
【下北沢】放任でも過保護でもない「ほどよい距離感」。マイペースを愛するゆるい街
目次
「 シモキタって『はじまるのが遅い街』なんですよ。昼の12時くらいまでお店が全然空いていなくて、ゆったりしているというか、マイペースというか。この街にしかない時間の流れや雰囲気があるんですよね 」
下北沢で創業12年になるカフェ、kate coffee(ケイトコーヒー)の店長・藤枝さんは、そう語る。小劇場・ライブハウス・古着屋・雑貨屋・飲食店など、さまざまなお店が集まる繁華街には、藤枝さんの発言がリアルなものなのだと思わせてくれるような独特な雰囲気が。
「この街に引っ越してくる方は、昔からあるシモキタの雰囲気が好きでやってくるんです。街は変わるけど、人は変わらないというか。だから、この街らしさは今後もずっと残り続けるのだと思います 」
現在、再開発の真っ最中である下北沢。街の象徴でもあった駅前の市場や横丁が立ち退き、若者の街ならではの活気や危うさはずいぶん薄れたものの、「 シモキタらしさ 」はまだまだ健在らしい。
街が変化しても残り続ける「 シモキタらしさ 」とは何か?
街をめぐり、ものを食べ、シモキタの人の話を聞きながら、この街の魅力を探ってみた。
【下北沢の基本情報】
駅名: 京王井の頭線・小田急小田原線 下北沢駅
乗換えできる路線: 京王線・JR山手線
ランドマーク: ザ・スズナリ
映画や小説の舞台: もしもし下北沢(よしもとばななの小説)
■新宿にも吉祥寺にも乗り換えなし。便利な北沢

京王・小田急の2路線を乗り入れ、新宿・渋谷などの主要都市に乗り換えなしで移動できる下北沢。都心へのアクセスに強いのが下北沢の特長で、吉祥寺へも乗り換えなしで移動できます。
どこの改札から降りても目の前に商店街やスーパーが。
特に商店街が多く、駅を中心に6つの商店街があります。

現在工事中の駅前は、2019年3月末にオープン予定。
再開発によって駅ナカにも商業施設ができる他、京王・井の頭線を合わせて合計5つの改札が設置され、買い物・移動がもっと便利に。


また、コンサートやライブの他、高齢者向けのカルチャースクールなど、地域の憩いの場として親しまれる「北沢タウンホール」が駅から徒歩約5分、歓楽街の真横の位置に。

商業施設・歓楽街・区の施設がコンパクトにまとまった街。
利便性の高さは、この街に人が集まってくる利用のひとつです。
■「シモキタに帰りたい」と思わせる、自然体で自由なランドスケープ

下北沢で商店街・路地を歩いていると、驚くほどたくさんの店に出会います。
ファーストフードのチェーン店もありますが、メインは個人経営のお店。





個性的でオシャレなお店が多く、眺めているだけでも楽しい気分に。
中心部をメインに数千店のお店があるため、飽きることなくお店めぐりを楽しめます

kate coffee(ケイトコーヒー)の藤枝さんが下北沢を 「はじまるのが遅い街 」というように、どこかマイペースなのがこの街らしさのひとつ。
「別にまわりに合わせなくて良いよ」といわれているようで、なんだか肩の力が抜ける。
自然体で自由な街の雰囲気に「 この街に住んで新宿や渋谷で仕事をすると、『家に帰りたい』ではなく『シモキタに帰りたい』って思うんじゃないか 」などと考えながら、取材を続けました。
■心の休息。マイペースにまわりたい「シモキタスポット」
街全体から、なにかマイペースな雰囲気が漂う下北沢。
この街で暮らすなら、休日は街の雰囲気に合わせたゆったりとした過ごし方がおすすめ。
仕事の疲れを癒やし、辛いことも悲しいことも忘れて、ただただリラックスする。
そんな1日を演出する、シモキタスポットをご紹介します。
・400年の歴史を誇る自然豊かなお寺「森巖寺(しんがんじ)」
駅から徒歩約8分ほどの位置にある森巖寺(しんがんじ)。
住宅街の中にひっそりと佇む神社で、下北沢のパワースポットとして親しまれています。

森巖寺には医療と医薬の神が祀られている他、針供養のための針塚があります。
医と針にゆかりが深いことから「お灸のお寺」といわれており、健康祈願のために多くの人が訪れます。

門からすぐの位置には芸や福徳を司る 「弁財天」 が祀られており、芸に打ち込む若者やお店の経営者からも人気。また、境内には建立当初から植えられているイチョウの木があり、秋には鮮やかな紅葉が楽しめます。
何もない休日は、自然や和の空気に癒やされる「森巖寺」から1日をはじめましょう。
・運命の本と出会える本屋
自然や和の空気に癒やされた後は、下北沢の名店「本屋B&B」で読書とビール。
駅から徒歩約3分、BIG BENという雑居ビルのB1FにあるB&Bは「 これからの街の本屋 」をコンセプトに作られたお店。
「スタッフが本当に売りたいと思った本だけを選ぶ」「本だけでなく本を並べる本棚や家具・雑貨を販売する」 など、この店ならではの個性があり、2015年にはグッドデザイン賞を受賞しています。
ホームページに 「本との『偶然の出会い』を街ゆく人の日常の中に生み出すべく手を尽くすこと。それが「街の本屋」の役割 」と書かれているように、 買いたい本を探しにいくのではなく、目的もなくフラリと立ち寄る のがおすすめの楽しみ方。
ジャンルや作者を問わず、興味のおもむくままに本を開けば、人生を変えるような1冊との「偶然の出会い」が訪れるかもしれません。
立ち読みの際は、ぜひビールを片手に。
B&Bという名前の由来はBOOK&BEER。
モルツなどの定番のビールの他、クラフトビールや地ビールが楽しめます。
「 ビールを片手に気ままに立ち読み 」
そんな贅沢な時間を過ごせるのは、下北沢ならでは。
・異国情緒に癒やされる。町はずれのちいさなタイ料理屋「ティッチャイ」
個人経営でこじんまりとしたお店が多い下北沢。
お店とお客さんの距離感がほどよく、馴染みになれば友達の家に遊びにいくような感覚で楽しめます。
そんな下北沢らしさが詰まったお店が、南口から徒歩約7分のタイ料理屋「ティッチャイ」。
メガネとオーバーオールが目印の女性店主、みゆきさんが切り盛りする有名店です。

