任意売却物件を売るときの流れとは?売却の手順と注意点を解説

住宅ローンの返済が難しくなったとき、まずは家の売却を検討しますね。ところが、ローンの残債よりも売却金額が低い場合は、ローンが完済できず別に資金を準備しなければ売却することができません。資金が準備できないときでも、金融機関から了承を得て行う「任意売却」なら家を売却することができます。任意売却の流れについて紹介します。

目次
  1. 任意売却物件を売買するときの主な流れ
  2. 任意売却物件の売却を成功させるために
記事カテゴリ 売却 ローン
2021.07.09

任意売却物件を売買するときの主な流れ

住宅ローンの返済が難しくなったとき、まずは家の売却を検討しますね。ところが、ローンの残債よりも売却金額が低い場合は、ローンが完済できず別に資金を準備しなければ売却することができません。資金が準備できないときでも、金融機関から了承を得て行う「任意売却」なら家を売却することができます。

住宅ローンを滞納したままの状態を続けると、自宅が競売にかけられてしまい、意図せず住まいを失ってしまう可能性があります。競売はローンの滞納により債権者が裁判所に申し立てを行い、法律に基づいて対象の不動産を公開入札の形式で売却する方法です。

競売には強制力があるため、競売の状態になると所有者の意向を挟む余地はほとんどありません。所有者の意向で売却できる任意売却としたい場合は、競売の手続きに入る前、なるべく早く金融機関に相談する必要がありますよ。

郊外の街並み

任意売却で売却する手順には、以下の8つの流れがあります。また物件の状態や債務の状況によっても異なりますが、任意売却に許される期間は通常3~6か月ぐらいです。

●任意売却の期間や流れ

流れ期間
1金融機関からの督促住宅ローン滞納後1か月~2か月
2現状の把握数日
3不動産会社の選定と価格の査定約1週間~2週間
4債権者への確認約1か月~3か月(売却活動中も継続)
5任意売却の開始約1か月~3か月間
6売買契約の締結売却開始から約1か月~3か月
7不動産の決済・引渡し契約から約1か月
8残債務の返済ケースによって数年

任意売却の全体の流れをおおよそまとめると上記のようになります。それでは、任意売却の流れを詳しく見ていきましょう。

[ 1 ] 金融機関からの督促

住宅ローンの滞納が2か月程度続くと、債権者である金融機関から支払いを促すはがきが送られてきます。さらに滞納が続くと強く支払いを促す「督促状」が届きます。

その後も返済が滞り続けると、「催告書」が届き、「期限の利益喪失」を伝える通知が届きます。「期限の利益」とは、分割払い(ローン返済)できる権利のことで、この権利を喪失した場合は、金融機関から一括返済を求められることになります。

住宅ローンの借り入れ時に保証会社を利用している場合、「期限の利益」を喪失した段階で、保証会社が債務者に代わって、金融機関に一括返済します。その後は債権者(返済先)が保証会社へと変わります。

[ 2 ] 現状の把握

最初の通知が来た時点で、「残債がどのくらいあるのか?」「今家を売った場合、いくらで売れそうのか?」といった現状について調べることが賢明です。

この時点で、おおよその家の相場価格を調べるなら、不動産のポータルサイトや不動産広告を参考におおよその自分の家と似た条件の価格を調べるとよいでしょう。相場から見積もった価格で売れた場合に、「残債が完済できそうか」「最低いくらで売れば残債を完済できるのか」を把握します。

一方、住宅ローンの残債はお金を借りている金融機関に正確な残債金額と滞納額を確認してください。また、この時点で、確認と同時に今後の返済について金融機関に相談したほうがよいでしょう。

PCを見ながら話す夫婦

[ 3 ] 不動産会社の選定と価格の査定

現状を把握したうえで、金融機関に任意売却も含めた返済について相談します。

返済条件を変更し、返済を継続できそうであれば、任意売却が認められるケースは少なくなります。一方、やはり返済に窮し、残債も多く、任意売却が得策だと判断されれば、任意売却が認められます。

