鵜の木松山公園。広々とした草原と緑豊かな松林に癒されます

ライラック側、すえひろ側でそれぞれ色は違うものの、どちらも静かで落ち着いた雰囲気が印象的。
都心部で感じる「常に誰かに急かされているような圧迫感」が微塵もなく、ゆっくりと自分のペースで街を眺められました。

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「この街は商売っ気がないんですよ(笑)いい意味でね」

ライラック通りを歩いていると、信号の向こうに素敵なお店を発見。
ここは2000年にオープンしたビストロ「キャトル」です。

ランチ時には女性客でいっぱいになるという人気店ですが、店長の阿部信行さんに話を聞くと「まあ、そうかな?」とあまり気にしていない様子。ランチがてら、この街の魅力について聞いてみました。
(※以下、「」内は阿部さんのセリフです)

▲阿部信行さん

――びっくりしたんですけど、久が原ってカフェとかハンバーガーショップとかのチェーン店が一軒もないですよね。

「そうだね。チェーン店はお隣の駅の御嶽山とかにはあったんじゃないですかね。久が原はそういうお店がないから、なんていうか“程よい感じ”でいいんですよ。お店も商売っ気がないっていうか(笑)。いい意味でね。」

――それは商店街ですごく感じました。

「それでも最近は商店街が活気付いてきて、色々イベントを企画しているんですよ。5月の『ワゴンセール』はかなりたくさんの人が来てくれましたよ。もしかすると注目されているのかもしれませんね。」

▲変わり種メニューとして人気の「パスタグラタン」。控えめな阿部さんですが、新しいメニューをどんどん開発したり、お客さんを喜ばせることは大好きなようです

――お店が今よりももっと忙しくなったらどうしますか?

「いや……うちは今くらいで充分ですよ……アハハハ(笑)」

▲ちなみに、キャトルの向かいには系列のベーカリー「モンレーブキャトル」があります。こちらも“それとなく”人気店

人にも街にも多くを求めない“程よい街”

私が久が原で感じた“陽だまりの中”にいるような幸福感。
それは、邸宅街ならではの街ゆく人の心の余裕やチェーン店が存在しないのんびりとした雰囲気から生まれたもの。

効率ばかりを追い求めると、たしかに便利にはなるけれど“非効率の中にある余裕や豊かさ”がこぼれてしまう。

人にも街にも多くを求めない、だから“程よい”。
久が原という街から、そんな暮らしにとってなくてはならない大切なことを教わった気がする。