マンションの大規模修繕とは?購入前に知っておきたい、費用や工程をご紹介

マンションを購入するなら、あらかじめ知っておきたいのが「大規模修繕」です。たとえ新築マンションでも、時間が経過するほど建物や設備は劣化していきます。今回は、大規模修繕が必要な理由、費用や工程など、購入前に知っておきたい基礎知識についてご紹介しましょう。

目次
  1. マンションの大規模修繕とは?
  2. マンションの大規模修繕はなぜ必要?
  3. マンションの大規模修繕にかかる費用
  4. マンションの大規模修繕はどう行われる?
  5. 大規模修繕中の生活って?
  6. 大規模修繕はみんなが「当事者意識」を持つことが大切!
記事カテゴリ 売却 購入 費用 マンション
2021.09.21

マンションの大規模修繕とは?

マンションを購入するなら、あらかじめ知っておきたいことのひとつが「大規模修繕」です。
大規模修繕とは、経年に伴い劣化したマンションの建物や設備を定期的に修繕することです。特に、普段実施するのが難しい大がかりな建物本体(躯体)を維持するための修繕や共用部分の改修をいいます。何年ごとに行うかはマンションによって異なりますが、大体13年から16年程度の周期で行われるのが一般的とされています。

修繕工事期間中の暮らしの不便さや費用負担など、マンション(区分)所有者には負担がかかりますが、建物の安全と資産価値の維持のためには欠かせないものです。

そこで今回は、事前に知っておきたい大規模修繕の基礎知識をご紹介します。購入後、そのときが来てもあわてずに対応できるよう、ぜひチェックしてください!

外壁の補修工事をしているマンション

マンションの大規模修繕はなぜ必要?

そもそも、マンションの大規模修繕はなぜ必要なのでしょうか?その理由には、大きくは次の2つが挙げられます。

建物や設備は時間の経過とともに劣化するため

大規模修繕が必要な理由の1つは、建物や設備は時間の経過とともに劣化するためです。

購入時は新築のマンションでも、年数が経過すれば次第にさまざまな部分が汚れたり、傷んでくるのは避けられません。たとえば、外壁や屋根は紫外線や風雨にさらされるため、乾燥によるひび割れやタイルの剥がれなどが発生します。こうした劣化部分を定期的にメンテナンスすることが、大規模修繕の大きな目的です。

劣化により修繕が必要になりやすい箇所には、下記のようなものが挙げられます。

区分具体的な箇所
共有部分外壁、屋根、バルコニー、手すりなど鉄部分、給排水配管(共用管)、エレベーター、共用廊下・階段、エントランス、オートロックやインターホン、宅配ボックス、機械式駐車場、フェンスなど
共有部分のうち専用使用部分(個人使用が認められている共有部分)玄関扉(外側)、サッシおよび窓枠、バルコニーおよびルーフバルコニーの床や手すり、玄関ポーチ、1階の専用庭、専用使用駐車場、トランクルームなど

ちなみに、専有部分である玄関扉(内側)、給排水・ガス給湯配管の専有部分にあたる箇所(枝管)は、区分所有者が修繕しなければならないので注意しましょう。

資産価値を守るため

大規模修繕が必要なもう1つの理由は、マンションの建物の資産価値を維持するためです。
大規模修繕を行わないままマンションの建物の経年に伴う劣化を放置すると、雨漏りや設備故障によって生活に支障をきたしたり、見た目やイメージが悪くなったりすることがあります。また、故障や不具合だけでなく、付属する設備の仕様が古くなり、生活に不便さを感じることにもなります。

こうしてマンションの住宅としての暮らしやすさが損なわれると、その価値も下がり、将来、売却や賃貸として貸し出すとき、価格や家賃を下げざるを得なくなってしまいます。このようなことを防ぐためにも、大規模修繕は非常に大切な意味を持っているのです。