名物のガパオライスの他、特製タレに漬け込んだ焼き鳥「ガイヤーン」、ティッチャイオリジナルの「ティッチャイつくね」など、タイ料理をベースにしたオリジナルメニューが人気。
(ランチメニューは別)
アルコールも豊富で、ビール・カクテル・ワイン・焼酎の他、パクチービールなどタイ料理屋ならではのドリンクも楽しめます。

「 人とのつながりを大切にしている 」という店主みゆきさんが醸し出す、明るく柔らかい雰囲気がティッチャイの最大の魅力。
タイ料理をじっくりと味わい一人の時間を過ごすのもよし、店主やスタッフ、他のお客さんとの会話を楽しむのもよし。
美味しいタイ料理にお酒、お店の人とよもやま話に花を咲かせば、身体も心も満たされて帰路につけるはず。
この街に住んだら、必ず行きつけにしたいお店のひとつです。
■ゆるいつながりが生む、人と人のほどよい距離感

以前、高円寺の取材 で、古書店兼居酒屋を営む狩野俊さんをインタビューしたとき狩野さんがこんなことを言っていました。
「街の魅力や住みやすさを決めるのは、そこにどんな人がいるかなんです」
街に関わる人がその街の個性や魅力を決めるのであれば、下北沢の場合はどうなのでしょうか。
取材の最後に、シモキタ愛の強いkate coffee(ケイトコーヒー)の店長、藤枝さんにお話を伺いました。

――下北沢に来るようになったきっかけと、最初に感じたの街の印象を教えてください。
「下北沢にはライブハウスがたくさんあって、好きなバンドがたくさん出ていたので、通うようになったんです。昔は今よりももっと自由な雰囲気で、毎日酔いつぶれて路上で寝ている人がいましたね(笑)。マイペースな人ばかりで「ちょっとハミ出した人でも受け入れてくれる街」みたいな印象がありました。」

――では、実際にこの街で働くようになったのはいつごろですか?
「それも大学生の頃からで、下北沢のカフェでずっとアルバイトをしていました。大学を卒業して1度はOLになったんですが、やっぱり下北沢でお店がしたいと思ってこのお店を建てたんです」

――「やっぱりお店を出したい」と感じたのはやっぱりこの街が好きだったから?
「そうですね。シモキタは個人がやっている小さめのお店が多くて、人と人の距離が近いから仲良くなりやすいんですよ。お店同士でもお互いに行ったり来たりするので、輪が広がりやすくて、楽しいし安心するんです(笑)こういうゆるいつながりって、例えば新宿や渋谷のような大きな街ではあまりないと思いますし、シモキタならではの部分かなと思います」

――反対にそれが息苦しさにつながるようなことはないのですか?
「つながりはあるけど、なれなれしくはないのが良いところですね。放っておいてくれるけど、無関心ではないというか、この街ならではの距離感があるんです。適度な距離感があるので、息苦しさは感じません。昔から音楽とか演劇とか文学とか、自分の世界を大切にしたい人たちが集まる街だったので、自由でつながりは濃いけど干渉はしすぎない、ちょうど良い距離感が生まれたのかもしれません」

――ありがとうございます。最後に、藤枝さんにとって下北沢はどんな街なのか聞かせてください。
「俳優の田口トモロヲさんがあるインタビューで『シモキタには独特の磁場があって、その磁場に惹かれてしまう人は離れられなくなる』と語っているのを見て、とても共感したんです。一度その魅力にハマると抜けられない(笑)。これからもこの街でお店をやっていきたいなと思っています」

■「好きにしていいよ」と見守る、暖かな街
「肩の力が抜ける自然体でゆったりとした空気感」
「個性を前面に出したお店の数々」
「目を輝かせて街のことを語ってくれた藤枝さんの表情」
そんなひとつひとつが「好きにしていいよ」と語りかけてくれているような気がする。>
ニュアンスを伝えるのが難しいけれど、突き放すような感じではなく、もっと愛着を持った言い方で。
「ほどよい距離感で見守られているような安心感」
そして、そこから生まれる居心地の良が、下北沢の一番の魅力なのかもしれません。


児島宏明
ライター・編集者に憧れ、広告代理店に入社。SEOライターを経験した後、オウンドメディア担当に。
Webメディアに掲載する記事の企画・取材・編集・撮影を担当。飲食店などの個人事業主から会社経営者まで、さまざまな方にインタビューをして記事執筆を行う。