マンションは建て替えするの?実施の流れや負担額を解説

老朽化した場合、気になるのは「建て替えとなったら賛成すべきか?」「建て替えとなったときの費用の負担は?」という2点ですが、実際に建て替えをしているマンションはわずかです。今回は、中古マンションの建て替えについてご紹介します。

目次
  1. 実際に建て替えをしているのはわずか
  2. 建て替えまでの4つの流れ
  3. 建て替えに必要な負担額は?
  4. 負担が大きい場合は自宅の売却も視野に入れよう
記事カテゴリ 費用 マンション
2021.06.17

実際に建て替えをしているのはわずか

中古マンションに住んでいる、あるいは購入を検討しているけれど、長く住んだ場合にマンションの老朽化が心配という人は多いでしょう。

老朽化した場合、気になるのは「建て替えとなったら賛成すべきか?」「建て替えとなったときの費用の負担は?」という2点ですが、実際に建て替えをしているマンションはわずかです。

今回は、中古マンションの建て替えについてご紹介します。

工事中のマンション

マンションの建て替えはほとんど進んでいません。令和2(2020)年4月1日時点で発表された国土交通省のデータによると、準備中を含めてわずか295件にとどまっています。

しかし、実際の建て替え実績の中には、再開発などにより築年が比較的新しい新耐震のマンションも含まれるため、本当に建て替えの必要な老朽化が進むマンションでもほとんど建て替えは進んでいないといえます。

建て替えが進まない中、建物の寿命を延長する対策は「大規模修繕」です。大規模修繕とは、外壁や屋根、エントランスなど建物の共用部分、EVや機械式駐車場などの共用設備の経年劣化、陳腐化を定期的に修繕するもので、マンションの建物を維持し資産価値も維持する目的があります。

それでは、次に実際に建て替えが決まった場合はどのような流れで行われるのでしょうか?次項で詳しくご紹介しましょう。

●マンションの大規模修繕に関する記事はこちら
マンションを購入する前に知っておきたい、大規模修繕とは?かかる費用や工程をご紹介

建て替えまでの4つの流れ

マンションの建て替えは「準備」「検討」「計画」「実施」という、4つのプロセスに沿って行われます。完了までにかかる期間は、非常にまれなケースですが約7年というものもあります。しかし、通常は10年以上かかることがほとんどで、長いものでは15年、20年というケースもあります。

工程表と模型

[ 1 ] 準備段階

最初に行われるのは、建て替えを検討すべきかどうかという協議です。

建物は、築年数を経るほど老朽化が目立ってきます。建物の老朽化を起因とする建て替えの場合、築40年過ぎたあたりから建物の状況をチェックし、早ければこの段階から専門家を交えて管理組合での話し合いが始まります。

[ 2 ] 検討段階

この管理組合の中での検討段階では、建て替えを行うか、それとも次回も大規模修繕を行い、建て替え時期を延長させるかという検討を行います。正しい判断をするためには、委託しているマンション管理会社や、建設会社やマンション管理士(コンサルタント)などの外部の専門家に正式に依頼します。
その段階で、管理組合の内部に建て替え検討委員会などを立ち上げます。検討の結果、修繕より建て替えが適切と管理組合(理事会)で判断されれば、管理組合の内部に「建て替え推進決議」を行って計画段階に移ります。

[ 3 ] 計画段階

どのように建て替えを行っていくのか、具体的な計画を立てる段階です。管理組合は、下記について一つひとつ協議相談しながら計画を詰めていきます。

・設計・施工するデベロッパーの選定
・建て替え計画全般(建築・事業)の検討
・区分所有者との意見交換など合意形成の準備
・管轄行政等との調整、近隣住民との協議など

一通り建て替え計画の案が決まったら住民(組合員=区分所有者)説明会を経て「建て替え決議」を行います。計画案に基づく組合員(区分所有者のこと)の賛否を確認するもので、5分の4の賛成が得られれば建て替えの実施が決定されます。決定すれば、マンションの建て替えを進める団体法人として「建替組合」が設立され、次の実施段階でさまざまな手続きを行っていきます。