そのため、特に中古マンションの売買時には、大規模修繕の有無や内容、修繕計画などの修繕履歴や将来の予定を、重要事項説明で購入者へ告知することが義務付けられています。修繕がしっかり行われているかどうかは、マンション購入を決める大切な要素の1つなので、物件を検討するときには忘れずチェックしてくださいね。

大規模修繕が必要な2つの理由が明らかになったところで、次は大規模修繕には実際いくらくらいの費用がかかるのかを見ていきましょう。

工事中のマンション

マンションの大規模修繕にかかる費用

大規模修繕の費用は、マンションの規模や構造によって異なります。ここでは一般的な目安として、国土交通省が公表している大規模修繕の平均金額をご紹介しましょう。

マンションの模型とお金

大規模修繕費は一戸あたり100万円前後かかる

国土交通省が平成29年に調査した結果によると、マンションの大規模修繕の一戸あたりにかかった費用は、次の通りです。※1

最も多かったのは75万円~100万円(回答全体の30.6%)次いで100万円~125万円(同24.7%)、さらに50万円~75万円(同13.8%)となっています。

この調査結果からマンションの大規模修繕は、最も多いケースで1回の大規模修繕で一戸あたり、おおよそ100万円前後かかるということになりますね。総戸数が100戸のマンションで考えると、大規模修繕にかかる費用は約1億円となる計算で、非常に大きなお金が必要であることが分かります。

毎月1万円程度ずつ積み立てていく

マンションの大規模修繕の費用は高額になるため、区分所有者が毎月一定の「修繕積立金」を積み立てていきます。この修繕積立金の平均金額は、平成30年度の調査では1万1243円※2です。

ただし、今後はこの平均金額が上がっていく可能性があります。なぜなら、すでに平成25年度以前の調査と比べても上昇傾向にあり、「積立額が計画に比べて不足している」と回答しているマンションが34.8%存在するためです。

修繕積立金が払えないときは早めに相談を

修繕積立金が急激に値上がりして支払いが厳しくなったり、個人の経済的な事情で支払いが難しくなった場合、滞納する前に相談することが大切です。滞納が続くと管理組合で問題になり、場合によってはマンションに住みづらくなることがあります。また、訴訟に発展した場合、最悪、給与や口座が差し押さえられてしまうこともあります。

このような事態を防ぐには、支払いが厳しいと感じたら早めに管理会社や管理組合などに相談するようにしましょう。対応はマンションによって異なりますが、支払い日の延長、分納などの対策を取ってもらえる可能性があります。ただし、支払いを免れることはないので、どうしても管理費や修繕積立金の支払いが難しいようなら、早めに売却の検討をした方がいいでしょう。

マンションの大規模修繕はどう行われる?

次は、実際にマンションの大規模修繕がどのような流れで行われるのかを見ていきましょう。
近年では、マンションの規模によって大規模修繕の流れは大きく2つあります。

まず、大規模なマンションの場合は、管理組合の中に有志の「大規模修繕委員会」を発足させて進める形式が多くなっています。一方、中規模以下のマンションでは、マンションの管理組合の運営主体となる「理事会」が主導し、委託しているマンション管理会社と相談しながら進める形式が一般的です。

ここでは、大規模修繕委員会を発足した場合の大規模修繕の流れを、6つの過程に分けてご紹介します。

会議の様子

[ 1 ] 大規模修繕委員会を発足する
大規模修繕計画にある予定時期の数年前から、マンションの管理組合が大規模修繕委員会への参加希望者を組合員に向けて募ります。大規模修繕委員会は、毎月修繕積立金を払っているマンションの区分所有者である管理組合員ならば、誰でも参加資格があります。

大規模修繕委員会は、マンションの管理組合の中に理事会とは別に組織されることが一般的です。位置付けとしては、マンションの管理組合の理事会の下位組織ということになります。