金融機関との相談で、任意売却が視野に入ってきたら、不動産会社に相談をはじめましょう。任意売却は金融機関との連携など通常とは手順が異なるため、任意売却物件の取り扱いに慣れた不動産会社に相談するとよいでしょう。

このとき、できれば1社のみではなく複数の不動産会社に相談し、物件の査定を依頼してください。複数に査定を依頼することで、査定額や相談時の対応、能力を比較しながら、信頼できる不動産会社を選ぶことができます。

任意売却を依頼する不動産会社を決めたら、売却にかかる費用や税金などの概算を出してもらいます。こうした費用も必要経費として債権者に認められれば、売却価格から支払うことが可能です。ただし、債権者が同意しなければ、自分で支払わなければならないので注意しましょう。

また、売却の決定に際しては、金融機関の了解が必要になります。不動産会社は所有者ばかりでなく、金融機関とも相談しながら売却価格を決定していきます。

家の模型と電卓

なお、任意売却では、費用について通常の仲介による売却よりも意識する必要があります。そういった意味では、不動産会社を選ぶ際に仲介手数料といった費用についても、確認したほうがよいでしょう。

不動産会社選びや仲介手数料についてもっと詳しく知りたい人は、下記の記事も併せて参考にしてくださいね。

●不動産会社選びや仲介手数料についてはこちら
媒介とは?媒介契約の種類や選び方を紹介
不動産売買にかかる仲介手数料とは?上限と計算例、ポイントを解説

[ 4 ] 債権者への確認

売却(売出)価格や返済時期(売却時期)の見通しが立ったら、正式に任意売却を承諾してもらえるか、金融機関へ確認します。特に、売却後に残債がある場合はその金額次第では、任意売却の承諾が得られないことあります。金融機関との協議は密に行うことが得策です。

住宅ローンを借りる際には、ローンが返済できなくなった場合に備え、担保として不動産に抵当権を設定します。抵当権は、万一返済が滞った場合に、その不動産を売却して得られた資金から優先的に返済を受けることができる権利です。

この抵当権が付いたままでは、売却することができません。本来であれば、ローンを完済して債権者に抵当権を抹消してもらいます。ところが、完済できない場合は、債権者である金融機関と相談し、ローンが残ったままでも抵当権を抹消してもらえるよう、事前に承諾を得る必要があるのです。

また、売却期間も債権者に決定権があるため、売却が可能な期間に設定してもらえるよう、相談をしましょう。

金融機関で相談する男性

[ 5 ] 任意売却の開始

債権者の同意が得られたら、不動産会社と媒介契約を結びます。多くのケースでは、売却期間は1か月~6か月ですが、競売を避けるために、早い売却を目指しましょう。

また、ほとんどの場合は、家に住みながら売却活動を行うことになります。購入を検討する人が家を見学することになるため、いつもより念入りに清掃をし、内覧の際には感じよく対応することも早く家を売却するためには大切なポイントですよ。

[ 6 ] 売買契約の締結

買主と売買条件について合意が得られたら、債権者へ購入申込書と売買代金配分表を提出します。売買代金分配表には、物件概要や売却代金などを記載します。ここに売却にかかる諸費用の明細も記入することになります。これらの書類は不動産会社が用意してくれますよ。

諸費用には仲介手数料や登記費用(司法書士に依頼した場合の報酬を含む)、印紙代、固定資産税など売買にかかわる費用のほか、引越し代を記載することもできます。

また、マンションの管理費や修繕積立金を滞納している場合、分配表に記載して相談してみましょう。債権者によっては、売買代金からこれらの滞納分への支払い(分配)を認めてもらえないケースもありますが、こうした詳細について報告し、債権者の合意を得ることが大切です。

