熟年離婚の財産分与はどうなる?年金や退職金、持ち家の分け方について解説
熟年離婚の財産分与は、財産の額が多くなったり、年金や退職金が含まれたりと、若い頃に離婚する場合とは違った点があります。この記事では、財産分与をスムーズに進めるために知っておきたい財産の対象や分割方法について解説します。
熟年離婚の財産分与はどうなる?
長年連れ添った夫婦でも、やむを得ず熟年離婚を選択することもあるでしょう。熟年離婚とは、一般的に結婚してから20年以上が経過したタイミングでの離婚のことをいい、若い年齢での離婚と大きく異なる点は、財産分与にあります。
婚姻期間が長ければ長いほど分ける財産が多くなり、年金や退職金が財産に含まれることもあるため、問題が発生しやすくなるのです。また、熟年離婚の場合、夫婦が高齢になっていることから収入が少ない傾向にあり、その後の生活や相続についてもよく考える必要があります。
そこで今回は、話し合いや手続きをなるべくスムーズに進められるよう、熟年離婚の特徴を踏まえて財産分与の対象や方法についてご紹介します。
財産分与とは?
まず最初に、財産分与について解説します。財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が共に築いた財産を離婚時に分割する制度のことをいいます。財産分与の対象になるのは夫婦の共有財産のみです。ただし、専業主婦(夫)で仕事をしていない場合でも、結婚期間中の収入は仕事をする相手を支えたことで得られたものと見なされるため、共有財産といえます。では、その詳しい内訳を見ていきましょう。
分与の対象になる財産
財産分与の対象となるもの(共有財産)は、具体的には以下のようなものが当てはまります。また財産分与は、財産の名義に関係なく行われます。
・不動産
・車
・保険の解約返戻金
・結婚後に購入した家財
・年金
・退職金
・預貯金
・夫婦生活のために借りたローンなど
年金は財産分与に含まれますが、第2号被保険者(雇用されている人が加入する厚生年金の被保険者)が支払う厚生年金のみが分割の対象となります。
分与の対象にならない財産
財産のなかには、分与の対象にならない「特有財産」もあります。特有財産とは、夫と妻のどちらか片方の財産と見なされるものを指し、特有財産には以下のようなものが挙げられます。
・結婚前の貯金
・結婚前に購入したもの
・どちらかの親から相続して取得した財産
・個人的な借金
熟年離婚では、分与の対象となる夫婦共有財産が多岐にわたる可能性があるため、離婚前にどのような財産があるか調べておくことが重要です。
財産分与の方法、割合や期限
財産分与には、分割時の割合や請求可能な期限がもうけられています。また、一概に財産分与といってもその方法はさまざまです。ここからは、財産分与する際に重要な割合や期限、状況に応じて選択すべき分与方法を解説します。
3つの財産分与方法
財産分与の方法は、大きく分けて3つの種類があります。
清算的財産分与
3つのなかで最も一般的とされている財産分与の方法が、清算的財産分与です。清算的財産分与とは、婚姻期間中に2人で協力して形成した財産を清算する分与方法です。具体的には、下記のようなものが清算的財産の対象にあたります。
・家や土地
・車
・預貯金
・株式証券
・各種保険
・貴金属
・絵画
扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚後、夫婦どちらかの生活が経済的に厳しくなってしまう場合に、その生活を補助する目的によって財産が分配される方法です。一般的には、離婚後、経済的に立場の強い配偶者が立場の弱い配偶者を扶養するために、一定額を定期的に支払うことになります。
扶養的財産分与の具体的な金額は決められていません。元配偶者の離婚後の生活を維持するために、目安として半年から3年、毎月数万円程度が支払われます。細かい金額や期間については、双方の話し合いのもとで決定しましょう。
扶養的財産分与は、相手の生活を維持するためのものであり、婚姻生活中(別居中)の婚姻費用の分担とは異なるため注意が必要です。
慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、一方に非がある配偶者の有責行為を理由として離婚に至ったケースで、相手の精神的な苦痛に対する慰謝料として財産分与を行うものです。有責行為に該当するのは不倫やDVなどが該当します。この分与方法では、慰謝料も含めて支払い額や支払い方法を定められます。
なお、慰謝料的財産分与は金銭以外にも請求ができるという点で慰謝料と異なります。慰謝料は通常、現金で支払われますが、慰謝料的財産分与ではペットや有価証券、不動産といった現金以外の財産を請求することが可能です。
慰謝料的財産分与には、被害者と加害者の双方にメリットがあります。被害者は自分にとって価値のあるものを手元に残すことができます。一方で加害者側には、被害者にとって大切なものを慰謝料的財産分与に充てることで、実際の金額的な支出を抑えたうえで被害者に納得してもらえる可能性があります。
財産分与の割合
婚姻生活中、片方しか収入を得ていなかった場合には、元夫婦間で財産分与の際に受け取ることのできる金額が異なると考える人も多いでしょう。しかし、財産分与の割合は、原則2分の1とされています。そのため、専業主婦(夫)であっても財産の2分の1を受け取る権利があるのです。ですが双方の合意によっては、分割割合を変えられるケースもあります。夫婦ごとに所有している財産の量や分与方法が異なるため、財産分与の割合もそれぞれ異なることを覚えておきましょう。
財産分与の請求期限
財産分与における調停や審判の申し立ての請求期限は、2年間と定められています。この2年間は除斥期間であり、期間の経過のみで権利が消滅してしまうため、中断や延期をすることができません。期限をすぎると、相手の同意なしには財産分与を受けられなくなってしまうため、注意が必要です。
さらに離婚してから時間がたつと、相手との連絡を取りにくくなる傾向があり、財産分与の手続きをスムーズに行えない可能性があるほか、相手に財産を隠される恐れもあります。そのため、財産分与の請求は離婚をするタイミングで行うことがおすすめです。
離婚後の財産分与を検討する際には、トラブルを防ぐためにも法律事務所に相談する、弁護士へ依頼するなど、状況に応じて柔軟な対応をしましょう。
マイホームを分けるには?
熟年離婚の場合、若い年齢での離婚に比べてマイホームを所有しているケースが多いです。家も財産分与の対象になりますが、現金や株式のように、物理的に2つに分けることはできません。では、持ち家を分ける際にどうしたらよいのか、マイホームの分け方について解説していきます。
売却する
マイホームを平等に分けるのに最も効果的なのは、家を売却し、その売却で得たお金を分け合う方法です。土地や建物などのそのまま分割できない財産は、現金化することで明確に折半できます。
家の売却には不動産仲介会社を経由する方法や、直接買取、リースバックなど売却スピードや売却価格の優先度に応じてさまざまな手段があるため、それぞれの状況に見合った適切な売却方法を検討しましょう。リースバックとは、家を不動産会社に買い取ってもらい、現金化した後に賃貸契約を結ぶことで、同じ家に住み続けられるという売却方法です。
ただし、住宅ローンの残債が家の売却価格を上回るオーバーローンの場合には、売却時に条件があり、使用できる売却方法も限られるため注意が必要です。
離婚による家の売却時は、住宅ローンの状況、家を売りたい時期や価格をあらかじめ把握しておくことをおすすめします。
どちらかに譲渡する
マイホームを売却せずに分ける方法として、どちらかに譲渡するという選択肢があります。たとえば、一方が家をもらう代わりに、もう一方が家と同等評価額の半額をもらうといったケースです。
家を売却する場合でも、どちらか一方がもらう場合でも、双方が納得のいく分与にするためにまずは家の評価額を知る必要があります。評価額とは、土地や建物にかかわる税を計算する際に基準となる、不動産の価値を示す価格のことです。
家の評価額は不動産査定で算出が可能です。不動産会社が行う査定には、気軽に受けられる「AI査定」や「簡易査定」、精度の高い査定が得られる「訪問査定」があり、どれも無料で受けられます。自らの状況にあった査定を依頼してみるとよいでしょう。
住宅ローン返済が残っている場合
熟年離婚なら住宅ローンを完済している人もいるかもしれませんが、住宅ローンが残っている場合についても見ていきましょう。