しかし、募集に対して参加人数が不足したり、管理組合が不要と判断するなどの理由で大規模修繕委員会が発足されなかった場合は、中規模以下のマンションの一般的な形式で進めることになります。この場合、マンションの管理組合は「理事会」を中心に、マンションの管理会社と相談、協力しながら大規模修繕に関する方針や計画を練り、計画案や予算の作成をマンション管理会社に依頼することになります。

[ 2 ] 物件の診断を行い、劣化状況を調査する
大規模修繕にあたっては、まずマンションの「建物調査」を行います。建物調査で行うのは、建物や共用設備の劣化状態や改修・更新の必要な箇所についての現状確認です。修繕や更新が必要な箇所の特定、その最適な修繕方法の提案、提案に基づくおおよその予算(見積もり)を、報告書や提案書という形で依頼する業者に提出してもらいます。場合によっては、修繕や更新の必要な箇所の特定や修繕方法の提案のみを依頼するケースもあります。

建物調査は、大規模修繕専門のコンサルタント会社や建設会社、マンションの施工会社などによって行われます。大規模修繕委員会の役割は、これらのどこに調査を依頼するのかをきちんと見極めることになります。調査の結果や修繕・更新の提案内容に応じて大規模修繕の予算が見積もられるため、重要なポイントです。通常、複数の調査見積もりを取り、調査の依頼先を決定します。

[ 3 ] 大規模修繕の方針を決定する
建物調査で建物の状態を把握したら、次は大規模修繕の方針と計画を決定します。
通常、大規模修繕計画が策定されている場合はその計画を基に、大規模修繕委員会が提出された建物調査結果や提案書やおおよその見積もりを参考にして、修繕や更新の対象となる箇所の工事内容や予算を話し合っていきます。なお、計画に対して積み立てられた資金が足りない場合は、修繕箇所を予算の範囲内に絞り込むことが多くなりますが、どうしても修繕が必要な箇所がある場合には一時金の徴収を検討することもあります。

ちなみに、大規模修繕の内容はマンションの築年数や過去に行った大規模修繕の内容によって変わります。先の国土交通省の調査によれば、一戸当たりにかかる大規模修繕工事費は1回目が最も高く平均100万円/戸、2回目が97.9万円/戸、3回目が80.9万円/戸という結果になっています。

以上のような事情を踏まえ、方針が固まったら、大規模修繕委員会は管理組合総会を開催して、組合員の合意を得て方針を決定します。

打ち合わせ

[ 4 ] 見積もりを依頼する
大規模修繕の基本的な方針と計画が決定したら、正式な見積もりを依頼します。複数の会社から見積もりを提出してもらい、再度施工箇所の詳細、施工方法や施工期間、費用などを比較するのが一般的です。

[ 5 ] 工事会社を決定する
提案された見積もりを基に工事会社を決定する際は、大規模修繕委員会が、提案された修繕内容と見積もり金額を精査して、1社ないし2社の候補を選定して、マンションの区分所有者全体の総意を決定するための再度管理組合総会を開催します。総会は以下のような内容で進みます。

・選定された候補となっている工事会社、提案された見積もりの内容(修繕内容、工事体制や工期、工事費用など)を組合員に提案
・質疑応答
・議決を取る
・規約で定められた組合員の賛成が得られれば、大規模修繕工事の委託先が決定
・委託先の決定後、正式に管理組合と工事会社の請負工事を契約

この議決に必要な賛成者数は、大規模修繕の程度によって異なります。通常、共用部分の軽微な変更の場合は過半数、重大な変更の場合は3/4以上の賛成が必要です。

[ 6 ] 大規模修繕工事を実施する
大規模修繕工事の契約締結後、大規模修繕工事が実施されます。
工事にかかる期間の目安は、マンションの規模によって大きく変わり、50戸程度のまでの小規模マンションで約2か月~3か月、それ以上の中規模マンションでは約5か月~6か月程度です。しかし、大規模なマンションや修繕内容が多岐にわたる場合は、全体が完了するまでの工期が1年に及ぶ場合もあります。