●賛否の意見を求められたときの3つの選択肢
もし自分のマンションで建て替え決議が必要な段階になり、賛成か反対か意見を求められた場合、負担する費用の有無やその負担額が賛否の判断材料の重要なひとつとなるでしょう。
たとえば、負担する費用が少なく(または全くない)といったように負担が軽ければ賛成するかもしれません。費用を負担する資金がなければ、反対または持ち家を売却するということになるかもしれません。

建て替えについての賛否の判断は、負担の有無や金額だけではありませんが、負担する費用が大きな判断基準となりますね。

なお、マンションの建て替えは、区分所有者の4/5以上の賛成があれば、建て替え決議が成立します。仮に、自分は反対していたのに建て替えが決まってしまった場合は、区分所有法に従って「区分所有権の売渡請求」という建替組合から物件を時価で売り渡すように請求されることがあります。
この場合、財産上の権利は対価の支払いで保護されることになりますが、区分所有法の手続きを経て立ち退きを求められれば、居住することはできなくなります。

打ち合わせをする男女

[ 4 ] 実施段階

最後はいよいよ、実際に建て替えを行う段階です。実際に建て替え工事を始める前には、所有者の権利(区分所有権、敷地利用権、住宅ローンの抵当権など)を古いマンションから新しいマンションへ移すための最終的な手続きが行われます。

また、建て替え工事を行っている間、居住者は仮住まいへ引越さなければなりません。もし住宅ローンが残っている場合、その間はローンの支払いと仮住まいの家賃の両方を負担することになります。

建て替えの賛否を決める際は、これらの支払いまで含めた建て替え費用の負担ができるのかを慎重に検討することが大切です。次項では、建て替え費用や負担額が減る可能性についてご紹介しましょう。

建て替えに必要な負担額は?

分譲マンションの建て替えでは、基本的に区分所有者が費用を負担することになります。建て替え費用の目安額や内訳は、どのようになっているのでしょうか?

電卓と模型

自己負担は1000万円~3000万円ぐらい

建て替えを行う場合の自己負担額の目安は、1戸あたり1000万円〜3000万円程度といわれています。ただし、これを超える負担が発生する場合もあります。負担額の内訳は「解体費用」「建設費用」「設計費用」「事務経費」のほか、仮住まい費用などです。

解体費用と設計・施工費用は、マンションの周辺環境、建物の構造、階数や延床面積などの規模、新築するマンションで採用する設備のグレードなどによっても異なります。延床面積がより広く、高さが高く、さらにグレードが高い物件ほど費用が上がると考えてよいでしょう。

自己負担額が減る可能性がある

建て替え費用は高額になりますが、住民の自己負担額が減る可能性があります。

建物を建築する際、「容積率」といって、敷地面積に対してどの程度まで延床面積(建物の延べ面積)が認められるかという基準が地域ごと決められています。マンションを建て替える際、既存のマンションがこの容積率を十分に活かしておらず、新築するマンションではこの容積率いっぱいまで住戸を増やし、増やした分を売却し、その資金を建て替え費用の一部に充てることも可能です。

ただし、既存の建物がすでに容積率に対していっぱいまで活用して建っている場合には、現在の延床面積以上にはできないため、自己負担分の減らすことは難しくなります。

もし、現在お住まいのマンションの容積率に余裕がある場合は、建て替えの際に自己負担を減らすことができるかもしれません。

負担が大きい場合は自宅の売却も視野に入れよう

営業マンと夫婦

建て替え費用の自己負担はマンションによって差がありますが、急に1000万円以上の出費を迫られるのはやはり厳しいと思われる人のほうが多いでしょう。
このような建て替え負担を避けるために、これから中古のマンションの購入を検討している人は、築年数の古いマンションを購入する際には、あらかじめ老朽化リスクや建て替えの可能性を考慮して購入の判断をすることが大切です。

また、すでに現在、築年数の古いマンションにお住まいの場合、建て替えとなるとその費用負担が重いと感じたら、建て替えの話が管理組合で話が出る前に、売却も選択肢に入れておくとよいでしょう。売却したお金で、今のライフスタイルに合う住まいを新たに探せるかもしれません。

ただし、建て替えが計画され始めてから売却に出すのでは、買い手が付きにくくなってしまいます。売却を検討するなら、建て替え計画が始まるより前に動き出すことが大切です。
まずは不動産会社に相談して、査定してもらうところから始めてみましょう!

秋津智幸

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。物件の選び方や資金のことなど、不動産に関する多岐のサポートを行なう。