家の所有者と住宅ローンの債務者が一致している場合
財産分与後、家の所有者と住宅ローンの債務者が一致している場合は、住宅ローン返済に関して心配することはありません。所有者がそのまま自分名義のローン返済を続けるだけでよいでしょう。
家の所有者と住宅ローンの債務者が異なる場合
財産分与後、家の所有者と住宅ローンの債務者が異なる場合、家の所有者は相手が住宅ローンの支払いを継続しているか監視しなければなりません。一方で、債務者は自分が住んでいない家の住宅ローンを支払い続けることになります。
万が一債務者が住宅ローンの支払いを怠った場合、抵当権を持っている金融機関に家を差し押さえられる恐れがあります。このような事態を防ぐには住宅ローン名義を家の所有者に変更し、対処するとよいでしょう。
年金分割の方法
熟年離婚の場合、年金の分与は特に気になるポイントです。婚姻期間中に専業主婦(夫)であり、元配偶者による収入で生活をしていた人のなかには、離婚後の収入や年金について不安を感じる方もいるでしょう。そのようなときに知っておきたい制度が年金分割です。
年金分割とは、夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金として受け取れる制度です。この制度には、年金を平等に受け取ることができ、離婚後も安定した生活を図れるといったメリットがあります。年金分割の割合を決める方法としては、下記の2つがあります。
合意分割
合意分割とは、夫婦間での相談を経て保険料の分割割合を決定するか、裁判所に分割割合を決定してもらう方法で上限は2分の1とされています。請求期限は原則として離婚した翌日から2年です。
3号分割
3号分割とは、夫婦の片方が第3号被保険者(第2号被保険者の配偶者)である場合に適用される年金分割の制度です。配偶者が第2号被保険者(雇用されている人などが加入する厚生年金の被保険者)で婚姻期間中に厚生年金を支払っていた期間は、相手の合意がなくても第3被保険者が自動的に2分の1の保険料を支払ったと見なされます。
子どもの相続はどうなる?
離婚が成立した際、元配偶者は法律上他人同士の関係となり、相続権はなくなりますが、親子の血縁関係に変わりはないため子どもには相続権があります。そのため、子どもが元配偶者に引き取られているケースでも、相続する必要があるのです。
元配偶者が亡くなった場合には、元配偶者の家族構成によって子どもの相続分が異なるため3つのパターンを解説します。
元配偶者に再婚相手がいない場合
相続人は元配偶者との子どものみであるため、全ての財産を子どもが相続することになります。
元配偶者に再婚相手はいるが子どもはいない場合
子どもと再婚相手の2人が相続人となり、子どもは2分の1の相続分を得られます。
元配偶者に再婚相手とその子どもがいる場合
再婚相手との子どもは実の子として1親等の地位を得るため、この場合の相続人は子ども、再婚相手、再婚相手との子どもが該当します。この場合、再婚相手の相続分が2分の1となるため、子どもと再婚相手との子どもはそれぞれ4分の1ずつの相続分を得られます。
財産分与は計画的に!
ここまで、熟年離婚の財産分与について解説してきました。財産分与には、さまざまなプロセスが存在し、自分たちの話し合いだけでは難しい場面や決定できないことが出てくることもあります。そのような際には弁護士に相談し、スムーズに手続きを進めることがおすすめです。
また、熟年離婚は若い年齢での離婚に比べ、マイホームや年金など財産の量が多い傾向にあります。数ある財産のなかでも、マイホームは特に大きな財産であり、分与の際、マイホームの処理には多くの時間を要するでしょう。売買が決まるまで、最低でも3か月程度はみておく必要があるため、早めに査定を行い家の価値を把握しておくとよいでしょう。
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宮原裕徳
株式会社ラムチップ・パートナーズ 所長。税理士。日本のみならず、東南アジアも含めた不動産にかかわる会計・税務に精通している。法人や個人向けに節税セミナーなども行っている。
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