大規模修繕工事は、施工する工事会社やコンサルタントなどから提出された工事計画をもとに行われます。大規模修繕委員会(委員会が設置されない場合は理事会)のメンバーは、大規模修繕工事が工程の通りに行われているか、進捗状況を確認する必要があります。または、大規模修繕の管理を、専門のコンサルタント会社や管理会社に委託している場合は、途中経過の報告を求めることができます。

大規模修繕工事の代表的な工程には次のようなものがあります。

・組合員、居住者への通知
・共通仮設物や足場の設置
・外装工事(外壁、屋上、ベランダなど)
・建物内共用部工事(共用廊下、階段、壁面・天井など)
・共用設備(エレベーター、オートロックなど)の工事およびリフォームなど

大規模修繕工事中、大規模修繕委員会は、工事会社と居住者のかけ橋となり、工事の推進と居住者の理解に努める役割を担うことがあります。

大規模修繕中の生活って?

大規模修繕工事中は、マンションの居住者の日常生活に少なからず影響が及びます。
たとえば、大規模修繕工事では建物全体に足場を設置し、外壁やベランダの工事を行います。そのため、作業のために自宅のベランダに人の出入りがあり、足場の保護シートがあるため、洗濯物を外に干せなくなります。また、作業時間中は、臭いや粉じんが室内に入るのを防ぐため、窓を開けられなくなったりすることもあります。ほかにも、下記のようなことを求められる場合があります。

・ベランダの物は全て室内にしまう(ウッドデッキや植物などは撤去を求められる場合も)
・網戸を外し、一時的に室内に保管する
・BSアンテナやCSアンテナなどは取り外して保管する
・エアコンの室外機を移動する
・駐車場の車を移動する
・廊下や階段の工事中は、建物内で迂回する

一定期間のストレスや不便は否めませんが、スムーズな工事のためには居住者の理解と協力が必要です。しかし、立ち合いが必要な場合の作業日程や荷物の一時的な搬出などで協力が難しい点があれば、大規模修繕委員会や管理組合へ相談してみましょう。

大規模修繕はみんなが「当事者意識」を持つことが大切!

マンションと自転車に乗る人

約13年~16年に1度行われることが多い大規模修繕は、同じマンションに30年~50年住み続けた場合には、3度経験する計算になります。

新築マンションでは、当面大規模修繕はありませんが、修繕積立金の額があまり少ないと大規模修繕時に必要な金額に不足することもあるので、修繕積立金の額がどのように変わっていく計画なのか、大規模修繕計画案とともに確認した方がよいでしょう。

また、特に中古マンションの購入を考えている人は、検討しているマンションの次の大規模改修工事の予定がいつ頃なのか、大規模修繕用に積み立てられている積立金の額は十分かなど、大規模修繕に関係することについて確認することを忘れないようにしましょう。

大規模修繕では、稀に何らかの理由で工期が延びるといった工事期間中のトラブルや、工事完了後に補修箇所から雨漏りやタイルの剥がれが見つかるなど工事後のトラブルが起こることもあり得ます。

このようなことを防ぐためには、工事会社の選定が最も大切です。大規模修繕工事の経験が少ない工事会社などでは、規模の大きなマンションでは対応しきれないケースもあるようです。また、こうしたケースが発生した場合に備えて、アフターサービスの有無なども選定のポイントになります。

大規模修繕の委託先の選定については、マンションの区分所有者に議決権がありますから、こうした点までマンションの区分所有者一人ひとりが当事者意識を持つことが大切です。

マンションを購入した際には、大切な住まいのために、ぜひ大規模修繕に対して積極的に発言したり、協力するようにしてくださいね!

※1 出典:マンション大規模修繕工事に関する実態調査, 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001234283.pdf
(最終確認:2021年7月14日)

※2 出典:平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状, 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001287570.pdf
(最終確認:2021年7月14日)

秋津智幸

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。物件の選び方や資金のことなど、不動産に関する多岐のサポートを行なう。