債権者に合意が得られて初めて、買主と売買契約を結ぶことができます。売却活動中から債権者へ丁寧に状況を報告しておくことが重要になります。

握手

[ 7 ] 不動産の決済・引渡し

売買契約後、売主・買主双方の準備が整ったら、不動産の決済と引渡しとなります。任意売却の流れは通常の売買と同じです。任意売却でも、引渡し日の希望を出すことができるので、事前に金融機関と相談したうえで買主とも相談して日取りを決めましょう。

売却の目途が立ったら新居を探し、引越しの手配を行います。売却から新居への引越しまでの期間は、不動産会社に相談しながら行うと安心ですよ。

物件の明け渡しが必要ですから、引越し後に決済・引渡しとなります。決済当日は、仲介する不動産会社と司法書士が立会いのもと、売買代金の支払いとそのほかの清算を行い、鍵を引渡します。その後、同日中に司法書士が抵当権の抹消登記と同時に所有権の移転登記の申請を行います。

任意売却では、必ず決済・引渡しと同時に、売買代金配分表に従って代金を支払います。加えて、同日に抵当権の抹消手続きを行います。抵当権の抹消については、下記の記事も参考にしてください。

●抵当権の抹消に関する記事はこちら

[ 8 ] 残債務の返済

売買代金ではローンの完済ができず、残った借入金の返済がある場合、任意売却後の残債の返済方法は金融機関によって対応が異なります。一括か分割での返済となりますが、多くの場合、債権者との間で毎月の返済額を相談し、無理のない範囲で返済していきます。

今後の生活費や収入予定などと照らし合わせながら、債権者と共に無理のない返済計画を立てましょう。

任意売却物件の売却を成功させるために

任意売却を成功させるために特に注意したいポイントを流れに沿って押さえておきましょう。

住宅街にいるビジネスマン

債権者と保証人の合意がないと任意売却できない

任意売却は、債権者や連帯保証人がある場合はその合意が得られないと進められません。合意を得るためには正直に状況を詳細に伝え、信頼を得ることが大切です。また、任意売却しても残債が残ってしまう場合は、その後の返済についても債権者と相談し、任意売却前に返済可能な計画を立てることも必要になります。

任意売却の売却期間は債権者が決定する

任意売却の売却期間は、債権者の同意を得て進めなければなりません。そのため、競売の申し立ての権利を持つ金融機関(債権者)が、任意売却の期限の決定権を持っているといえます。

売買契約にも債権者の合意が必要になる

任意売却の合意を得た後でも、売買の条件や対応次第では売買契約を認めてもらえない可能性もあります。売買契約の可否の判断で最も重要なのは売買条件ですが、債権者との対応も大切です。売却活動中も債権者に報告や相談を行い、信頼関係を構築しておくことが任意売却を成功させるポイントになりますよ。

任意売却の際は信頼できる不動産会社に相談する

任意売却物件の売却を成功させるためには、債権者との関係は重要なポイントになります。債権者との交渉をスムーズに進めるためには、任意売却を開始する際、任意売却に慣れた信用できる不動産会社へ相談することをおすすめします。

任意売却の実績がある不動産会社であれば、「債権者とどのように接すればよいのか」「どのような報告をすればよいか」など、丁寧に対応を教えてもらうことができますよ。

住宅ローンの支払いが厳しくなると、大きな不安となります。ただし、悩んでいるだけでは解決にはなりません。そこで、行うべきことを1つ1つ確認して、金融機関や不動産会社に相談しながら進めれば、その後の計画が立てやすくなります。

ローンの返済ができないかも…と思ったら、まずは金融機関に相談してから任意売却を行っている不動産会社へ相談してみてくださいね!

住宅ローンが払えなくなった場合の対処法については、下記の記事も併せて参考にしてください。

●住宅ローン返済できない場合の対処法についてはこちら

秋津智幸

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。物件の選び方や資金のことなど、不動産に関する多岐のサポートを行なう。