私が東京で初めて就職をしたのは今から10年ほど前のこと。新宿の近くの大きなビルに勤めていて、それはそれは忙しく働いていました。

とっくに息切れしているのに、でも足を止められずに走り続けている、そんな感覚でした。
「大変だけど……東京で仕事をするってこういうことか」
そう受け入れてしまったのが最後。せっかくの週末も仕事のことを考えてしまい、足が勝手に職場へと向かう日々を過ごしていました。

しかしある土曜日のこと、ふと我に返り、アパートを出たところで私は立ち止まります。そして、自転車に飛び乗り、逃げるように新宿とは逆の方へ向かいました。そしてたどり着いたのが、「経堂」でした。

本当は山梨県の川口湖あたりまで行ってしまいたいところでしたが、普通のママチャリだし、残念ながらそれほどの大胆さも持ち合わせていなかったので、経堂辺りが限度だったのです。私は諦めにも似た気持ちとともにトボトボ街を歩いてみたのでした。しかしこれ以降、私はその会社を辞めるまでの数年間、多くの週末を経堂で過ごすようになったのです。今回はそんなお世話になった経堂を久しぶりに歩いてみました。

【経堂の基本情報】

駅名:小田急小田原線「経堂」
ランドマーク:経堂コルティ

■世田谷区の中央にある、急行が止まる主要駅

東京都の中でも90万人と一番多くの人が住む世田谷区で、中央部に位置するのがここ「経堂」です。

小田急小田原線の経堂駅から急行に乗れば新宿まで3駅でアクセス可能。また、人気の下北沢に近いのも魅力のひとつです。

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▲小田急線の中でも経堂は急行が止まる主要な駅。一日に平気で約7.7万人もの人が利用しています
▲2011年にオープンした駅前のショッピングモール「経堂コルティ」。スーパーマーケット「Odakyu OX」やレストラン、カフェなどお店が充実していて生活には困りません
▲駅前から発着するバスに乗れば渋谷や京王線の八幡山方面にもアクセス可能
▲一駅お隣には東急世田谷線も走っていて、魅力的な駅が生活圏内にたくさんあります

週末は電車に乗らず、徒歩や自転車でのんびり世田谷を散策するのもいいでしょう。

 

■学生が行き交い、活気のある“農大通り”

経堂には大きな商店街が2つあります。そのうちの1つが「経堂農大通り商店街(通称:農大通り)」。経堂の南には東京農業大学があり、多くの学生が農大通りを通って通学しています。

▲農大通りの入り口付近にあるモニュメント「ハートフル・ファミリー」
▲農大通りには、学生のお腹を満たす安くてボリューム満点のお店もたくさんあります。歩道が道の両端に幅広く設けられていて歩きやすいのも嬉しいポイント
▲コーヒースタンドのようなオシャレなたい焼き屋さんや、素材にこだわったクレープ屋さんもあり、食べ歩きも楽しめます

■本当に東京?畑やお寺もある落ち着いた街並み

学生が多く住む経堂はとても緑が多いため、ファミリー層からも人気を集めています。例えば農大通りを南に進んだところにある烏山川緑道は、延長約7キロの緑道。その近くには、豪徳寺や世田谷城址公園、松陰神社、太子堂円泉寺など、歴史的な神社仏閣があります。

▲烏山川緑道。私が歩いたのは11月の初旬で、うっすらと黄色く色づいた木々がきれいでした

緑道を東の方に歩き、住宅街に入ると、写真のような東京とは思えない景色が広がります。

▲雑木林の向こうに見えるのは畑。サトイモは大きく葉を広げ、まもなく収穫の時期です。近くには野菜の無人販売所もありました
▲こちらは世田谷区の「宮坂」にあるお寺「常徳院」

Y字路にひっそりと佇むお地蔵さん。地域の人の暮らしを見守っているかのようです

■リラックスムード漂う経堂すずらん商店街

“農大通り”とともに経堂を代表する商店街として愛されているのが、北口から伸びる「経堂すずらん商店街」です。

▲経堂すずらん商店街。大学生が多く行き交う農大通りとは異なり、小さな子どもを連れて歩くママなど、ファミリー層が多い印象です
▲歩いてみるとチェーン店は少なく、落ち着きのある“隠れ家的”なお店が多く目に止まります。左の建物の一階は昔ながらの良質なものをセレクトする文房具店「ハルカゼ舎」
▲こちらは「Bar 太田尻家」。ご夫婦が営む名店は、店構えから趣を感じます
▲商店街の終わりの方にはグリーン、イエロー、ブルー、オレンジのカラフルな4つの建物。時代を感じさせるレトロな雰囲気

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■「理由は考えたことがないけど……ここから離れるつもりはない」

経堂すずらん商店街の奥まで進み、いよいよお店がなくなり始めた頃、一軒の古い建物が見えてきます。

▲古民家の1階にあるのは珈琲豆直火焙煎専門店「すぐろ珈琲豆店」

よく見ると建物の端には階段が……。看板も出ています。

▲2階に続く階段。うっかりしていると見過ごしてしまいます

上にあがると、そこにあるのはカフェ「クルミ堂」。もともと人が住んでいたスペースをリノベーションし、店主の小島寛子さんが2010年にお店を始めました。

▲お店の内観。開けた窓からはすだれ越しに心地よい風が入ってきます。

実は私もお店がオープンした頃、よくここに通っていたお客の1人。今回は改めて小島さんにお話をお聞きしました。

(※以下、「」内は小島さんのセリフです)

▲気取らない自然な笑顔が素敵な店主の小島さん

――小島さんはなぜ経堂でお店を始めたんですか?

「もうずっとこの辺りに住んでいるんです。クルミ堂を始める前は農大通りにあった飲食店で働いていました。自分のお店を持とうと思った時も、あえて別の場所にしようという考えはなく、自然と経堂周辺で物件を探しました」

▲フルーツやチーズなどの具材がゴロッと贅沢に入ったお店自慢の手作りマフィン。絶品です

 
――お客さんはどんな方が多いですか?

「地元の人がたくさん来てくれます。ママがお子さんを連れておやつの時間に来てくれたり、1人で来て静かに読書をする人もいたり。みなさんゆっくり時間を過ごして帰りますね」

――8年間お店を続けるって、大変ではなかったですか?

「うーん、あまりそういう印象はないですね。というのも、この辺りにはギャラリーとかパン屋さんとか文房具屋さんとか、素敵な個人店がたくさんあるんですけど、その中で“競争し合う”のではなく、“一緒に街の文化を盛り上げていこう”という気持ちが強くて、むしろ安心感があります。だからこそ、クルミ堂も小さなお店ですけど、欲を出さずに細く長く続けてこられたのかもしれません」

――経堂の魅力はなんだと思いますか?

「『魅力』なんて聞かれるまで改めて考えたことがないくらい、普通に暮らしています(笑)。でもそれってもしかすると『住みやすい』ってことなのかもしれませんね。今5歳になる子どもがいるんですけど、緑も豊かで公園もあって治安も良くて、子どもを育てる環境としても申し分ない場所です。ここから離れる理由はありません。これからもここで末長く、マイペースにお店を続けていけたらと思います」

 

■東京の生活で息切れしてしまったなら経堂へ

息切れしているのに走り続けていた私を、優しく止めてくれた街、経堂。

改めて街を歩き、お寺を巡り、クルミ堂でマフィンをいただきながら小島さんの話を聞き……当時のことをよく思い出しました。

「東京の生活に疲れた」

そんなふうに心が折れてしまいそうな人は、ぜひ一度経堂へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

下條 信吾

長野県安曇野出身、東京在住のフリーライター・カメラマン。レゲエベーシストとしてKaRaLi、Tropicos、The Kingstompersなどで活躍中。
趣味は地図なしの東京街歩き。
八王子から立川まで2時間半、下北沢から仙川まで4時間、お台場から笹塚まで6時間かかりました。
Instagram: https://www.instagram.com/bassieshimo/?hl=ja